新兵器誕生

セタさんの部下っぽい人に案内されて、またしても研究所の食堂で待機する事になった。


今回は僕1人での来所なので豪華なビュッフェ形式ではなかったものの、とりあえずテーブルの上に置かれたその料理達はどれもこれも豪華で美味しそうだった。


しかし、残念というか間違えたのは、どうやら今日は前回来た時と違って研究所は普通に営業していたという事。


当然お昼になればゾロゾロと働いている人がやってきて、普段通りのお昼を過ごすのだが、僕だけが明らかに浮いた。


そりゃそうだろう。半日働いてきた労働者の方々から見れば、どこの誰とも知らない謎の人間がなぜか豪華なご飯を食べているのだ。しかも1人で。どこぞの経営者のボンボンでもやってきたのかと思われてもしょうがない。


食堂に入る人誰も彼もが僕の方を生暖かい目で見ては会釈していく。いたたまれない。こんなに空気の重い豪華ランチは今後の人生でもないだろう。



お昼が終わったら終わったで、今度はやたらと広い静かな空間に僕1人だ。まぁ正確には食堂で働いている人達が後片付けなんかしてたりするんだけど、なんとも居心地が悪い。手伝おうかと思ってしまう。


ここに案内してくれた人も、自分の仕事があるからだろうか。早々にどこかへ行ってしまい、本当に僕1人で取り残された形だ。勝手にウロウロしていいのかどうかもわからない。



無限に続くかと思われる、長い長い待ち時間。こんな事ならよしえさん達と一緒に来ればよかった。1人で動いてビックリさせてやろう!とか思った自分の浅はかさを呪った。



それから何時間がたっただろうか。僕の脳内で描かれる妄想小説がついに第3章に入って、ライバルだと思っていた敵の幹部が実は自分の生き別れの兄だと発覚した辺りでセタさんがやってきた。



「時間がかかってしまってすまない!待っただろうか?」


「ひぇあぁ!い、いや!大丈夫ですよ!」


ずっと静かだったので急に声をかけられてビックリした。数時間ぶりに喋るので、最初の方は声が裏返った。


「いやぁ~。最初はありもので、持ってきた物を改造して渡そうと思っていたんだが、やりだすと興が乗ったというか、ついつい真剣になってしまって。まさよしの案を下地に結局ほとんど1から作ってしまった!」


クタクタの顔で、それでもキラキラした目で語るセタさん。この人は本当に研究というか開発が好きなんだな。


「で・・・だ。とりあえず物は完成した。しかし、ここで1つ先に謝っておく事がある。」


そう言って真剣な顔になるセタさん。なんだろう。威力が高くなりすぎて投げた瞬間肩からちぎれ飛ぶ。とかそういう事だろうか。


「あの・・・。気を悪くしないで欲しいんだが、今私が思っている事を率直に言おう。私は、動機はどうあれ真剣に魔王を討伐しようとしているまさよし達を尊敬しているし手伝いたいと思っている。それはウソではない。」


ありがたい事だ。今回の事だって僕の勝手なわがままなのだ。怒られる事はあっても謝られる事などないはずだ。


「ただ・・・。私は、ずっとこれまで長い間研究者や開発者、技術者として生きてきた。好奇心という事ではそこらの奴には負けないと自負している。だから、その・・・。私は・・・。正直な話、まさよしにとても興味がある。」


衝撃的告白!中身の年齢がどれほど高いか知らないけど、外見はロリロリしいチビッ子エルフに『興味がある』とか言われた。異世界的に条例とか大丈夫だろうか。


「いや・・・あの・・・その・・・。ほ、ほら、急にそんな事言われても僕達お互いの事よく知らないし・・・。」


「あぁ!いやいや!勘違いしないでほしい。そういう色恋の話ではない。そうではなくて、私は、まさよしの兵器としての素質に非常に興味があるのだ。」


1人相撲で勝手にフラれたかと思ったらさらに衝撃の話。僕の兵器としての素質とか言い出した。


「まさよしの体の中に眠る魔力の量というかその効率の良さは、私でなくても一線級の研究者なら誰もが目の色を変えて研究したがる、それほどの物なのだ。だから、たぶん、これから先も時々私はまさよしの事を人として見ていないかのような発言をしてしまう事があると思う。だが、それは自分で言うのもなんだが決して悪意があるわけではないのだ。純粋に、私自身の生き方としてそういう風に接してしまうのだ。だから、そういう発言や態度をとってしまっても、どうか気にしないで私と仲良くしてほしい。」


