地球最後の日に
アネモネ
第1話 幕開け
物語の幕開けとは、何気ない日々の中に突然として始まる。俺の場合は友人とのメールという形から始まった。
過酷な終わり無き
『なあ、暗くないか?』
変なメールが来たものだ。
差出人はサッカー部のキャプテンでムードメーカー的な存在であり俺の親友である、
ちなみに俺は帰宅部だ。
『部屋の電気をつければ?』
時間の感覚も1日中カーテンを締め切った部屋でゴロゴロしていたら分からなくなるものだ。よく今の時間も分からないまま返事を打った。
『いや、それはそうなんだけどさ…
今昼の2時だよな?』
昼の2時で暗いーー。頭でも打ったのか。そう思いつつも一応カーテンを少し捲り外を覗く。
ーーまさかの夜。
いや、勇輝の家の時計が壊れてるんだろ。そう思い壁に目を向けると午後2時を指す時計がカチッカチッとリズムよく時を刻んでいた。
携帯の時計を見ても目覚まし時計を見ても腕時計を見ても午後2時。
一体何が起きているんだ。
『時計壊れたかな?』
そんな事有り得ないとは思いつつもそう送る。
『時計が2軒同時に同じ時間を指して壊れる可能性は限りなく低いと俺でも分かるぞ?』
やっぱそうだよな。
いや、納得している場合ではない。
もし本当に昼の2時なのに外は夜だとしたらしたら大変な事だ。テレビのニュースとかで何か言っているはずだ。
『ちょっと、テレビ見てみるわ』
そう送ると携帯を置きテレビのリモコンに持ち替え、急いで電源をつける。
気が抜けるような呑気な音楽と共に大自然の景色が映る。こんな番組してる暇があるなら大丈夫そうだな。
念のため他の番組も見ようとチャンネルを変えようかと指に力を入れるーー
直前にちょうどニュース速報の音と共に画面が切り替わりアナウンサーが喋り出す。
「番組の途中ですが、ここでニュース速報です。本日午後2時、太陽の活動が突然停止したとNASAが発表しました。
太陽自体は消滅しておらず、活動のみが停止したとのことです。
なるべく自宅で待機するようにして落ち着いて行動してください。
詳しい情報が入り次第お知らせします。」
原稿を見ながら緊張した様子で喋るアナウンサーとその声の背後にガヤガヤと慌ただしく喋るスタッフの声がこの状況の信憑性と危機感を物語っていた。
そんなことあるのかーー?
とにかく勇輝にも教えなくては。
心臓がいつもより大きく音を立ててるのを嫌に思いながら携帯を手に取る。
『テレビ見たか?ニュース見てみろ!』
『俺も今見てきた…太陽が消えたってどういう事だよ?!
俺達これからどうなるんだ?
し、死ぬのか…?
暗闇になって、電気もつかなくなって…』
いくら何でも動揺し過ぎじゃないか?
いつもこんなちょっとやそっとでここまで気が動転するほどヤワな奴ではなかったはずだ。
『おい、どうしたんだ?』
『植物も全部枯れて、
凍えて、呼吸もままならなくなって…死ぬのか?!』
『おいって!落ち着けよ!いくら何でも動揺し過ぎだろ?どうしたんだ、勇輝』
ここまで動揺するなんて、なんか訳があるのかも知れない。
なんだか嫌な胸騒ぎもする。
『あ、ああ悪い取り乱した…』
少し間が空いてそう返ってきた。
『いや、いいんだそりゃ太陽がきえたって聞けば誰でも驚くだろうけど…何かあったのか?』
『実はな…』
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
目を開くとそこは、俺達の高校の校庭だった。なぜここにいるかも分からない。ただ、空は塗りつぶしたように真っ黒で周りには人の気配は全くしなかった。
「何でここに?なんか変な雰囲気だし、スゲーさみぃし…とりあえず家に帰ってみるか」
手を摩って温めながら高校の門を出る。
ふと道に視線を落とすと、すぐそばには
ーー人が倒れていた。
「えっ!」
俺は急いでて駆け寄って頭を抱えあげた。30後半くらいのおじさんで、生きているとは思えないほど青白い顔で小刻みに震えていた。
「大丈夫ですか?!今助けを呼んできます!」
「そうだ、救急車も…」
慌ててポケットから携帯を取り出して電話を掛けようとした時、腕に突然衝撃が走り、携帯を取り落とす。
驚いて自身の腕を見ると、力も入らない手で懸命に俺の腕を掴むおじさんの姿があった。
「待ってくれ…」
今にも消えそうな弱々しい声でゆっくりと言う。
「…が…ないのか…。」
何を喋っているのか分からないぐらい小さくボソボソとした声で囁いたが、何かを伝えようとしていることは分かった。
