vsメイドさん その1

盾を作ってもらってから1週間が過ぎた。あの後、結局セタさんから


『コントロールの効かない飛び道具使いが後ろにては前の者は安心出来ないだろう』


という理由から、まさよしシールドにさらに出力の調整機能付きの改造が施されたまさよしシールド改が届いた。


手首のところに10段階の調整用のメモリがついていて、これを動かす事で盾の発射に必要な『一定量の魔力』とやらの上限を調整出来るらしい。上限を低く設定すればそれだけ威力も弱まる。という仕組みだそうだ。


普段の時に暴発しても困るので、現在はそのメモリは0。つまりこれはただの盾である。


「・・・上手くいかないもんだなぁ。」


僕の中の異世界物語は、山をも崩し岩をも砕くような伝説の聖剣を開幕から入手し、バッサバッサと敵をなぎ倒してはたいして関わりの薄かったはずの美少女から好感度爆上げ街道まっしぐらの物だったのに。


あれからも魔力の制御の練習を繰り返し、段々上手くなってきているが実践で使えるようなレベルではない。


「魔王なんて本当に倒せるんだろうか。」


誰ともなくつぶやく。考えたくはないが考えないわけにもいかない。



なんとなくモヤモヤ1人で悩んでいると、コンコン。と、ドアをノックする音が聞こえた。


「マー君?おるか?」


よしえさんだ。


「はーい!なんでしょう?」


「ちょっとええかな?あのな、たまには久しぶりに訓練でもしよか。マー君も新しい装備を手に入れた事やし。」


そういえば最近やってなかったなぁ。確かに、盾ってどんなもんなのか試しておくべきかもしれない。


「わかりました!じゃあすぐ行きます。」



そんなわけで。場所は宿の広い庭。対峙する相手はマキノさんだ。


「はーい!じゃあよろしくお願いしますね!」


10mほど離れた場所でニッコリ笑顔で手を振るメイドさん。見た目可愛いがその実力は恐ろしく強い。手を抜いたり加減するとトラウマを負うレベルで痛い目に合わされる。


マキノさんは相変わらずの素手。僕は木剣。どうやらよしえさんが買ってきたらしい。


「さて。では、はじめ!」


よしえさんの掛け声で、訓練が開始された。



いい加減マキノさんとの付き合いも長い。彼女の初手はいつもお決まり。例の靴で加速しての一撃だ。


見てから反応していては間に合わないので、あらかじめ予測して木剣を『置きフルスイング』する。すると、見事に加速して正面に飛んできたマキノさんの横腹に直撃した。


「ぐぅっ・・・!」


加速と相まって威力はばつぐん。苦悶の表情になるが、当然そんな簡単な事で彼女もひるんだりしない。そのまま右のハイキックが僕の顔面を狙ってくる。


それを僕は左手に装備した盾でガート。ガン!という鈍い音がするが、僕自身にはなんのダメージもない。


よし!いける!やや衝撃はあるものの、体勢も崩す事なくガード出来る。なかなか素晴らしい物ですよこれは!


そこから空いたマキノさんの横腹に目掛けて右手の剣を振る。


「うらぁ!」


しかし、これをなんなく手で止められる。そこから僕の顔面目掛けてパンチのラッシュ。


それを僕はまた盾でガード。ガンガン凄い音がする。手が痛くならないのか少し心配になる。


盾でガードしながら、僕はマキノさんの腹に向かって突きを繰り出した!


が、これをスっと横に回避され、そのままの動きで僕の背後に回るマキノさん。



しまったっ・・・!背後では盾が間に合わな・・・!



と思った瞬間に、僕の頭部に強烈な痛みが走り僕は吹っ飛ばされた。


「がぁぁぁぁぁ!」


たぶん蹴られた。たぶん。痛みでうずくまる僕。



「はい!じゃあそこまで!」


よしえさんの声で一戦目が終了となった。相変わらず全然ダメだ。僕凄い弱い。



「はい。というわけで、久しぶりの実戦訓練やったわけやけども・・・。どうやろな。」


微妙に渋い顔をしてよしえさんがマキノさんを見る。


「ん~・・・。昔の方が強かったですね。今はもう全然ダメです。」


ヒドイ言われ方をした。


「いや!確かにちょっと・・・たいぶブランクあったかもしれないですけど、盾もあるし、いいですよこれ!」


思わず言い訳に力が入る。そりゃまぁ久しぶりでいいとこなかったけど、全然ダメって事ないだろう?


