第2話 友情
地球最後の日まで残り2ヶ月
~速水勇輝~
「まだかな…」
俺の呟いた声は何も無い空間に広がり消えた。
奏多に言われて勢いで出て来てしまったが、何をすればいいかなんて考えても無い上に、これからどうなるのかも全く見当がつかない。
皆も太陽がなくなると不安に苛まれそうになるのを家でじっとしながら堪えているのだろう。
公園なんて誰1人として居なかった。
俺も奏多がいなければきっと家でじっとしていただろう。
すでに太陽が消えて2時間。
真夏だと言うに半袖だと少し肌寒く感じてしまう位になっていた。
暗闇で静かで少し寒い。
そんな状況で1人で居ると要らないことばかり頭の中をぐるぐる周り、どんどん不安が押し寄せてきて、この暗い世界に吸い込まれてしまいそうな気分になる。
「うっ…」
夢のことを思い出すと気分が悪くなっていき、立っていることが苦になりしゃがみ込んでしまう。
あの夢の事だけはぼやけもせずに頭の中にこびり付いて離れない。
夢の中で出会ったおじさんの声が聞こえてきた。
『もう、地球は、人類は終わりだ…』
嫌だ、いやだ。
どこかに行ってくれよ。俺に喋りかけるなーー。
頭の中がぐちゃぐちゃになっていき、暗闇に落ちて行くーー。
そして次の瞬間には暗闇 にふと光が差していた。
眩しいその光に目を向けると、懐かしい声が聞こえてきた。
「ーーき!」
「勇輝!しっかりしろ!」
奏多の声が聞こえていつの間にか瞑っていた瞼を開ける。
「かな、た」
「なんでここにーー?」
「一緒に準備するって言ったろ?思い出せるか?」
そうか、そうだった。
「暗闇が、暗闇に吸い込まれそうになって。 お、俺もうだめかと思ってーー。」
奏多がここにいる。
そう思った途端に安心して勝手に言葉が出てきた。
「でも、でも光が差して、そしたら奏多が居て」
「うん」
涙も出てきたし、かっこ悪いな。
奏多も素直に話聞いてくれるし、あーあ。
「よがっだーー。ありがどう。」
「うん、俺もよかった。」
優しい顔で少し笑いながら奏多はそう言った。
「ははっ、きたねー顔だなー」
悪口を言ってるくせに声はすごく優しかった。
ポケットからハンカチを取り出して渡してくれる。
それを受け取ったら、なぜかまた涙が溢れてきて。
「うぅ」
「おいおい!なんでまた泣いてんだよー」
そう言って笑っている奏多を見ているとさっきまでの暗闇は本当に無くなってしまったようだった。
俺、奏多が友達で本当に良かった。
心の底からそう思ったけど、奏多には絶対言ってやらない。
「落ち着いたか?」
あれからしばらく泣いてて、それに付き合ってくれてた奏多が声をかけてくる。
「ああ、悪かったな。かっこ悪いとこ見せちゃって。」
「勇輝あんなに泣きじゃくるとはなー。『がなだ~』って!」
笑いながらそうやって馬鹿にしてくる奏多を見るとやっぱりイラッとする。さっきの奏多はどこに行ったんだよ。
顔を
修学旅行とかで使うようなでっかいやつだ。
「なんであんなでっかいカバン持ってきたんだ?」
そう聞くと笑っていた奏多がカバンを手に取る。
「ああ。これは買ったものを入れようと思って」
「え、準備ってそんなに買うのか?!」
「ああ、というかこれで入るか微妙なくらいだぞ?」
ま、マジかーー。
「マジだ!」
おお、驚きすぎていつの間にか声に出てたみたいだ。
「というか、お前は手ぶらか?」
「そうだけど?」
まさか、俺もカバン取りに行かされるパターンじゃあないだろうなーー?
「よーし取りに行くぞ!」
やはりそうきたか。
「安心しろ!俺も一緒に行くからなー。」
「あーもう、分かったよ。」
俺は嫌々という雰囲気をわざとらしく醸し出しながら返事をしたが、実際はそこまで嫌ではなかった。
今は何よりも1人でいることが怖くて、共に行動することが出来るなら苦ではなかった。
「ところで、買い物って具体的に何買うんだ?」
「食料とか、防寒具とか、灯りとか。今日はとりあえずすぐ揃えられるもの買うつもり。」
なんだかんだ言ってもやっぱりする事とかはしっかり考えてる上に、なにより冷静に物事を考えられている。
「やっぱかなわねーな。」
聞こえるか聞こえないか分からないくらい小さな声で言う。
出来たら聞こえていて欲しい。そう思いつつも普通に言うのはなんだか気恥しかった。
「なんか言ったか?」
「いや何でもない」
やっぱり聞こえてないか。少しの落胆と安心が入り交じり複雑な気分になる、が。何気なく横を歩く奏多に目を向ける。
ーー少し笑っていた。
嬉しそうな顔で。もしかしたら聞こえていたのかもしれない。よかった。
でも、でも何故か少し悲しそうにも見えたのは何故だろう。
2時間後 午後6時過ぎ
俺達は家までカバンを取りに行った後ホームセンターへ行き必需品を揃えた。
「約2ヶ月分の保存食、防寒具、寝袋まで買ったのか。あと、懐中電灯とかその他もろもろっと。
結構買ったな。」
俺達の持参したカバンには入り切らず両手に袋をもっている状態だ。
「大丈夫、ここに俺の全財産あるしな!」
財布を見せながら少し自慢げに言ってくる。
「えっ、それいいのかよ?」
幼い頃から貯金箱に少しずつ小銭を貯めては俺に自慢げに見せつけてきたやつだろう。
今はバイトもしているし、相当貯まっているはずだ。