そう言って頭を下げるロリっ子。なるほど。言いたい事はなんとなくわかった。ようは、まさよしという名の永久に動くとんでもない効率とパワーを秘めたエネルギーを前にして、研究者や技術者としての気持ちが、どうしてもうずいてしまう。という事なのだろう。


『こいつを使えばどこまで行けるか』という、各種様々な実験やら開発を本当はしたいに違いない。だからこそ、人ではないかのように接してしまうという事を恐れているのだろう。


最新技術と倫理観の狭間で悩む。というのは科学でも魔法技術とやらでもあまり変わらないらしい。クローンを大量に作って臓器の代替にしてみたいが、それはちょっと・・・。という、そういう感じだろうか。


「大丈夫ですよ。それに、そもそも今のまま平和に生きていくら訓練しても、正直魔王に勝てる気がしないので、どこかで一線越えていかないとダメだと思うんです。だからむしろ僕の事でよければいくらでも利用してください。」


「おぉ!そうか!!ではさっそく・・・。あぁ。いや・・・。そう。こういう事だ。」


顔を真っ赤にして下を向いてしまうロリっ子。なるほど。そういう事か。まぁこればっかりは性分なので仕方ない。仕事熱心なんだともいえる。


「ま、まぁ、その辺はこれからボチボチやっていくとして、とりあえず今日は僕のお願いの話ですよね?ボードの。」


少し話が本題から逸れてしまったので元に戻す。そもそもここへ何しに来たの?という話だ。


「おぉ!そうだった。では、さっそくだが私に着いてきてもらおう!」



そう言われて今度連れていかれたのは、広い庭。遠くの方になにやら大きな人型の的のような物が見える。


「ではまず、今日の成果を渡そう。」


セタさんは、ずっと持っていた箱を開けて中身を見せてくれた。


「・・・なんですかこれ?腕?」


箱の中に入っていたのは、僕の指先からヒジ辺りまでを覆う形の手甲のような物だ。見た目は義手のようなその手甲に、なにやら円盤のような盾のような物がくっついている。


「どうせ作るなら、より軽く、より硬く、より魔力の伝わる効率が上がるように、独自の素材を使って新しく作った。見てわかるように、飛び道具としてだけでなく盾として兼用できるようにした。」


さっそく僕の左腕に装着してみた、なるほど。これは見た目よりかなり軽い。そしてこの円盤部分も確かに硬い。


「その円盤状の盾の部分は、ある操作をするとまさよしの魔力を動力に飛ぶ仕組みになっている。飛んでいく盾だ!」


おぉ!なんか凄い!装着したその見た目的には、どこかのアメコミのヒーローのようだ。思わず盾に星のマークを書きたくなる。



「でもなんかこれ・・・。手首の部分が外側に曲がらないんですけど。壊れてるんですか?」


間接部分が固定されていて、手首が手の平側には動くけど、手の甲側には動かない。あまりそういう動きはしないから不便ではないけど、なんか気になる。


「よく気付いてくれた!そこには、安全対策があるのだ。まず、左腕を水平に上げて、いかにも今から盾を前に発射するぞ!というポーズを取ってみてほしい。」


セタさんの言うように、左腕を水平に伸ばし、盾を飛ばそうとかまえる。


「その状態で、もし手首を上に曲げたらどうなると思う?」


・・・あぁなるほど。やってみてよくわかった。飛んだ盾に当たって指が全部ちぎれて飛ぶわ。


「ありがとうございます。たぶん、今言われてなかったら僕の指が全部飛んでました。」


「少し不便を感じるかもしれないが、やはり使用者の安全に配慮してこそだと思う。」


素晴らしい心意気だと思います。



「さて。それでは、さっそく盾を飛ばしてみようか。まず、さっきの『盾を飛ばすポーズ』をとってほしい。」


言われた通り構えてみる。


「その体勢のまま、右手で左手の手首を握ると盾に魔力が伝わり発射するようになっている。いいか!まだするなよ!」


おっと!危ない。さっそく飛ばすとこだった。


「あの前方に見える的に向けて飛ばしてみてほしい。まだどれほどの威力になるのか想像も出来ないので、もしまさよしの腕ごとちぎれて飛んでも大丈夫なように救護班も用意した。準備は万全だ。」


