譲れぬ戦い その2
「じゃあ僕が持ってますから、2人はこれを引いてください。」
2人がそれを聞いて僕の手の中の箸を取る。残った箸が僕の物だ。書かれた字は1だった。
「あ!私が王様や!よ~し。何を命令しようかなぁ・・・。」
まず先行はよしえさん。
「じゃあ、王様が1番にデコピンや!」
いきなりデコピンの刑。
「え~。しょうがないなぁ。優しくしてくださいよ?」
こういうのは最初が肝心だ。口では抵抗しながらもニコニコしながらデコを出し、その瞬間を待ち構えた。
「よ~しいくで~!」
デコピンの構えを取ったよしえさんの指先が赤く光った。その瞬間。とてつもない衝撃が僕のデコに走り椅子から転げ落ちて吹っ飛んだ。
「いったぁぁぁぁぁ~~~~~!」
慌ててデコを触ると、明らかに凹んでいてさらにもの凄く熱かった。
「ま、魔法は無しなんじゃないですかね!頭吹っ飛んだかと思いましたよ!」
「へ~。そっかぁ。魔法は無しなんかぁ。ほな、残念やけどマー君のその凹んで水ぶくれになったデコを治す人もおらんのやなぁ。可哀想に・・・。」
ぐっ・・・!なんだこの女神っ・・・!
「わかりました。じゃあ魔法有りでいいです。」
気を取り直して2回目。
「王様だ~れだ!」
今度は僕は2番だった。
「あ!次は私です!」
嬉しそうな笑顔ではしゃぐメイドさん。マキノさんなら優しいお題にしてくれるだろう。
「じゃあ~。王様が、2番の人にしっぺで!」
またしても物理系。この2人は僕に言えないストレスでも抱えているのだろうか。
「2番は僕で~す!今度こそ優しくしてくださいね?」
一応、明るくふるまう。マキノさんなら無茶はしまい。
「は~い!じゃあいきますよ~?」
しっぺの構えから、緑の光が放たれ、一瞬で僕の腕に2本の溝が出来た。腫れたとか、そういうレベルではない。凹んだ。溝が出来たのだ。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~!!」
腕を抑えうずくまる僕。それを見下ろしながらうっすら笑うメイドさん。
「あらあら。早く立ち上がってくれないとヒールかけられませんよ~?」
よしわかった。ならば戦争だ。
3回目
「王様だ~れだ!」
僕の手元に残ったのは・・・なんと!王様だった!最初は、王様になったらちょっとセクシャルな命令をしてやろうかと思っていたがもう止めだ。これは戦争だ。お互いが滅ぶまで続く戦なのだ。
「よっしゃ~~~!!じゃあ、王様は2番にしっぺで!!」
「あ~!私が2番です!・・・優しくしてくださいね?」
さっき僕の腕に綺麗な2本の溝を作った奴が何か言っている。聞くもんか!逆襲してやる!
「わかりました!じゃあ優しくいきますよ。」
そう言って、渾身の力を振り絞って構える。多少ケガしても癒えるのだ。女性だからと加減する必要もない。
「くらえぇぇぇ!」
僕の渾身のしっぺが、マキノさんの腕に張られた空気の障壁に炸裂!なんの音もしなかった!0ポイントのダメージ!
「わ~痛いぃ~!はい!じゃあ次いきましょう次!」
シレっと次に行くメイドさん。
防御にまで魔法を・・・。許さない・・・。許さないぞ・・・。
4回目
「王様だ~れだ!」
まさかの2連続王様をゲット!ツイてる!神も、奴らを倒せと僕に味方しているに違いない!
「王様が、1番にデコピン!」
「あ~私が1番やぁ。デコピンかなんなぁ。怖いわぁ。」
そう言って心底嫌そうな顔で僕の前にデコを晒す女神。そのデコからは、明らかに謎の熱気が放たれていた。
「・・・アレですよね。なんというか、躊躇が無いというかいっそ清々しいですよね。」
「ん?何もおかしい事ないで?持ってる物を使って戦う。当たり前の事や。」
汚い・・・。汚いぞ・・・。
「で、では・・・。行きますよ?せ~の!・・・あっつい!熱いわ!わかってたけどすげぇ熱いわ!」
指先が真っ赤になった。俺が王様だったはずなのに。
その後も王様ゲームは続いた。
24回目
「王様だ~れだ!」
・・・なぜだ。4回目に王様になってからここまで1度も王様になれない。いい加減腕とデコが無くなりそうだ。
36回目
「王様だ~れだ!」
・・・まただ。また番号だ。もしかして、僕が気付いてないだけでごく短い範囲を無限にループしているのではないか。このまま僕が違和感を指摘するまで何万回でも続くのではないだろうか。
42回目
「・・・王様だ~れだ。」
僕は2番。またしても番号だった。
おかしい。明らかにおかしい。2回続けて王様を引いたあの後、僕は1度も王様になっていない。38回連続番号だ。
イカサマだっ・・・!どう考えてもイカサマだっ・・・!こんなのノーカンだっ・・・!
2人の鬼共はその後も安定してしっぺとデコピンを要求し続け、僕の心はある意味悟りの境地に辿り着くところだ。
もうとりあえずの目標は王様になる事だ。そして、あの2人に物理攻撃は通じない。こうなったら、最初の目的通りセクシャルな命令をしてやる!死ぬほど後悔させてやる!
風の魔法の勢いが充分に乗った殺人デコピンで吹っ飛び、床に後頭部をしこたま打ちつけた僕がリベンジを誓い立ち上がったところで、従者の人がやってきた。
「あの・・・。魔法都市に到着しました・・・。」
「なんでだよ!おかしいだろ!まだ・・・まだ僕は2人に復讐してないのにっ・・・!こんなのイカサマだ!!!」
まったく関係ない従者の人に八つ当たりし、マジ泣きしてしまった僕。
「こんなの・・・。こんなのおかしいよ・・・。」
すると僕の元に鬼女神がやってきた。
「まぁ、今回の事はマー君がまだ王の器にふさわしく無かったって事や。精進する事やね。今日使ったその箸はマー君に上げるわ。」
そう言って箸を僕に握らせスタスタと外へ向かう2人。
「なんだっていうんだ・・・。どうしてこんな・・・。」
手元にある箸を見る。・・・よ~く見ると、字の書いてある方と反対側に、微妙に小さなキズがある事に気付いた。
その時!僕に圧倒的衝撃が走った!!
今回のゲームでは、毎回僕が握った箸を2人が引く。という形式だった。それを利用して、あの2人はこの凄く小さなキズを付けたガン牌ならぬガン箸を作り、僕に王様を回さなかったのだ。
「卑怯ですよ!なんですかこれ!」
「アホやなぁ。イカサマはする奴が悪いんちゃうで?見抜けない奴がアホなんや。」
そう言って、かっこいいポーズで立ち去るイカサマ鬼女神。
・・・いつか、いつか必ず復讐してやる・・・。
こうして、一切観光などしないままに魔法都市に到着した。
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