第3話 決意

地球最後の日まで残り1ヶ月30日



~月城奏多~

少し時を遡り、6時30分



「じゃあな!」

そう言うと勇輝は後ろに振り返り、早足で帰っていった。

「大丈夫かなーー。」

昔から人一倍元気があるのだけが取得なようなやつだ。あんなに不安そうに取り乱すことなんて見たことがなかった。

後で電話を掛けてやろう。

重い荷物を持ち直し、俺も帰路に着いた。


家に着くと、荷物を置きすぐに電話を掛けた。

日向美は強がりだが、本当はとても怖がりだ。早く電話を掛けないとーー。

掛けて1秒ほどですぐに電話に出た。今、掛けようか迷っていたのだろうか。携帯を手に持っていたのだろう。

「奏多!ねえ、どうしようーー!」

「大丈夫、落ち着いて。今日、俺と勇輝は生き延びる為に準備をしてきた。」

「準備?どうすればいいの?!助けてーー。」

「大丈夫、大丈夫だよ。」

出会った頃は弱みなんて全く見せないように振舞っていたが、打ち解けていく内に少しづつ俺に頼ってくれるようになった。

だからと言ってここまで取り乱すことは初めてだった。

「私達どうなっちゃうの、怖いよ。」

「明日4人で会う約束をしてるんだ。そうだなーー1時に中央公園に来てくれ。そこでゆっくり話すから。」

ゆっくりと説得するように分かりやすいように喋った。

「大丈夫、何があっても俺が守るから絶対。大丈夫だよ。」

安心するまで繰り返し。

「ちゃんと、明日会ってねーー?」

少し返事を迷ったような間があったが、そう返ってきた。

「ああ、必ず。今日はもう寝て、ゆっくり休んで。明日に備えよう。心配しなくても大丈夫。」

「うんーー。おやすみ。」

「おやすみ」

相手が電話を切るまで待った。

予想以上に気が動転していたけど、どうにか落ち着いたみたいだ。

大丈夫、大丈夫。

日向美を安心させる為に言ったつもりだったが、自分への 暗示にもなっていたなーー。

いや、大丈夫、俺なら出来るはずだ、3人を落ち着かせてまとめてーー、全員で生き延びる道を作る。

恐らくそれが出来るのは自分だけだろうと我ながらに自覚していた。

最後は政府の行動によるが、それまでは必ず生き残る。最後は政府頼みってのも感に触るけどーー。

仕方ないんだ。俺達は所詮ちっぽけな人間なんだから。

「あーあ!」

考えるのを打ち切るように、わざと大きめの声でため息混じりに言う。

今、そんな事を考えてもどうにもならない。

勇輝に電話して、それから寝よう。明日が、きっと勝負どころだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「早くしろよ!かなた!」