「ああ、いいんだ。だってーー。」
「だって?」
奏多は俺から目を逸らして少し考える。
あっ、この顔さっきの笑った時の悲しそうな顔に似ている。
瞳は悲しそうに揺れているのに、表情にはそれを出さない。
「やっぱ何でもない。」
「そっかーー。」
無理には聞かない、いや聞けないがーー、いつかその悲しそうな顔の理由を自分から言ってくれるといいな。そんな事を考えているうちに奏多はいつも通りの顔に戻っていた。「それじゃあ、今日は解散だな!」
「えっあ、そうだな。」
また1人かーー。
「そういえば、あいつらは?」
あいつらの事が気になったのは本当だが、話を伸ばす口実でもあった。
「今日の夜にでも連絡しようと思う。明日4人で会うように俺は日向美に連絡するから、お前は由梨によろしくな。」
「そうか、分かった。
ーーそれじゃあ、また!」
もう時間稼ぎの話題なんて思いつかなかった。
変に話してもおかしく思われるだろう。
「ああ、またな。
ーー俺の家で泊まるかー?」
冗談めかして笑いながら言ってきた。
気を使ってくれたのだろうか。
「なんでだよ!じゃあな!」
そう言って振り返ったが本当は凄く嬉しかった。そして、そのまま泊まりにも行きたいぐらいだったが、そこまで迷惑はかけられない。
早足で家まで帰っていく事にした。
何も考えないようにして途中から走って帰ると、思いの外早く着いた。
家のドアを開けると暗闇が迎えた。
外よりもずっと暗くて何も無い空間が広がっていた。
またしゃがみ込んでしまいそうになるのを堪えて電気をつける。
頭が少しクラクラしてきた。
靴を脱ぎ捨てて早足でベットまで行き倒れ込む。
「ふぅ」
なんだか気疲れしてしまい思わずため息が出る。
そうだ、由梨に電話をしなくては。
のそのそと起き上がり、ベットに腰を掛けポケットから携帯を取り出す。
ホーム画面には肩上でうち巻いた黒髪と白い肌の綺麗な女の子が大きめな目を少し細めて可愛らしく微笑んでいた。我ながら上手く撮れている。
「ゆりーー。」
思わず声に出ていた。
この顔を見るとさっきまでの気疲れが吹き飛んだような気分になる。
早く声が聞きたい。
急いで由梨の携帯に電話をかける。
2回ほどのコール音の後に俺の聞きたかった声がする。
「もしもし勇輝くん?」
「そっちは大丈夫か?」
思わず食い気味で聞いてしまった。
「うん、今は何ともないよ。お母さんと一緒に居るから。」
「そうか、良かったーー。」
声も落ち着いているようで、心の底から安心すると同時に、由梨も奏多と同じで俺よりずっと強い事に少し悲しいような寂しいような気持ちにもなった。
「明日会えるか?今日は、俺と奏多で会ったんだが、明日は4人で話をしたいんだ。」
「うん。大丈夫だよ。私も会いたかったから。」
最後の方小さな声で、恥ずかしそうに言った。
聞き終わると同時に俺の顔も赤くなるのを感じた。
『そ、そっか!じゃあ昼の1時に中央公園で!』
嬉しさと恥ずかしさで声が少し裏返ってしまった。
「うん」
少し笑いながら返事をくれた由梨の声にます顔が赤くなっていき、
「じゃあ!」
と言って恥ずかしさを隠すように電話を切った。これじゃあ照れたのを隠したのがバレバレじゃないかーー。
電話を切った後に後悔したが、もう遅かった。俺の顔今とてつもなく赤くなってそうだけど、大丈夫かな?
顔をぺたぺたと触り熱を確認していると、突然携帯が鳴り出す。
「わっ!」
驚いて軽く飛び跳ねてしまった。
さっきから恥ずかしいことの連発だな。
ふぅ、と溜息をついたが、先程のような嫌な溜息とは違うものだった。携帯の画面を確認すると由梨ーー。
とかいう想像をしたが奏多という2文字が表示されていた。
「なんだ、お前か。」
「なんだとはなんだよー!」
「男友達から電話なんて誰も嬉しくねーよ。」
「連れないなー。」
そんな他愛もない話をした後に本題を切り出したのは奏多だった。
「それで、由梨には連絡したか?」
「ああ、明日の1時に中央公園で待ち合わせしたけど、良かったか?」
「そう言うだろうと思って日向美にもそう伝えたよ」
「相変わらずのエスパーっぷりだな。」
奏多は昔からこういうところがある。
例えば人の考えてる事とか、どうやったら物事が良いように運ぶかとか、そういう事が分かるのだ。
幼稚園からの付き合いだが最初は驚かされたものだ。今では今回のように奏多なら分かるだろうと思い、確認も取らず時間を決める事も多々ある。
「エスパーってダサいからやめてくれよー。」
「はいはい、エスパーさん」
本人曰く、超能力とかではなく、良く見ればわかる、との事だったが、勿論俺には出来なかった。
「お前、どうせ由梨ともう少し話しかったな寂しーとか思ってるんだろー!」
「そ、そんなことねーし。」
くやしいぐらいその通りですよ。
「まあ、今日は早く寝ろよ。明日からしっかり働いて貰うからなー。」
「分かったよ。じゃあ、おやすみ」
「おやすみー。」
電話を切ると、どっと疲れが押し寄せてきて、またベットに倒れ込む。
早く寝る準備しないとな。
頭でそんな事を考えながら俺はそのまま眠りについてしまった。
明日起きたら太陽が登っている事を願って。
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