マー君の特性

そしてさらに翌日。僕達は検査の結果を聞くために再度セタさんの元へとやってきた。


「で、どうでした?僕、なんかおかしい生き物でしたかね?」


とりあえず現段階で判明しているのは『どうやらこの世界の生き物ではないらしい』という事くらいだ。その通りなんだけど。


「この魔法研究所が誇る最新の技術を駆使してまさよしの事について調べてみた。その結果わかった事は・・・。」


ゴクリ。果たしてその結果とは・・・!



「あまりよくわからない。という事がわかった!!」



なんだそれ。全然役に立たないじゃないか最新技術。



「なんやねんそれ!いや・・・さんざん美味しいもん食べたりしてこんな事言うのもあれやけど、なんやねんそれ!」


関西弁のツッコミが冴え渡る。そらそうよ。俺だってそう思うわ。なんやねんそれ。


「というかまぁ、正直なところ最初からなんとなくこんな風になるような気はしていたのだ。だってほら。少なくともこの世界には他に存在しない生き物の調査だからな。比較対象が無いので調べるも何も。」


まぁ・・・言わんとする事は理解出来ないでもないんだけど・・・。



「だが。1つ興味深い事がわかった。まさよしの体を構成する物質の多くは、とても大量の魔力を溜め込む性質がある。という事がわかった。」


「魔力を溜め込む・・・?ですか?」


「そうだ。この世界には実に様々な魔力を溜め込む鉱石があるが、それのどれよりもまさよしの体の方が素晴らしい。例えばの話だが、その性質を充分に理解した者が使うのであればその腕1本で立派な家が建つレベルの金額で取引出来るだろう。」


なんとっ・・・!どうやら僕は歩く身代金だったようだ。腕を切って落としても回復魔法で生えるのだから、これはもう生きるだけで錬金術だ。大金持ち待ったなし。


「ただし!実際に腕を落として売り払っても、回復魔法でまた生えるわけだから、もしこれが世間に知れ渡った日には昼夜問わずまさよしを狙う者が後を絶たなくなるはずだ。なので、その名の通り体を切り売りする事はあまりオススメしない。」


そうか・・・。拉致されて束縛され、死なない程度に生かされながら腕やら足を無限に切り落とされる生活が待っているのかもしれないのか。それは困る。怖過ぎる。


「でも、なんだか信じがたい話ですねぇ。なにより、まさよしさん自体は魔法を使えないんですよ?なのに魔力を溜め込む体質なんですか?」


不思議そうな顔でマキノさんが言う。そう。僕は魔法を使えない。今の話を聞く限りでは、僕の職業はMPが異常に高い戦士という事になる。完全にあるだけ無駄の死にステだ。


「なっ・・・!この体質で魔法が使えないのか・・・。それは・・・。なんとまぁ・・・。もったいない。」


露骨にがっかりした表情を見せるセタさん。たぶん、有り余る魔力を使って何かでかい魔法でも見せてもらおうとしていたのかもしれない。


「ま、とにかくだ。口で説明しても実感がわかないだろうから、今からちょっとしたテストをしよう。まさよしの体質を目で見てわかるようにしようじゃないか。」



そう言って、セタさんはなにやらボールのような物を持ってきた。


「まずは、そこのメイドの娘・・・マキノといったか。マキノがこれを持ってみるといい。」


「はぁ・・・。」


マキノさんがボールを受け取る。すると、ボールはやんわりと発光した。


「これは、触った者の魔力に反応して光る性質のあるボールだ。だいたいそれくらいの発光が一般人の反応だな。もちろん多少個人差はあるが。」


そして、次はよしえさんがボールに触れた。マキノさんの時よりかなりハッキリ光る。直視すると目が痛くなるくらいに。


「ほう・・・。これは凄い。まさよしがあまりにアレだから触れなかったが、やはりよしえも他の人とは少し違うな。」


真顔でブツブツつぶやくセタさん。研究熱心ロリっ子可愛い。


「さて、ではいよいよ本命といくか。では、ちゃんと受け取れよ。」


よしえさんから返してもらったボールを、ポーンと僕の方に投げて渡すセタさん。ゆるやかに僕の方に向かってくるそのボールを、落とさないように両手でがっちりキャッチしたその瞬間。