「ちょ、ちょっと待って!早いよー。」

勇輝にとにかく着いてこい!っと言われて森の奥まで入ってきたわけだがーー。

勇輝はぐんぐん進むのになかなか着いていけない。

「にしても、こんな所入ってきていいのかな?」

疲れた俺はその場に立ち止まり膝に手を付き呼吸を荒くさせながらも聞く。

「いいかどうかなんて知らねーけど、とにかく着いてこいよ!」

「ちょときゅうけい、させてーー。」

思っていたよりも限界が来ていたらしくへたっとその場に座り込んでしまう。

「ったく、お前は体力ないなー。」

そう言いつつも勇輝が隣に座る。

「勇輝があり過ぎるんだよ。」

「えー!そんなことねーよ!」

ーーー。


しばらく休憩した後にまたしばらく走った。

5分ほど走ったぐらいだったと思う。急に目の前が開けて日が差して一瞬真っ白な世界に包まれる。

まぶしさに目を瞑り、次に目を開けるとそこにはーー。

「うわぁーー。」

俺達の住む田舎町が一望出来る共に、遠くには海とその上に大空が広がっていた。

蝉の声が水平線をゆらゆらと動かしているようで、目に入るもの全てが息を飲むほど綺麗だった。

「ほら!きれー だろ!」

勇輝が泥だらけのくせに自慢げに胸を張りながら言う。

「うん、良くこんな所見つけれたねーーあれ?」

何故かこの景色を見たことがある気がして引っかかる。

何で見たことがあるんだろうーー。あっそうだ。

「そういえば、ここの近くに展望台無かったっけ?」

「えっ、そうなのか?」

高い崖の上だったが慎重に少し身を乗り出して左右を見ると、

「ほらそこ!」

少し出っ張った崖の上に気の柵の着いた展望台が見えた。勿論そこまでの道は綺麗に整備してあるはずだ。

「マジかよー!俺だけの景色だと思ったのに。」

楽に来れなかった事ではなく、そこに心底ガッカリする勇輝を見ていると笑いがこみ上げてきた。

「あははっ!」

「何で笑うんだよー!くそー。」

しばらくお腹を抱えて笑っていると突然、足元がぐらついた後、浮遊感に襲われる。

「かなた!」

勇輝が咄嗟に手を出して俺の手首を握る。

ガラっと俺の下を落ちていく石とゆらゆらと揺れる自分の足を見てようやく分かった。

どうやら笑っていた時に少し崖が崩れてバランスを崩し、落ちてしまったみたいだ。

「うぅ、くそっ!」

勇輝がもう片方の手でも使い俺を引き上げようとしてくれるが子供の体力には無理があるようだった。

「ゆうき、離して!ゆうきも落ちちゃうよーー!」

「なに、言ってんだよ!もう少し、だから大人しく、待って、ろ!」

そう言って勇輝が踏ん張った同時に手が汗で滑り再び俺の体は落下する。

「わっ!」

勇輝はまた掴み直そうとしたが、力が入らず俺と共に重力に引っ張られて崖の底へと落ちる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「勇輝!」