「なんと言っているんですか?今助けを呼ぶんで待っていてください…!」
「この状況が見えないのか?!もう、地球は終わりだ…。」
最後の力を振り絞りおじさんは弱々しくもはっきりとした声でそう言った。
何を言っているんだーー。
そう思いつつもあたりを見渡そうとゆっくり顔を上げた。
ーー思わず5秒ほど停止してしまった。いや、ありえない。脳がこの状況を整理しきれてない。こんな、こんな地獄があるものなのかと。
「みん…な?」
見渡す限りの道に人が倒れていた。
俺は慌てて立ち上がり一番近くに居た人に駆け寄る。
「大丈夫ですか?!」
そう言いながらこちらに体を向けようと引き寄せる、とーー力なく体がこちらへ転がり顔が見える。
「ひっ…!」
もがき苦しんだような顔をして目を見開いたまま、
死んでいた。
俺は足が絡まり転けそうになりながらも隣の人の元へ行き確認する 。
「し、しっかりしてーー」
2人目は泡を吹きながらしながら死んでいた。
「うぅ」
気分が悪くなってきたが、次の人へと足を運ぶ。
その後4人も5人も6人も何人も何人も何人も。
全員死んでいた。そこらじゅうに死体が転がっていた。
しばらく呆然としていたが、ふと振り返りおじさんに近付いて行く。
「おじさん…?どうしたの…」
口から泡を吹き、目は上を向き白目になっていた。
俺が確認している間ににきっともがき苦しみながら死んだのだろう。
「帰らなきゃ」
俺はおじさんをそっと置き、ふらふらしながら立ち上がり家に向かった。
「さみぃなぁ…」
時間が経つ事に寒さが増していき、息も苦しくなっていく気がした。
歩けども歩けどもそこらじゅうに死体が転がっていて、窓から見える家の中にですら死体があった。
代わり映えしない景色と死体。
途方も無く長く感じた道もようやく終わりを迎え、倒れ込むように家に入る。
「はぁ…はぁ…」
息も荒くなり指先の感覚も無くなって頭もぼーっとしてきた。
「はやく…しなきゃ」
上手く動かない手を懸命に伸ばす。
カチッカチ
「えっ…」
カチカチカチカチカチッカチカチ
「は?なんでだよ…」
何回スイッチを押しても、押しても押しても押してもーー。
電気もストーブも付くことは無かった。
カチカチカチカチカチカチカチカチカチッ、カチッ
「くそっ…くそ…」
幾度となくスイッチを押して、とうとう体に力が入らなくなった。
床に崩れ落ちるように倒れ込み、体の感覚も無くなっていき徐々に意識も薄れていく。死ぬ時ってこんな感じなんだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『そんなことを思って完全に意識を手放した時に、目が覚めた。』
ーーメールでその話を聞いて、想像しただけでも嫌な汗と、寒気におそわれた。
こんな状況だからこそ余計に。
でも夢は夢。現実に起こることは無いとーー信じたい。
『正夢になるって言うことか?』
『いや、分からない。でも、関係ないと思いたくても思えないだろ…?』
たしかに太陽が活動を停止したら、徐々に寒くなり、電気も配給されなくなり、そこらじゅうが無法地帯となるだろう。
それに、最終的には酸素も薄くなっていくだろうし、勇輝が見た夢はこれから起こるだろう状態にほぼ一致している。
もし、このまま太陽の活動が再開しないとしたら俺達、いや全人類はこのままでは絶滅するだろう。
今俺に出来ることは、この状況を嘆くことだけなのかーー?
いや、違う。
『確かにその夢の通りになるかもな』
今ここで立ち止まっているだけならきっとそう、遠くないうちに死ぬだろう。
『でも、太陽が消滅したわけじゃないだろ?』
今するべきなのは死に怯え嘆くことでは無い。
『それならさ、前向きに行こうぜ!』
希望を持ち1日でも長く生きようとすることだ。
『ほら、もしお前の夢の通りになるなら今から準備しようぜ!』
『準備…?今から何が出来るっていうんだよ』
お前がいつもくれた勇気、こんな時ぐらい、こんな時だからこそ今度は俺に返させてくれ。
『俺について来たら分かるよ、
お前の夢が頼りなんだ!一緒に行こう!』
ほら、元気出せよ勇輝。お前らしくないじゃないか?
『分かった…俺も一緒に行くよ
ありがとな…』
『ほら、行くと決まったらすぐ集合だ!4時に中央公園集合!遅れんなよ?』
『今日かよ!気が早いな、まったく』
*
7月25日
俺達の
俺、
友と共に、必ず、どんな手を使って生き残るとここに誓おう。
*
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