いつの間にやら僕達の背後に数人の人がいた。言われた事は物騒だが保険は大事だ。


「さ!ではいってみようか!」



前方にある的の方に向かって腕を伸ばし、そのまま右手で左手の手首辺りを握ると・・・。



ヒュン!!という小さいが高い音と共に、高速で盾だった部分が飛んでいった。風の魔法とやらの関係だろうか。マキノさんの靴と同じように、緑の帯をどこまでも伸ばしながら盾は目に見えない速さで前方へ飛ぶ。


その速度と回転により、やや上方にホップしながら的へ一直線に飛び、大きな人型の的の上半身が綺麗に切れて下半身と分かれた。


的までだいたい50mくらいあっただろうか。的を綺麗に切断した後、盾はどこまで飛んだかわからない。



「うわぁ・・・。」



そんな言葉が救護班の誰かの口から思わずもれた。気持ちは凄いよくわかるよ。自分の事じゃなかったら、たぶん同じ事言ったと思うわ。



「おぉぉおぉぉ!見たか今の!凄いぞ!凄い!原理としては簡単だ!そこらで市販されている子供用のオモチャだぞ!それを少し改造しただけで、あのとんでもない威力だ!」


周りのドン引きテンションとは逆に、凄い勢いで食いつくロリっ子エルフ。もうおおはしゃぎ。可愛い。


「・・・あぁ。いや、すまない・・・。つい・・・。」


またしても真っ赤な顔で下を向く。めちゃくちゃ可愛い。


「凄い威力でしたね!我が事ながらビックリですよ!・・・まぁ、しいて言うなら、今後の課題は盾の回収方法ですかねぇ。」


どこまで飛んで行ったのかな。



その後、盾を探して歩いていったが、だいたい100mくらいの地点に落ちていた。さすがセタさんおすすめの素材。派手に飛んだ割にはキズ1つ無かった。


「これはあれですね。飛ばすからには必中を要求されますね。山での戦闘で外したらもう盾は見つからないかもしれませんね。」


加減出来ない。という部分を長所にするために武器化の道を選んだが、やはり強過ぎる事は不便につながる。


「原理の話をしよう。子供用のボードでも同じなのだが、あれは注入された魔力が一定量に達すると飛ぶ仕組みになっている。そして、その『一定量』というのが多ければ多いほど、満たされるのが早ければ早いほど、より強い反発力で飛ぶ。」


空気鉄砲のような物だろうか。手でシュコシュコ空気を注入しても威力はそれなりだろうけど、大容量の機械で一気に注入すれば凄い威力になるだろう。もちろん器が耐えられればの話だけど。


「だから、まさよしが今後ゆっくり魔力を注入できるようになれば、盾を優しく飛ばす事も可能だ。まぁあの様子だとなかなか難しそうだけどな。」


結局はコントロールという部分に課題が残る。まぁ出来てないんだからしょうがない。精進あるのみだ。


「ちなみに、さっきの原理の話からすると、この盾の『一定量の魔力』というのはどれほどの物なんですか?」


「・・・最初に言っただろう?私は、まさよしの兵器としての素質に大変興味がある。と。普通の人なら飛ばすのも難しいだろう。事前のテストの段階で、あれが前に飛んだ者は1人もいない。」


なるほど。その辺もふまえての救護班の反応だったのか。そらドン引きだわ。尊敬というより完全に恐怖の対象だろうよ。人外枠ここに極まれりだ。


「今後ももし何か思いついたら遠慮無く言って欲しい。こういう事を言うと嫌な気分になるかもしれないが、自分がこれまでに覚えた積み重ねた知識や経験をフルに活用して、なお余りあるそのポテンシャルは本当に素晴らしい!」


もしこれが元の世界だったら、まさよし力発電としてモルモットにされる人生が待っていたのかもしれないと思うと、少し怖くなった。


「わかりました。じゃあ遠慮なく頼りにするんで、セタさんの方も遠慮なく僕を使ってください。」


現状頼れる人は少ないので、貴重な人脈である。それに、この仕事熱心で研究熱心なロリっ子エルフの事が僕は嫌いではない。


「そう言ってもらえると嬉しい!ありがとう!」


最高の笑顔で僕に微笑む賢い可愛い子。長い付き合いになりそうだなと、なんとなく思った。



こうして、僕の新兵器。魔力極振りな僕専用の飛ぶ盾が誕生した。そのまま宿に持って帰って宿の庭でよしえさん達に披露したら、案の定ドン引きだった。


マキノさんは、自分の存在意義が少し奪われそうなのでジェラシーを感じるとか言ってたので、ちょっとだけ嬉しかった。

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