目を見開き、ばっと状態を起こし飛び起きる。全身は汗まみれで、肩で息をしている。

ーーああ、夢か。そう思うと息も整いはじめ、目をゆっくりと伏せる。

「最悪な寝起きだな。」

ベットから起き上がると洗面所に向かい身支度をしながら思い出す。

あれは俺が小学3、4年生の頃だったと思う。

あの後、目が覚めた時は俺は病院のベットの上に居たが、怪我はさして酷くは無く全治に2、3週間の擦り傷、切り傷、打撲というところだった。

何故ここまで軽傷だったかと言うと、俺達が見つかった時勇輝が俺を庇って下敷きになったていたのだと聞いた。結局、勇輝が全治2ヶ月の大怪我をしたのだった。



午後1時

中央公園にて



「お、もう全員来てたのかー!」

ひらひらと手を振りながら軽い駆け足で3人の元へ行く。

日向美は少し顔色が悪い、あまり眠れなかったようだな。由梨は比較的落ち着いてるけど、少し不安そうだ。勇輝はーー。

「おっせーな!遅刻ーー、では無いけど、ギリだな!」

「あー、悪い悪い。」

無理してる感が少しあるがひとまずいつもの勇輝に戻ったみたいだな。

「反省してねーだろ!」

「してるってー。」

そんな軽口を叩いていても由梨と日向美は笑うことは無かった。 少しの沈黙の後、口を閉ざしていた日向美が喋り出す。

「目が覚めたらいつものように日が昇っていたらと思ったの。そんなに、上手くはいかないよねーー。」

「日向美ーー。」

由梨が心配する様に日向美へ寄り添う。

「な、なんか、辛気くせーなー!そんなに心配すんなよ!俺が着いてるからさ。」

この空気に耐えかねたように勇輝がわざとらしく格好をつける。昨日はあんなにビビってたくせになー。俺はふっと笑う。

「何格好付けてんだよ。まあ、でもそんなに落ち込んでたら気が滅入るしな。それに、悪い事ばっかりでも無いよ。」

俺は空を見上げて言う。

「ほら、見てみろよ。」

3人とも空を見上げて目を見開く。

「太陽と月が無くなった代わりだな。」

空には今まで見えなかった幾つもの星が広がっていた。

「綺麗ーー。」

目をきらきらと輝かせながら小さな声で言う由梨。それを横で見る勇輝が嬉しそうに微笑む。本当に勇輝は由梨が好きだな。

「はいはい、デレデレすんなよー。」

軽く勇輝の頭を小突き2人の視線を空からを戻させる。勇輝は由梨からだけどな。

「で、デレデレなんかしてねーし!」

勇輝は頭を抑えながら顔を赤くしているが、それが何故だかよく分かっていない2人は不思議そうにしていた。

「さてさて、本題に入ろうか!」

俺は少し場の空気が和んだところで手をパンッと叩く。

「立ち話もなんだから、その辺の店でも入るか。」

俺達が歩き出したのを合図にしたように辺りにバリンとガラスが割れたような音が響く。

「きゃっ!」

日向美が驚いて俺の腕にしがみつくが、気にせず俺は音の鳴った方に振り返り様子を伺った。

「おい!待て!」

音の鳴った方の建物から黒い影が飛び出すのを追い掛けるように店員らしき人が出てくるが、間に合わないと判断したのか立ち止まる。

「くそっ、折角の食べ物がーー。」

悔しそうにそう吐き捨てた店員の姿を見て日向美が呟く。

「ど、泥棒ーー?」

不安そうに俺の腕を掴んだまま、顔を見上げてくる。俺は頭をぽんっと撫でて微笑む。

「大丈夫だよ。」

それを聞いた途端に、はっと何かに気がついたように顔を赤くさせ猫のようにぴょんと後ろへ飛び退き後ろを向いたまま、

「べ、別に怖くないしーー!ち、ちょっと驚いただけ!」

と高く結んだツインテールを横揺らしさせながら噛み噛みで言う。本当に猫みたいだな。

「デレデレ、ニヤけてんじゃねーよ!気持ちわりー!」

今度は勇輝が俺の頭を小突いてくる。どうやらいつの間にか顔がにやけていたみたいだ。

「俺はそこまで酷く言ってないだろーー。」

「でも、凄い嬉しそうだったよーー?」

由梨まで勇輝に同調してくるなんて、そんなに気持ち悪い顔をしていたのかーー、普通にショックだな。

「ま、まあとりあえず店に入るのも危険かもしれないし、ベンチでも探すか。」


結局4人が座れる椅子が見つからず、2人がけの椅子に女子2人が座り男子2人は立つ事になった。

「それじゃあ、本題だな。」

俺は皆に聞こえないように小さく息を吐き3人を見る。

「今から俺が進む道はとても険しくなると思う。太陽が戻ってくれれば何事も無く終わるがーー、俺はこのまま太陽が戻ってくる事はないんじゃないかと思うんだ。」

3人の顔が一気に曇ったのが分かったがそのまま話を続ける。

「でも、このまま怯えて最後の日を待つつもりなんて毛頭ない。生きて、生きて、生きて、地球最後の日まで、いや、それ以上だって生きてやるつもりだ。」

今の言葉で皆の心が揺れるのも手に取るように分かった。ここが正念場だ。

「そんな過酷な道を俺は皆で、4人で進みたいと思う。でも、みんな家族も友達も居る。全員でまとまって行動して生きて行くことは生存確率を相当下げる。」

「そんな、それってーー。」

日向美がバッと顔を上げて不安そうに俺を見る。

「ああ、俺達4人で生きていく事が最前だと思う。」

何家族もの大人が団体に入ると必ず指示権利が大人にいく。俺が思う様に行動出来ない。それは格段に生存率を下げる行動だと思う。

これは、随分自分の力を過信しているようにも感じるがーー。いや、これで合っている。自分が自分を信じないんでどうするんだ。

「だからーー、不安になっても、恐怖しても、いい。ただ、俺に付いてきて後悔しないと言ってくれるのなら一緒に行こう。」

誰も直ぐに首を縦には振らなかった。当然といえば当然だ。突然の不安の中で家族も何もかも全て捨てて高校生の友達4人で生き残ろうと言っているのだから。

1分ぐらい経った頃だろうか、口を開いたのは勇輝だった。

「俺は一緒に行く。」

「勇輝くんーー。」

由梨が不安そうにしながらも安心したかのようなあやふやな面持ちで勇輝の居る方向を見る。顔を合わせようとはしなかった。

「俺の家族はこっちに来ないで田舎で暮らしてるし、端から奏多と行くつもりだったからな。」

胸を張ってそう言い、俺の方を見て少し迷う様な表情をした後に決心したようにまた口を開く。

「それに、俺達が家族の元へ行ったらお前は1人だろーー?」

由梨と日向美が思い出した様に顔を上げた。

そうだ。俺に行く宛なんて無かった。


あの時、勇輝と俺が崖から落ちた時、あのまま気絶していた俺たちは夜になっても家に帰ることは無かった。心配した俺達の親は村中の人達と一緒に俺達を捜索したらしい。そして、俺達は無事見つかり病院まで運ばれたのに、俺の両親だけが森に入ったきりーー二度と姿を表さなかった。

