第3話

 カーテン隙間から朝日が覗き込み茶髪に当たり目元近くを通る光で若く幼く見える男の目覚めを促進する。

「ん……朝か」

 ピッピ……パチ…

 ベットの上で軽く伸びをした男はセットしていた目覚まし時計の鳴り始めた同時に押し時刻を確認する。

「6時半か……」

 のそりと起き上がり、ペタペタと床を歩きクローゼットをあさり適当な衣類を手に取る。

「ふぁぁ……眠い…」

 大きなあくびをし、目元に涙を溜めながら寝室を後にするとダイニングとリビングが繋がった部屋に行くとリビングに置いてある液晶テレビの電源を寝癖がついたふわふわした髪を手ぐししながら入れると朝のニュースが流れる。

《……それにしても廃工場での女性殺害事件に暴力団水鏡組が関わっていたとは思いませんでした。吉原さんはどう思われますか?》

《そうですね。銃で射殺された事件ではありましたがその背後に麻薬密売があったとは誰も想像していなかったことですから必然的に見てしまったということですがこれはとても悼まれないことですが警察のスピード解決見事としか言えませんね》

 男性アナウンサーとコメンテーターが相づちを打ちながら話している会話を寝起きの上の空で聞きつつコーヒーメーカーをセットしてからバスルームに向かい着ていた衣類を脱ぎ捨てるとシャワーの水音が茶髪の男以外誰もいない空間に響く。

 しばらくしてシャワーの水音が止み、髪を拭きながらスボンだけ履いた状態でキッチンに向かいセットして置いたコーヒーメーカーのスイッチを押し、バスルームに再び向かいドライヤーで乾かしていく。

 ブオーという音が響いていくと音が消えてすぐダイニングにすぐ顔を出す。乾いた髪はふわふわとしていた。髪質なのだろうとかに気にした様子もなくコーヒーカップを手にして一口飲み、息を吐いた。

 ダイニングテーブルにコーヒーカップを置くと机の中心に置かれたクローバーのトレーから手のひらに六芒星のネックレスを手に取ると親指で優しく撫でる。大事そうに見つめ決心したように首にかけた。

 ちらりと男がテレビを見た。起きがけから付けっ放しだったテレビのニュース番組のキャスターが慌ただしく、番組スタッフから渡された用紙を受け取っていた。

《えー速報です!一昨日発生した強盗事件の犯人と思われる男性の水死体が今日未明発見されたようです。男が持ち去ったとされる玄関については不明とのことです》

《えーこれはどういう展開なのでしょうか》

 キャスター、コメンテーターが驚きと複雑な顔を見せ、速報が報じられた全容をおさらいしながら話しているのを上の空で聞いていく。

 トースターにパンを入れ焼き上げていく間にハムエッグと付け合わせのサラダを作りダイニングテーブルに置いたところで焼き上がりの電子音が鳴る。

 パンを取り出し朝食の準備を終え一人席に着くと手を合わせ食べ進めていった。


 男は朝の支度を終え、仕事の準備に取り掛かる。一階に降りてくるとウィンドーガラスのシャッターを半分だけ開けて花達に水をやり枯れかけている花を摘んでいく。

 男が住んでいるのは3階建ての建物で一階が店舗で以前はアンティークショップだったため、外装や内装がアンティーク調で現在は夕貴が花屋を経営、二階から上が自宅になっている。

 一人暮らしでありながら住居が二、三階なのはこの建物と土地をしたからである。決して贅沢したわけでもない。店舗兼住宅で探していた男はここが丁度売りに出されていたからだ。立地も悪くなく住宅街やスーパー、駅、病院まである。それなりに繁盛している。ご近所づきあいも上々で悪くないと思ってる。ただ、問題もあるが、住居スペースが一階だけでなくさらに上にあるのよく言えば重宝していた。本人は掃除するためにしかほとんど立ち入らないが。

店舗で植木に水をやっていると裏勝手口から声が聞こえてきた。

「暮松夕貴さーん!いらっしゃいますかー!?お届けものでーす!」

「あ、はーい!今行きますね!!」

店の入り口から裏まで聞こえるように普段出さない声量で、返事をするとパタパタとかけていく。

「御注文の肥料と土ですね」

「ありがとうございます。いつものところにお願いできますか?」

「了解です!」

台車に載せていた肥料と土をカラカラと倉庫の方へ運んでもらっているうちに受け取りのサインとハンコを押して置く。

「それじゃ、ありがとうございましたー!」

プオンと、トラックのエンジン音を立てて暮松夕貴の元を去っていく。

作業を再開する為、入り口に戻り全ての水やりを終え、価格も幅がないか確認を終えたところに一人の女の子が駆けてきた。

「どうしたの?こんな朝早く」

しゃがんで視線を合わせるとニコニコしながら話しかける

「夕お兄ちゃん…ママの大切なお花のうえき、割っちゃった……」

そう言ってビニールの袋を前に出してきた。受け取って中身を確認する。

「お花は大丈夫だから植木鉢と土を変えておけば大丈夫だよ」

不安そうにじっと見つめてきた女の子の頭を撫でると微笑んだ。

「本当?」

「うん、本当だよ。あそこから植木とスコップ持ってきてくれるかな」

しゃがんだまま、ものがあるところを指差してお願いをすると頷いて取りに行った。

夕貴はゴゾゴゾと蕾や咲いている花、根っこを傷つけないように取り出すと破片が付いていないか確認する

「うん、よし」

「夕お兄ちゃん、これでいいの?」

「うん、大丈夫。ちょっと待っててね」

土がついてない手で女の子の髪を撫でて土を取りに行く。適当な量をバケツに入れ運んでいく。

「それじゃあ、この土をお兄ちゃんがいいって言うまでスコップで植木鉢に入れてね」

コクコクと頷いた女の子は一生懸命に土を移していく。台に置いていたジョウロの水を小さめのジョウロに移して、女の子を見守る。

ふと、視線を感じて視線を挙げ後ろを向くと女の子の母親が、心配そうに少し遠くで電信棒に姿を隠しながらこちらを見ていた。

夕貴は口元に人差し指を持って行き完全に女の子から見えない場所に体をずらして視線を女の子に向けてから母親は、ホッとしたように家に戻って行く。

女の子に資産を戻すと適量まで、土が入れられていた。

「うん、ストーップ。スコップで真ん中に穴を開けて……そうそう」

シャクシャクと穴を掘っている女の子にそっと花を渡す。

「その穴に根っこを入れて、お兄ちゃん、お花支えてるから今、お花さん寒い寒いって言ってるから土のお布団をバケツからかけてあげて」

「うん」

サクサクと二回かけて夕貴が軽く周りの土をかけてからポンポンと押さえて女の子に向かって微笑んだ。

ジョウロを渡すと水をかけ夕貴の一言で動きを止めた

「植え替え終わりだよー。おてて洗ってお家に帰ろうね」

「うん!!」

嬉しそうに、笑みをこぼした女の子に笑みを返して手洗い場に連れて行く。

手についた土を洗い落としてから女の子を抱き上げ、鉢を持たせると家の近くまで送り、家に向かって行く、女の子の後をこっそり追う。

玄関でタイミングよく出てきた女の子の母親は何も知らないフリをして頭を撫でると家の中に入れ扉を閉めるとき夕貴に頭を下げた。微笑んで母親が扉を閉めるのを確認してからきた道を戻った。

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