目の前で、何か閃光が炸裂した。両手で持った瞬間に、ボールから出た光に目を殴られたかのような痛みが走った。これはもう『光る』とかそんな次元ではない。


「ぐあぁ!!」


「うわっ!!」


当然、まったく警戒していなかった周りにも被害が及ぶ。まだ目は開けられないが、他の人も同じ状況だろう。


そして、手の中のボールから、なにやらキーーーンという高音が発せられ、さらに手の中が凄く熱くなってきた。


「う、うわぁぁぁ!なんですかこれ!ヤバくないですかこれ!!!」


手を離そうかどうしようか迷っている間に、バーーーン!!という音と共にボールは粉々に砕け散った。光は止まり、部屋の中には静寂だけが残った。



「・・・なんですかこれ。」


他2名と比較して、もう別の種目だったとしか思えない程のケタ違いの結果が出た。マキノさんの光が優しい間接照明だとすれば、僕のそれは完全に兵器だ。


僕以外の3人の、僕を見る目が痛い。そもそもこの実験を提案してきたセタさんですら、驚きというよりドン引きの表情だ。他の2人は言うまでもない。


手の中に残ったボールの破片をパっパっと払い、どことなしに目線を泳がせるが誰からも反応が無い。何か言ってよお願いだから。


「・・・いや・・・。予想はしていたが、まさかこれほどまでとは・・・。」


最初に現実に返ってきたのはセタさん。


「もしこの魔力を攻撃魔法に乗せて放ったとしたら、どれほどの威力になるのか想像もつかん・・・。凄く興味があるが、魔法が使えないのならしょうがないか・・・。」


よしえさんがシャイニングさんに変身しても同じ結果になるのかはわからないが、よしえさんと比べても明らかにケタの違う反応だった事を考えると、シャイニングさんの雷の魔法の威力をはるかに上回るはずだ。つまり、レッサーさんは僕にとって赤子以下の存在となる。


「でもこれで、これまでの謎がいくつか解決したじゃないですか。空飛ぶ靴で凄い勢いが出たのも、銃の威力が異常だった事も、まさよしさんの魔力がとんでもなく高かったって事ですよね?」


そうだ。異世界で触れた魔力を原動力にする道具の暴走の原因は、おそらく僕の中の潜在的な魔力が膨大だからだろう。


「銃・・・?この魔力で銃を撃ったのか!!どれほどの威力だった!?」


かなり興奮気味で食いついてきた好奇心旺盛ロリっ子エルフ。そういえば言ってなかったかな。


「えっと・・・。普通はちょっとビームが出るくらいらしい銃で、ドラゴンを消し飛ばしました。」


「なっ・・・!ドラゴンを・・・!?」


「はい。なんか、スドーーーンってビームが出て、チリも残さず消えました。一瞬で。ドラゴンが。」


「とんでもないな・・・。ぜひこの目で見てみたいが・・・。」


「別にかまいませんよ?ちょっとヒジから先が無くなったりするんで怖いんですけどね。」


「ヒジから先が!?・・・さすがにそれは申し訳ないな。しかし・・・。なるほど。そうか・・・では・・・。」


また1人でブツブツと遠い世界に行ってしまったセタさん。



「ほなあれかな。あの、私の魔力が回復するのも、マー君の魔力が高いからやろか?」


なるほど。よしえさんは女神なので、自然に周りの魔力を取り込んだりするのかもしれない。それのケタ違い凄いバージョンが僕とよしえさんのアレなのかもしれない。



「よし!わかった!これから、我が魔法研究所の総力を結集してまさよし達を手伝うために道具を作ろうと思う!」


急に大きな声でセタさんが叫んだ。


「道具・・・?ですか?」


「あぁ!すでに私の頭の中に構想はあるのだ。ただ少し時間が必要だ。1ヶ月後に、新しい道具を作って渡そう!それまではこちらで費用も持つのでこの街に滞在するといい。」



そんなわけで、どうやらこの魔法都市に1ヶ月滞在する事になりそうだった。

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