魔王について

「さて。では何が聞きたい?」


妙に見た目可愛らしいエルフの教授は、なぜかドヤ顔でこちらに聞いてきた。


「何が・・・と言われても、正直何もよくわかってないのでなんでも聞きたいです。」


「何もよくわかってないのに魔王を討伐するつもりなのか?どうしてそうなる?」


「いや・・・。まぁ、色々ありまして。」


「ふ~ん。そうか・・・。まぁいい。と言ってもまぁ、ヒコーネでも聞いたかもしれんが魔王に関する情報はとても少ない。」


やや渋い顔でそう言うセタさん。


「討伐に有力な情報・・・例えば、魔王の弱点等が明らかになっているのなら当然すでに討伐に向かっているわけだし、その手の決め手が無いから魔王はまだ健在なのだ。」


まぁそれはそうか。簡単にマル秘情報をもらす程度なら魔王となってもいないだろし。


「それに、魔王はやり方が非常に上手い。情報の操作というか、こう・・・。やりすぎないのだ。」


「やりすぎない?」


「そう。あくまで『おとぎ話の存在』と世界に思わせる程度の範囲でしか前に出ない。モンスターによる被害自体は多いんだがな。」


ヒコーネの王様も同じような事を言っていた。魔王様はシャイなんだろうか。


「例えば、魔王がもう少し前面に出てきて世界を滅ぼそうとしたとする。すると、当然我々も無抵抗でやられるわけにはいかないので何かしら抵抗するだろう。魔王は、そうならないような程度にしか前面に出ない。そして、これが実に上手いやり方だと思うのだ。」


「どういう事ですか?」


「魔王という存在が世界共通ではっきり認識され、それが脅威だとわかれば軍隊が結成されたり勇者というような強い個人が台頭する事もあるだろうし、軍備に巨額の予算を投入する国も出るだろう。だが、現在そうはなっていない。魔王という存在は、実在するかどうかも疑わしいという認識でしかない。言う事を聞かない子供のしつけに登場する程度だ。これ以上言う事を聞かないと魔王のところに連れて行くよ!とな。」


この世界の魔王様は庶民の間ではナマハゲポジションなんだろうか。


「だから、仮にヒコーネの王が巨額を投じて魔王討伐軍を結成しようとすれば、王は気がふれたと思われるだけで誰もそれを本気にしようとしない。しかし、現実に魔王は存在するし少ないといえど確実に被害もある。この辺りの駆け引きの具合が実に説妙だ。」


まぁ確かに、世界規模で総力戦を仕掛けてくるとなれば魔王も不覚を取るかもしれない。僕が元居た世界でも、権力者はより多くを欲し、そして最終的には滅びた。


「そもそも、大きい枠組みでの目的というか、魔王自体が何をしたいのかもよくわからない。そして、こう思わされている時点ですでに情報戦において我々は圧敗であると言える。」


「何がしたいかわからない・・・というのもかなり不気味ですね。」


「そうだな。被害にあった場所や人達も、特に共通点があるように思えないのだ。こういうと言い方は悪いかもしれないが、本当にきまぐれというか、なんとなく。としか思えないのだ。」


誰ともなく、ギリっという歯軋りの音が聞こえた。被害を受けた側にとってはこんなに理不尽な話はないだろう。


「それでも、勝てないまでも戦った人達というのはいないんですか?」


「滅ぼされた人達も当然無抵抗ではないから、戦った記録というのも存在している。そして、それを見る限りではどうやらとんでもなく圧倒的な力を持っているというわけでもなさそうなのだ。」


「いい勝負をした人がいるという事ですか?」


「結果でいえば負けたのだがな。かなりいいところまで押した者もいる。しかし負けた。そして、それがなぜか・・・?という事なのだが、ここに魔王最大の特徴がある。」


「最大の特徴・・・?」


「おそらくだが、奴は死なない。不死身なのだ。」


とんでもない事を言い出した。魔王はどうやら謎チート持ちのようだった。


「死なない・・・。と言っても、だって、回復魔法で回復出来るんだから誰でもある程度は不死身みたいなもんなんじゃないんですか?凄い回復魔法を使える側近がいるとか。」


「いや。どうやらそういうわけではないようだ。その、回復出来る範疇を明らかに越えたダメージからも復活するらしい。といっても、直接見たわけではなく被害者の残した文献によるものなのでどの程度なのかは詳細は不明だが。」


それは・・・。しかし・・・。


「それと、先ほどの中で少し出てきたがどうやら側近も存在するらしい。これについても詳細は不明だが、魔王1人でなんでもかんでも行うというわけではないようだ。まぁそもそもモンスターを従えていると思われるので当然と言えば当然だがな。」


魔王以外にも四天王的なものがいるのか・・・。こんなん勝てるんだろうか。無理ゲーすぎやしないだろうか?


「わかりやすくまとめると、魔王の事は詳細は不明。目的も不明。どうやら不死身っぽくて側近に強い魔物がいる。という事だ。」


「・・・わかりました。」


全然わからないけど。


「魔王についてはこんなところだな。さて・・・。それでは、今日の本題に入ろう。」


そう言ってセタさんは背を伸ばし深呼吸し、僕の目をじっと見てきた。


「本題・・・?僕達は魔王の話をしにきたんですけども・・・。」



「まさよし・・・と言ったか。お前、一体何者だ?」



とても賢いロリっ子エルフは、僕の目を鋭く見つめてそう言い放ったのだった。

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