2015はるかな未来へ
セタさん待ちから1週間が過ぎた。
滞在費用はセタさん持ちという事で、遠慮する事無くゴロゴロした生活を送り続けている。
ここが高級そうな宿という事もあって、出てくるご飯は申し分ないくらい美味しいし、何か用があればお付きのメイドさんにやってもらえる。
しかも、ここにはマジック・ビジョンもある。美味しいご飯を食べ、ゴロゴロしながらテレビもどきを楽しみ、時々思い出したかのように光る玉相手に集中する。
よしえさんに1度コツを教えてもらって以降、確かになんとなくではあるがコントロール出来つつある。本当になんとなくだけど。
と言っても、さぁこれから集中しますよ!とばかりに玉とにらめっこして数分必要なのだから、なにかしら戦闘に応用するにはまだまだ不十分だ。敵はそんなの待ってくれないし。まだまだ修行あるのみである。
でも修行と言っても動きが無いので体力的には楽チンそのものだ。玉を手に取りじっとみつめるだけの、簡単なお仕事です。
こうして、たった1週間とはいえ精神的にニートの誕生である。もう正直魔王とかどうでもいいんじゃないかな。この生活になんの不満も無いし。
しかし一方で女性陣といえば、ただじっとしているのは苦手なのか結構な頻度で外出しているようである。
最初の頃こそ一緒に出かけたりもしたんだけど、やれ服屋だ道具屋だで長く待たされるのが苦手でだんだん外出もめんどうになった。
でもまぁさすがにこのままではマズイと感じたので、たまには外出でもしようと思い今日は1人で街を探索する事にした。
と言ってもそんなに土地勘があるわけでもないし、あまりウロウロすると悪い奴にからまれたり迷子になったりするのでまずは宿の周りを探索する事にした。
あらためてこうして街並みを見ていると、ここが異世界だという事を忘れそうになる。確かに、服装だとか風景だとかに違いはあるものの、元の世界と基本的にそう大きく変わらない。
行くとこに行けば獣人もいるらしいけど、少なくともこの街にいる限りは見かけない。しいて言えば異世界らしかったのはエルフのセタさんくらいのもんだ。
そもそも、異世界ってなんだろう?僕が元いた世界の宇宙のどこかにこの星?が存在するのだろうか。それとも、現代の科学では解明しようのない不思議パワーによる不思議空間に存在しているのだろうか?
実際に行けるかどうかは別として、理屈の上では繋がった場所なんだろうか?疑問は尽きないが、それを確かめる術は残念ながら無い。
もしかして、セタさんあたりに僕が知ってるだけの科学の知識を教えたら、凄い革命が起きたりするのかな。もっと勉強しておけばよかったと少し後悔した。
しばらくブラブラ歩いてみるけど、特に目新しい物も無かったので、近くにあった公園に入ってみた。
公園のベンチに腰掛ながら、ふと空を見上げる。
あぁ。今日はいい天気だなぁ。
当たり前のようにそんな事を考えたけど、いい天気ってなんだよ。あの、空に輝く太陽はなんなんだよ。・・・太陽なのかなぁ?
