第5話
鎌ヶ谷が運転する車に揺られること数十分。今だに目的に到着しない車。
一体どこに向かっているのだろうか。現場の逆方向だ。二人は現場に向かい捜査を行うと思っていた。
「あのーどこに向かっているのでしょうか?」
「あ?花屋」
「ああ、被害者に献花するためにですか?」
「違う。あいつの所」
「あいつって暮班の名前の由来の人ですよね?何故?」
鎌ヶ谷は新人二人にため息しか出てこなかった。彼については全くもって話せていない。だから何故花屋に行くことも、彼を連れて行くことも理解できていない。
「花屋にあいつが居るからだ。あいつが居てこその暮班だ。何のために暮がついてるかわからないのかよ……」
「名前ぐらい教えてくださいよ」
柳田がやっとこさ名前を聞いた。
それには鎌ヶ谷はニヤッと笑う。
「暮松夕貴、28歳。男」
「へえー男なんですが」
バックミラー越しに佐伯の顔を見た残念そうではないが然程興味を引かなかったらしい。柳田というと名前を聞いて瞳がこぼれ落ちそうなほど見開いていた。やはり知っているようだ。
「お?柳田は聞き覚えあるみてぇーだな。高校同じだもんなぁ」
くくっと笑って車を止めた。止めた車の隣アンティークの外装の店。ウィンドーガラスの先に大量や花。どうやらこの場所が目的らしい。車から降り店の入り口まで来ると【crowd、宅配に出ています】と書かれた札が下げられていた。
「忙しいやつだな」
鎌ヶ谷はそう呟くと胸ポケットからスマホを取り出すとどこかにかけようとした。
「いらっしゃいませ、花屋ソレイユへ。どの様なお花をお探しでしょうか?鎌ヶ谷様」
ニッコリと人当たりの良さそうな爽やかな笑みを店の前で立っていた。三人に向けた。
「いや、違くてな」
「ああ、奥様の花束ですね!いまお造りいたしますね!」
着ていた黒いエプロンから鍵を取り出し店をかけようとする。
「って!おい!違うわ!!人の話聞けっての!現場行くぞ!ほれ!」
「僕は探偵ではないので」
「警察に認知されておいて何言ってんだ!さっさと行くぞ!」
眉を引きつらせながら何事もなかったように、店を扉を開け、中に入ってしまう。
追いかけようと足を進めた、鎌ヶ谷はピタリと急停止した。中からプレートを持って来た。
【都合により本日休業】と書かれたプレートをドアノブに掛けると店の横のシャッターを下ろし、外に出ていた植木も中にしまう。この時、鎌ヶ谷に目で手伝えと訴えた。本人も手伝う気はあるのか、即座に行動していた。
「それじゃあ、支度して来ますから後の戸締りお願いします」
店の主人はポイっと鍵を投げ渡しすと店の横の階段を駆け上がっていった。
「やっぱり、あの噂は本当だったんですね」
「噂?」
柳田のつぶやきに、佐伯がおうむ返しに聞く。
「あ、はい。暮松先輩は警察に協力しているという噂です」
「同級生なのに先輩なのか?」
「入学当初から一緒でした。入学式にも出ていました」
「言っただろ?同い年とタメだって」
同い年の時は佐伯をタメの時は柳田をみた。
「年上っていう話も本当だったんですね」
「そうなる」
鎌ヶ谷はそう答え、暮松が入って行った玄関を見つめた。
「実年齢も、親父さんの行方もお袋さんを殺した犯人もわからないまま。18年も生きて来た。推定年齢10歳からな………」
空へと消えて言った言葉に新人2人は唖然とした。
「どういうことですか?高校入り直しでははないんですか?」
「行方不明、殺された?」
「あー、それは………あとで話そうか。あいつの前ではムリだ」
理由を話し始めようとした時、眼鏡と黒のジャケットを羽織った暮松が出て来て、話を区切った。
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