親が子を探して遭難するなんて、馬鹿みたいな話だよな、ほんと。

俺はその後、勇輝の家族に引き取ってもらえることになって、高校に行く為家を出るまでは育ててもらったという訳だった。


でも、日向美と由梨もそれを知っていた。

俺は3人がそれを知っていて俺を放って家族の元へは行かないと、そう踏んでこの話をしたんだ。

随分最低な奴だよな。俺ってーー。

「私、一緒に行く。」

日向美と由梨が同時に言った。はっと2人はお互いを見て驚いた後、少し照れながら嬉しそうに笑った。

俺はこんなに優しい大切な親友を騙したんだな。分かってはいたのに悔しくて、悲しくて、自分が憎くて憎くて唇を噛み、拳を握りしめた。

「奏多?」

それに気づいたのだろう。勇輝が心配そうに声を掛けてきた。見られてた、こんな姿見せては駄目なのにーー。俺は何事も無かったかのように笑って勇輝に顔を向ける。

「何でもないよ、どうかしたの?」

「あ、いや、気のせいならいいんだけどーー。」

また騙してしまった。口ごもった勇輝の声に被せるようにして喋り出す。

「3人とも、本当にいいんだな?途中で引き返す事は出来ないからな。」

「あたりめーだろ!」

「もちろん!」

「当然でしょ!」

皆バラバラな返事なのに同じ表情をして頷いた。

「ありがとうーー。」

俺も笑顔を作って頷いた。上手く笑えてたかな。


「それじゃあ、もう1回買い出しだな。」

「2人の分を買いに行くんだな。」

「ああ、それと少し買い足したい物があるんだ。」

「買いたい物?」

3人が声を揃えて何なのかと聞いてくる。

「とりあえず、俺と日向美はそれを買ってくるから勇輝と由梨は食料とかを2人分買い足してくれ。買うものは勇輝は分かるよな?」

「ああ、分かった。けど、買いたい物って?」

「じゃあ、終わったら俺の家に集合してくれ。」

「あっ、ちょっと!はぐらかすなよ!」

文句を言う勇輝を無視して、じゃあ行くぞーと振り返る。そう言えばーー。

「あっ、勇輝。買い物大変だろうけど由梨の事頼むぞ?」

「え?そんなの当たり前ーーってか由梨がお前のモンみたいな言い方すんなよ!」

由梨が俺の物なんて一言も言ってないんだが。というか絶対意味分かってなさそうだけどーー、まあ、いいか。

「じゃあ行こうか。」

日向美の方を向きそう言うと少しムスッとした顔をして頷いた。やっぱり変なこと言ってたのかな?

「それで、何処に売ってるのそれって。」

横を歩き、まだ少し不機嫌そうな顔をしながら聞いてくる。

「色々店回んなきゃ揃わないからな、とりあえず俺の家に行くつもり。」

「なんで、奏多の家?」

キョトンとした顔先程の不機嫌は無くなったように俺の事を見なる。

「着いてきたら分かるよ。」



「えっ、え、えええー!!」

「何だよ、近所迷惑だろ?」

歩きながら俺の説明を聞いていた日向美が急に叫びだす。

「車を借りてきてお手伝いさんが運転してるってーー、そんなお金どっから出てきたのよ?!」

沢山荷物が出来るだろうと思い車を借りてきたんだがーー、そう言えば俺のお金の話は日向美にはしてなかったな。

「それは、」

俺の母さんは金持ちだったらしく、父さんと駆け落ちをして田舎に来たらしい。母さんの両親は50そこらで他界。全財産は一人娘の母さんに渡り、その後一人息子の俺に自動的に受け継がれたのだった。

説明をしている間ポカンと口を開けていた日向美は我に返ると、また勢いよく喋り出す。

「アパートはこんなにボロいのになんでそこにはお金使ってんの!車もお手伝いさんも借りるって相当お金あるでしょーー!」

「まあ、落ち着けって。必要ない所にそんなにお金かける必要はないと思ったからだよ。というか、そろそろ行くぞ?」

驚き固まっている日向美の手を引きアパートの前で止まっている車に載せようとする。

日向美はそっぽを向き、早口にボソボソと何かを言ったが聞きとれなかった俺は、ん?と言い日向美を見る。だが、

「何でもない!早く行こ!」

と今度は自分から車に乗り始めた。忙しいやつだな。そう思いながらも俺も車に乗り込んだ。

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