まさよし論

「何者・・・?というのは?」


この人は何を言い出すのだろうか?僕は別に僕で、特に特別な何かではないと思うのだが。


「入り口のところでチェックを受けただろう?あの時のお前の身体のデータが、いわゆる人間とも我々エルフともまったく違うデータだったのだ。」


・・・え?僕人間じゃないんでしょうか?


「マー君?」


「まさよしさん?」


女性陣も思わず僕に疑惑の目を向ける。いや・・・。そんな顔されても・・・。


「さらに言えば、この世界に存在するあらゆる生き物のデータと一致しない。もう1度聞くが、お前は一体何者なのだ?」


この世界の生き物のデータと一致しない。これはもう、どう考えても原因は1つしかない。僕が僕だけである、オンリーワンの理由。


「え・・・っと、実はですね・・・。」



正直に話していいものかどうか迷ったが、この世界の事情に詳しくない僕が即興で適当なウソを並べてもおそらくセタさんには通用しないと思ったので、ちゃんと話す事にした。



「ボタン・・・?異世界・・・?まったくもって信じがたい話だが・・・。」


驚愕の表情になるロリっ子エルフ教授さん。ビビった顔もなかなか可愛い。


それにしても、改めて話してみると自分で言うのもなんだけどまったくもって信じがたい。マキノさんに話した時はある程度好感度があった状態だったけど、ほぼ初対面の人にこんな話をしても頭おかしいとしか思われないだろう。


「その・・・。正直なところ自分でもどうしていいかわからない部分がありまして・・・。とりあえず、魔王を討伐してくれ。という事だったので、それを実行するしか手がかりがない状態です。」


「それでよく知りもしない魔王の事を討伐だとか言っていたのか。・・・まぁ、普通なら信じないところだが、ゲートでのデータを見る限りはウソではなさそうだな。」


半ば呆れ気味の顔で言われた。



「ちょっといいやろか?」


これまで静かに話を聞いていたよしえさんが急に喋りだした。


「マー君がこの世界の人間とは違う。っていうのはわかったんやけど、ここにはこの世界の生き物全てのデータがあるんやろか?例えば、異世界とか関係なくマー君がまったくの新種の生き物の可能性は無かったんやろか?」


自分がまったく新種の生き物っていうのはちょっと怖いけど、言いたい事はわからないでもない。確かに、この世界に存在しないは言い過ぎではないだろうか。


「どう説明すればいいのか・・・。簡単に言えば、生き物が生き物であるための最低限の条件というのがあって、それはモンスターであっても人間であってもエルフであっても大筋では変わらない。例えば、よしえも他の者とは少し違うが、少し違うというだけで許容範囲だ。それでも珍しいので個人的には興味があるが。」


少し違うのは、おそらくよしえさんが女神だからだろう。それでも、許容範囲だという。


「だが。そこのまさよしはその許容範囲を大きく超える。極端な言い方をすれば、生き物というのも怪しい。もちろんそれはその異世界とかいう場所の出身だからという事になるんだろうが、まだ全身金属人間の方が納得出来るレベルでこの世界の理とは異なる。という事だ。」


どうやら僕はメタルスライムより異端らしい。見た目そんなに他の人と変わらないのになぁ。結構ショックだ。



「で・・・。だ。実は、まさよしがこの世界の人間だろうが異世界の人間だろうが私としては別にどちらでもいい。ただ、一研究者としてお願いがある。まさよしの体を詳しく調べさせてもらえないだろうか?」


魔王の話から始まって、まさよし実はこの世界の人間と全然違う生き物だ説まで語りだした賢いロリっ子が僕に頭を下げてきた。


「せっかくだし1回調べてもらった方がいいんじゃないですか?この前の銃の事とかも、もしかしたら何かわかるかもしれないし。」


マキノさんが、少し心配そうな顔でそう言った。僕としては実験体とかにされそうで不安なんだけど、確かに1度この世界にやってきた影響みたいなものを調べておく必要があるかもしれない。


「そうですね・・・。わかりました。じゃあ、よろしくお願いします。あと、出来たら痛い事とか怖い事はしないでください。」


「その辺は安心してくれていい。辛い思いや不快な思いをさせないと約束しよう。ただ準備に少し時間が必要になるので、すまないが明日もう1度来てもらってもいいだろうか?」



