マジック・ビジョンと甘い罠
「ここが魔法都市か~!」
悪魔の王様ゲームを終え、若干心にシコリを残した状態で僕は魔法都市に降り立った。ヒコーネの街とは外観が大きく違う。ヒコーネより高い建物が立ち並び、近代的な街並みに思えた。
さらに、降り立ったこの場所はどうやら飛空艇の発着場らしく、大小様々な飛空挺が忙しく行き来していた。ヒコーネより普及しているようだった。
僕がいた世界の飛行場と違う点は、離着陸の音がほとんどしない事。目の前の忙しく動くそれとの違和感が凄い。
「では、今回宿泊する宿に案内します。みなさんお疲れでしょうから、教授に会うのは明日になります。」
飛空艇の発着場を出ると、そこにはいつもの豪華な馬車が待っていた。なんか最近過剰にVIP待遇な気がする。
「あれはなんですか?」
馬車で移動中に窓の外を見ると、街の人達がなにやら浮く板の上に乗って移動している。
「あれは、フライング・ボードですね!私の靴の技術を板に使った物です!慣れると凄い便利なんですよ!高いけど!」
嬉しそうに語る鬼メイドさん。シレっとした顔をしているが、この人もイカサマを見抜いたうえで僕を出し抜いた極悪人だ。
「へ~。じゃあ怖いんでいらないです。」
「あ~!なんかちょっとすねてません?」
ニヤニヤしながら僕の顔を見てくるマキノさん。すねてるとかそんな次元じゃないよ。普通だったら死んでるよ。
「そらすねもしますよ!2人して僕の事ハメて!ひどいですよ!」
「でも、マー君だって私達が負けたらなんでも言う事聞かせるつもりだったんでしょう?」
ふいに、いたずらっぽくマー君呼びで耳元でささやくマキノさん。めちゃくちゃドキドキした。
「わ、わかりましたよ!わかりましたから!もうこの話はやめ!次は絶対仕返ししますから!」
童貞の心をえぐる技で上手く丸め込まれた。こうかはばつぐんだ!
「なんかあれやな。ちょっと2人してなんか距離感が近い気がするな。そういえば、私が1人でレース場に行ってた時も2人でデートしてたもんな。やらしいわぁ。」
「もう!何回も言いますけど違いますから!そんなんじゃないですよ!ねぇ?マキノさん!」
「はい!そんなんじゃありません!」
勢いよく否定された。それはそれで悲しい。複雑な男心。
そうこうしているうちに、今回の宿に到着した。そこで待っていたのは、またしてもVIP待遇。王都の宿に勝るとも劣らぬ豪華な宿であった。
綺麗なメイドさんに個室へと案内され、部屋の扉を開けてまず目に付いたのは衝撃の物だった。
テレビが置いてあったのだ。
「あ、あれは・・・?」
「あれは、マジック・ビジョンと言いまして、遠く離れた場所の映像を映す最先端の魔道具です!当宿の自慢なんですよ!」
思わず近寄ってまじまじ見てしまう。どこを見ても電源らしい物は無く、完全にコードレス。動力がどこから来ているのかわからない。
「ふふっ・・・。驚くのはこれからですよ?では、スイッチオン!」
妙に自慢げにメイドさんがリモコンぽい物のスイッチを押す。すると、画面が映ったのだ!!
「う、うおぉぉぉぉ!!」
まさか異世界に来てテレビが見れると思っていなかった。どうやら最先端の技術らしいので普及はまだなのかもしれないが、これで異世界娯楽生活に大きな進歩が訪れたのだ!
「あぁ!お客様!ダメですよ!その画面の中に人はいません!それは、映像です映像!」
今もの凄いバカにされた気がしたけどそんな事はささいな事だ。テレビが見れる!魔法技術最高!僕もうここに住むよ!
「では、最高に快適な1日をお過ごしください。」
そう言って待機部屋に引っ込んだメイドさん。今回の宿ではベルを置いたり持ったりする必要は無い。だって、テレビがあるから!
そうしてしばらくテレビを見ながらゴロゴロしていた。驚いたのは、僕のいた世界も異世界も、テレビ事情はそんなに変わらないという事。
バライティーっぽいのやらドラマっぽいの。ニュースっぽいのまで実に様々だった。この世界の知識がほとんど無いので、ニュースやらドラマはよくわからなかったけどバライティーはなかなか面白かった。
そこで、ふと、気がついた事がある。
そういえば、どうして僕はこの世界の言葉がわかって字が読めるのか?
これまでにも疑問に思った事が無いではなかったけど、あまり深く考えないようにしてきた。なんかこう、そういうもんだと納得していた。
そもそも異世界転移とか意味不明な出来事がきっかけでここにいるのだから、なぜか異世界で言葉に不自由しないくらいお決まりのアレだと思っていた。
まぁでもやっぱり今さら考えてもどうせ答えはわからない。ローブの人のサービスだと思ってそれで納得しておこう。
そんな事より今はテレビだ。
テレビを見ながら過ごす事数時間。誰も呼びに来ないのは、やはり2人もテレビに夢中だからだろうか。
ちょっと飽きてきたなと思ってリモコンを見てみると、そこに気になるボタンを見つけた。
ハートのマークのボタンがあったのだ。
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