「その盾ですよ。それがたぶんダメなんですよ。盾を装備するまさよしさんからは『守って戦おう』という気持ちがヒシヒシと伝わってくるので、そういう人は怖くないのでダメです。」


いきなりの新装備全否定。痛烈すぎるだろ。


「そう。そこや。盾がある前のマー君は、いわゆる両手剣のスタイルや。剣は小さいけどな。剣で防いで剣で攻める。で、今のマー君は片手剣や。盾で守って剣で攻める。」


ショートソードを両手剣って言っていいのかどうかはわからないけど、スタイルという意味ではその通りだ。


「これまでは、何をするのも両手に握った剣1本。攻めも守りも集中できた。でも今は、左手と右手でやる事が違うわな。このチグハグさがマー君が弱くなった原因の1つや。」


確かに、瞬間の判断を求められる命がけの戦闘ではそういう不慣れが命運を分けるかもしれない。


「最初の一撃以外は全部当たらんかったやろ?それは、右手1本での攻撃が『なんとなく』になってるんやな。両手で持つのと比べて勢いも威力も弱い。あんなんでは一生当たらん。」


一生ときた。でもよく考えたら、片手で全力で棒を振って何かするってシチュエーションてあんまり無いんだよね。そういう意味では熟練度的にも凄い低い。


「それに、盾に頼ろうとしすぎやな。『盾で守ろう』という意識が強すぎるんやな。最後の蹴りも、きっと以前のマー君ならしゃがんで避けるなりしようとしたはずや。『盾で』が頭をよぎるから反応が遅れるんやな」


ぐっ・・・!その通りなんだけど、理屈はわかっても僕戦闘はそんなに経験無いのに・・・。


「で・・・。や。まぁ、素人に毛が生えたようなもんのマー君に、そんな急激な技術の進歩を期待はしてないんよ。でも、このままではアカンのも事実やから、マー君には何かこう、相手が『ギョ』っとするような意表を突く戦い方が必要かもしれんな。」


「ギョっとするような・・・。」


「そう。例えば、盾が飛んだらビックリするわな。そういう、予想外の何か。」


「予想外の・・・。」


なかなか難しいお題のような気もする。でも、確かにこれから僕が劇的に強くなるのも難しい。考えておこう。



「それと、じゃあ私からもいいですかね?」


マキノさんからもご指摘が。僕のプライドはもはやボロボロだ。


「なんというか・・・。これは別に今に限った事ではないんですけど、まさよしさんが元居た世界には魔法が無かったんですよね?」


「はい。なかったです。」


「だからしょうがないのかもしれませんけど、この世界には魔法があります。回復魔法が。だから、ケガをしても大丈夫なんですよ。」


「まぁ・・・。ちょっと頭から血が出たりしても治してもらえますからね。」


「いや。そういう小さい話ではないです。例えば、腕や足が切り落とされたとしても、回復するんです。」


僕自身も腕がニョキニョキ生えた経験がある。


「だから、基本的には守りに重点を置く戦い方は損なんですよね。仮に自分がどんなダメージを負ったとしても、相手を倒せばいいんです。死ななければ死なないんです。」


「守りは損・・・?」


「はい。私やよしえさんは自己回復が出来ますから、戦ってる途中で腕や足が切られても大丈夫。一撃で死なない限り生き残る可能性はかなり高いんです。」


ドラゴンの時・・・はどうだったんだろう。ドラゴンという迫力に押されてあまり味方の被害はよく見てなかった気がする。


「なので、心構えとして『最終的に死んでなければ大丈夫』くらいの感じなんですよ。逆に言えば、死んじゃうと死んじゃうから、その一線だけは絶対に死守する。という心構えもあるわけです。」


「でも・・・。なかなかそんな風には・・・。」


「問題は、まさよしさんがどう考えるかではなくて、敵はそれくらいの心構えで攻めてくる。という事です。例えば、このままいったら右手が落とされるな。という攻撃がきたとして、でも右手を犠牲にすれば相手の首が切れるな。という事なら相手の首を切る事を優先するわけです。」


言いたい事は理解出来るけど、異世界感覚恐ろしい。


「そこで自分の右手を優先したばっかりに倒せるチャンスを逃したら、今度は自分が死ぬ可能性が高まるわけですから。死ぬのは嫌でしょう?」


「そりゃそうですけど・・・。」


「そんな感覚での命のやり取りですから、まず最初に相手に『こいつは怖い』と思わせる事は非常に重要なんです。それだけで相手の攻め手が緩む。だから、そういう意味で守りに重点を置こうとしたまさよしさんは怖くないんです。」


それを聞いて思い出されるのは最初に戦ったゴブリンだった。奴との戦いでも僕がもっと戦う気で挑めば結果は違っただろう。向こうも、僕がまったく戦えない事を理解してからは強気だった。


命のやりとり。というのはそういう事なのだろう。


「そんなわけで・・・。私から1つ、提案があるんですよ。」


優しく笑うメイドさん。



「私と、今から殺し合いをしましょう。」



とんでもない事を言い出した。

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女神よしえと魔王討伐 ~チリチリパーマのオバサン伝説~ こゆき @koyuki1229

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