そんなわけで、とりあえず今日のところは解散となった。



宿に戻り、僕の部屋で今日の事について話し合う事になった。


「いやぁ。それにしてもまさかマー君が人間辞めてたとはなぁ。ビックリやで。」


「いや!別に辞めてはないですよ!?ただまぁ・・・。ちょっとだけ、ちょっとだけ他の人と違っただけで・・・。」


「ちょっとぉ?なんか、もはや生き物かどうかも怪しいとか言われてませんでした?金属より人間から遠いとか、まさよしさん怖い。」


さっそく女性陣に冷やかされた。まぁ引いて嫌われるよりは全然マシなんだけど。


それにしても結構衝撃的な事実ではある。よしえさんと違うというのはまだ納得出来るけど、パっと見た感じでは同じ人間同士にしか見えないマキノさんと全然違う生き物扱いとは。


これではもしかして、将来的なラブ・ロマンスの可能性も絶たれてしまったという事だろうか。僕と子作りするくらいならメタルスライムと子作りした方がマシ。とはなんとも悲しい。



「それとあとは魔王うんぬんですかね。結局あんまりよくわかりませんでしたけど、不死身かもしれないってのはなかなか・・・。どうしろっていうんですかねぇ・・・。」


現状倒す手段が無いかもしれない。というのに、討伐しろとはこれいかに。なにかこう、僕達が知らないだけで弱点なんかが存在するんだろうか。


それに、側近として強い魔物がいるらしい。という事もわかった。魔王様がどれほどの強さか知らないが、現状のこちらの戦力だけでは非常に頼りない。


人間枠としてはかなり強い方になりそうなマキノさんもいるけど、基本的にはシャイニングさん頼りの一点豪華主義だ。もしシャイニングさん及びよしえさんに万が一の事があれば、完全に詰んでしまう。


「ま、今ここで考えてもしょうがないしな。とりあえず、まずはマー君の明日の診断やな。果たして異世界からやってきた男の正体やいかに・・・?」


「・・・なんか凄い不安になってきましたよ。」



その後しばらく雑談が続き、2人は自分達の部屋へと戻って行った。


よしえさんとマキノさんが自分達の部屋に戻り、1人になった部屋で考える。



果たして、僕は何者なんだろうか?



『何者か?』というのは少しおかしいような気がしないでもない。そもそものキッカケからして、僕はこの世界にとって異物であるわけだし。僕も他の世界からやってきたのだ。本来ならこんな事で悩む必要すらない。


これまでなんとなく生きてきて、なんとなく憧れていた異世界生活。実際にそうなってみると、問題点ばかりが浮き彫りになって全然スッキリしない。


僕の旅のとりあえずの目標である魔王討伐に関しても、不明な事が多すぎる。魔王がもっとわかりやすく世界にとって脅威になっていれば良かった・・・いや、良くないのかもしれないけど、やりやすかったかもしれない。


でももしそうだったとしたら、いきなり目前に魔王の恐怖が迫っている世界観だったら?という事になるわけで、それはそれで無理ゲー感が漂っている気もする。


大事にならない程度に、しかし確実に被害は与えて世界から忘れ去られない程度にはアピールしてくる魔王とか、とんだかまってちゃんな奴もいたもんだ。迷惑極まりない。



それに、一番気になる事は、どうやら魔王は不死身であるようだ。という点。



ここは、剣と魔法の世界だ。僕のこれまでに知る常識とは違う常識の世界だ。だから、そんな生き物もかなり珍しいまでも存在するのかもしれない。もしくは、なにか魔法の類で不死身っぽく超強化されているのかもしれない。


詳しくはわからない。ただ、そういう、不死身だとかこの世の常識を超えた謎の存在だとかいう生き物には、1つ心当たりがある。



胸の辺りが少し痛い。



ただまぁこればっかりは直接会ってみない事にはわからないし、結局、直接会ってみてもわからない可能性も高い。魔王とやらが自白しない限りはなんの確証も無い。


なにかこう、漠然とした大きな流れに流され始めているような、そんな気がしてしょうがない。


僕が好きだった漫画でも『血統』だとか『才能』だとか『宿命』だとかを理由に強キャラになっていく主人公はたくさんいたけど、よく考えたら自身になんの根拠も無い理由で巻き込まれていくってかなりの恐怖なんじゃないかと思えてきた。



・・・あまり考えても不安になるだけなので、とりあえず今日のところはもう寝よう。まずは明日。セタさんの診断を受けてみて、その結果を聞いてまた考えよう。



その夜は、あまり眠れなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る