第6話

鎌ヶ谷が充電する車の後部座席の窓からぼんやり外を眺め、太陽の光で左耳につけていた赤い小さな粒のピアスがキラリと光る。その様子を柳田紗英が、じっと見ていた。

「すみません、ずっと見つめられると恥ずかしいんですが柳田紗英さん。お久しぶりですね」

「あ、あの、覚えていましたか!?」

「まあ、覚えてるますよね。僕のノート、写してましたからね」

「あはは……ですよねー………」

乾いた笑いを出し、背中に嫌な汗が流れた。

「って!お前ら!人の話聞いてっての!」

和やかな(じゃない)再会に水を差して悪いと言う感情ものなくバックミラー越しに後ろを見ながら眉間に皺を寄せていた。

そして、話を聞いてもらえなかった哀れな刑事の隣の助手席に座っている男が呆れたようにため息をついていた。

「溜息をついた貴方は一体どちら様でしょう?まさかと思いますが?新しい鎌ヶ谷さんの恋人ですか?」

「んなわけないだろうが!俺は既婚者だ!奥さんいるってのをお前知ってるだろ!」

暮松の冗談の言葉に鎌ヶ谷はまんまと食いつく。勿論奥さんがいることもその奥さんのために毎週花束を買って奥さんの待つ場所へことは知っているから口元に笑みを浮かべているのだが。チラッと見知らぬ男を見る

「今日付けでこちらに配属となりました。佐伯信乃と言います。同い年と聞いています」

2人の会話に鬱陶しそうに顔をしかめて名乗った。その彼を後ろ斜めから眺めてから膝の上の手に視線を落とす。

「その前はサイバーセキュリティ対策課では?」

「っ!ど、どうしてそれを………」

まさか前の所属課を当てられるとは思ってなかったのか、冷静に物事を判断しそうな佐伯を動揺させた。

「簡単ですよ。貴方の右手の左側の手首に大きな豆ができていることと両手をテーピングしていた跡がさっきチラッと見えたんですよ。貴方が乗り込んだ時にです」

さっと自分の手を確認する。確かに指摘された場所にはマメとテーピングしていた跡がある。それでもこの文明時代で然程珍しいものではない。自分がサイバーセキュリティ対策課だという決め手には欠ける。

「それに……鞄に一般的なパソコンを扱う方では使わないハイスペックなもの。詳しい方は使うと思うんですけどね。そういうものは自宅で使用する人が多いと推測します。人手が足りていない鎌ヶ谷さん。貴方の新しい上司はその方向に疎いので、対策として貴方が送られてきた。理由は聞かされていなくても鎌ヶ谷さんは知っていると思いますよ?」

30代の男が見せる仕草ではないが小さく舌を出した。これは肯定ととっていいだろう。

「それで?なんの話でしたか?」

暮松の言葉に今度は鎌ヶ谷が、長い溜息をつく番だった。運良く赤信号で停車していた為。視線を外しハンドルに頭を乗せ項垂れる。

「たくよー……。お前な」

気持ちをリセットする為、ふうーと息を吐き顔を引き締めた。

「事件発生は一昨日の午後二時五十分ごろ、都内にある宮聖銀行で強盗事件。ニュースでどの番組でも取り上げられてるから知ってるよな。詳細はこうだ」

鎌ヶ谷の話によると二時五十分ごろ、覆面を被り、腹痛で御手洗にいた行員を脅し関係者入り口から侵入し金庫に入っていた玄関五千万円をバックに入れ闘争。

容疑者として挙げていた容疑者、伊吹陽一。防犯カメラで、強盗に入ったのはこの人物だと特定された。

「これは詳しくまた発表されていないが川辺で鈍器で殴られ倒れて死亡している所を近所の散歩途中の老夫婦が発見」

「現金が見つからず、殴られている所を見て仲間がいたことが判明はしたもののまだ特定出来てなく混乱して僕のところに来たと……」

呆れた顔で背もたれに体重をかけ溜息をついた。

「僕、暇じゃないんですよ。花屋の利益が出ないじゃないですか」

昨日、廃工場の事件を解決したばかりだ。その間営業ができたりできなかったりする。その間の収入がなく、困る時が何度もあった。

「きちんと給料分は仕事してくださいよ」

「してるよ!こっちはお前の父ちゃん探しながら、お前の母ちゃんを殺した犯人も探してる!わかってんだ。それでも……ああっすまん」

「いえ………貴方が懸命に動いてくれているのはわかっていますから……」

そう呟くと窓の外を眺め空を何も言わずにじっと見上げ、五芒星を握り時代には俯いた。

佐伯はどういうことなんだと考えを巡らし、彼は暮松夕貴という警察の人間ではないが警察関係者と深く関わりがある人物。もしかしたらとパソコンを開き警察のデーターベースで、彼のうち名前を打ち込み検索をかけた。そして、思惑通りにヒットした。

「こ、これは………」

佐伯のつぶやきに鎌ヶ谷チラリと盗み見ると、バックミラー越しに血の気の引いた暮松の顔を見るとハンドルを持つ手に自然と無意識で力を入れた。



パタパタと灼熱に晒されたアスファルトを軽快に走る小さな足。一軒の家にたどり着くと嬉しそうに顔を輝かせて玄関の扉をかける

「ただいまー!お母さん!」

ガッシャーン……!

ものが割れる音が鼓膜に響き首を傾げながらリビングに向かう。

「うあ……うっ…」

母親の苦しそうな呻き声が聞こえ、ピクリと足を止めてゆっくりと中を伺う。

「……かあ……さん?」

リビングには母親が俯せで倒れいた。

子供は慌てて母親のそばに駆け寄り座り込む。

「しっかりしてお母さん!ねえ!」

「ゆう……き、にげて……」

ゆさゆさと母親の体を揺するが、母親は反応がなく、辺りに赤い液体が床に広がっていく。

ユウキと呼ばれた子供のズボンの色変えていく。

そして、少年の背後に影が掛かり背後から口元を押さえられ、母親に助けを求めようとするが恐怖から声が出ない。そして、プツリとユウキの意識は暗闇の中に囚われた。



誰かに体を揺すられる。意識が上に昇り詰めようとしている。

「……先輩!暮松先輩!起きてください!着きましたよ!」

大きな女性の声がキーンと耳奥を襲う。顔を歪めながら、思い瞼を開けた。

「柳田さん……,あー…寝てましたか」

「はい、魘されていましたけど大丈夫ですか」

「ええ、まあ、ありがとうございます」

ピクッと肩が揺れた。動揺したような顔でしかしばっかりと言葉にした。

「暮松ここが容疑者が発見された。川辺だ」

鎌ヶ谷に視線だけ向け後を追う。新人二人は顔を見合われた。

規制線が貼られた黄色いテープを暮松が下がろうとすると止められそうになるが、鎌ヶ谷が、手で制して、揉めることもなく事件現場に足を踏み入れた。

そこには古びたボートがぷかぷかとロープで何処かに行ってしまわないように止められていた

「今朝方このボートに引っかかるようにして浮かんでいた」所を発見された。

静かに鎌ヶ谷は手を合わせゆっくり状況を説明した。

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