でもよく考えたら、元いた世界でも知識として『あれは太陽ですよ』と教えられているからそう思うだけで、実際に行って見てきたわけではない。そういう意味では、太陽だって充分異世界である。
会話の相手もいないままに1人でいると、そんな事ばかり考えてしまう。
ふと、公園の広場に目をやると、そこで子供達が遊んでいた。この街に最初に来た時に見かけたあのフライングボードとかいうやつで遊んでいる。
マキノさんが使う靴の板版だ。元いた世界では、有名な映画の中でも似たような物が登場していた。公開当時は遠い未来を描いたその作品も、現在はその時間を追い抜いたが、ついに空飛ぶ板が一般に普及する事は無かった。
「・・・乗ってみたいなぁ。」
1人つぶやく。靴の時はヒドイ目にあったが、今なら一応原因はわかっているわけだし上手に乗れないだろうか?魔力の制御の練習にも丁度いいかもしれない。
「君達、ちょっと聞きたい事があるんだけどいいかな?」
広場で遊ぶ子供達に、それをどこで買ったのか聞いてみる。慎重に丁寧に聞かないと、異世界でも事案が発生するかもしれない、
そんな僕の心配をよそに、子供達は素敵な笑顔でお店の場所を教えてくれた。幸い、ここからそんなに遠くもなかったので迷う事なく辿り着く事が出来た。
目的のフライングボードを買って、宿にある庭へと戻ってきた。庭と言っても、学校の校庭くらいはある大きな庭だ。さすが高級ホテル。
でも、一応何が起こるかわからないので広さは重要だ。さっきの公園で使ったら大事故が発生する可能性も無くはない。
フライングボードの入った箱を開け、一応の取説のような物を読んでみた。
『このボードに乗り、ボードが魔力を感知すると少し浮上し前進します。その後の操作に関しては、各自の魔力で行ってください』
と書かれてあった。乗れば浮くという事はわかったが、肝心の操作に関しては全然わからない。それだけ魔力の操作というのは当たり前の事なのかもしれない。
まぁ、習うより慣れろだ。まずはボードの上に乗って・・・。
僕がボードの上に両足を乗せた途端に、ボードはブワっと結構な勢いで1mほど上昇。その後間髪入れずにかなりの速さで前方へと飛んで行った。
「うわぁぁぁぁ!!」
丁度スノーボードのような感じで乗ったので、僕は空中で足を払われた形になり、側転風に横向けに体が回転する。しかも1mほどの上昇というのは高いようで中途半端な高さだったので、肩から顔の横側にかけて凄い勢いで地面にこすった。
「いったぁ・・・。」
やっぱりダメだ。向いてない。そもそも、僕の今のコントロールのレベルだと、意識を集中して流れを抑えないといけないので、乗ってすぐ発進してしまうこのボードとは致命的に相性が悪い。
僕の足から離れたボードは、はるか30mほど先まで飛んで行った。
もう1回乗ってみようとは思わなかった。全然ダメだ。才能が無い。まずは、ボードに乗る練習をするための練習が必要だ。当面やっぱり地味な玉遊びから離れる事は出来ないらしい。
無理やりあれに足をくくりつけでもしたら、とりあえずは乗れるのかもしれないけど。
そもそも、繊細なコントロールが無理なんだよなぁ・・・。と、飛んで行ったボードを見ながら考えたところで、1ついい事を思いついた。
速度のコントロールが出来ないなら、する必要の無い物を作ればいいんじゃね?
僕はさっそく、思いついたアイディアを形にするために宿の人に頼んで魔法研究所に送ってもらった。
ゲートでガードマンの人にセタさんを呼び出してもらうと、1時間ほど待った後にセタさんがやってきた。
「おぉ!どうしたまさよし!道具の事ならもう少し待って欲しいんだが・・・。急いで作らせてはいるんだぞ?」
きっと忙しい身だろうに、気さくな態度で接してくれるロリっ子エルフ。とても賢い可愛い。
「お忙しいところ申し訳ありません。今日来たのは、その道具の事じゃないんですよ。ちょっと別件でお願いがありまして・・・。」
「お願い?なんだ?出来る事なら協力するぞ。」
協力すると言ってくれたセタさんに、今日買ったボードの箱を見せる。
「お願いというのは、このフライングボードを飛び道具みたいに改造出来ないかと思いまして。」
そう。上手くスピードがコントロール出来ないなら、いっそコントロールしないで板を敵にぶつけてやればいいんじゃないか?
乗り物ではなく、飛び道具として使えばいいんじゃないか?と思ったのだ。
「・・・ハっ!なるほどな。なかなか面白い事を考えつくじゃないか。1から作るのは大変かもしれないが、有り物を改造するならそんなに手間でもないな。よしわかった!良い物を作ってやろう!」
そう言って、キラキラした目で嬉しそうにボードの箱を受け取るセタさん。さすがは研究所に勤める人だ。こういう実験じみた事はどうやら大好きらしい。
「すぐにパっと出来るわけでもないが、そんなに時間もかからないと思うので、ちょっと食堂で待っているといい。食べ物や飲み物も用意させるから、好きなようにするといい。」
こうして、フライングボード改の作成が始まったのだった。
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