魔王とこれから

そして次の日の朝。王様から城への迎えがやってきた。


従者の人に連れられて、三度王様の所へとやってきた。


「さて。よくぞドラゴンを退治してくれた。では約束通り、そなたらの目的である魔王討伐に近付く方法を教えよう。」


王様は語り始めた。



「まず、根本的なところの話。魔王がいるのかいないのか?という話だが、魔王は存在する。おとぎ話などではない。」


よかった。これで実はいませんって事になったら僕の存在意義が危うかった。まぁ魔王がいて良かったって事もないんだろうけど。


「でもじゃあなんで、まるでおとぎ話のような扱いなんですか?魔物を使って街とかを襲う悪い奴なんですよね?」


「それについてだが、そもそも魔王本人が前面に出てきて何かを行うという事がほとんどないのだ。モンスターによる被害というのはよくあるが、魔王本人による被害というのはほとんどない。」


「じゃあやっぱり本当にいるかどうか怪しいんじゃないですか?」


「いや。確実に存在する。なぜなら、魔王に直接滅ぼされた村や街があるからだ。」


王様が、悔しさをにじませた表情になる。


「件数としては多くない。だが、確実に魔王に被害を受けた街や村は存在する。ではなぜ、それらの話が広まらないか?これも簡単だ。狙われた街や村は滅びるからだ。語り継ぐ者がいない。」


どうやら魔王は容赦ない性格のようだ。


「それでも近隣の街や村の人々は、直接見ないまでも噂程度にどうやら魔王の仕業『らしい』という事に気付いたりもする。それが、おとぎ話程度には存在が広がっている理由でもある。」


なるほど。なんとなくわかってきた。


「ただ不思議なのが、魔王の持つ力は圧倒的なはずなのだ。本人だけでなくモンスターも充分に脅威なのだからな。奴がその気になれば、世界を滅ぼす事も、出来るとは言わないが不可能でもないように思う。だが、そこまではしないのだ。時々、本当に時々思い出したかのように街や村を滅ぼすのだ。」


そして王様は悔しさと怒りをにじませた表情で言った。



「まるで、ただの暇つぶしかのように。人を、滅ぼすのだ。」



と。



「なのでもし、世界中の人々が魔王の存在を知る事になった時というのは、本格的に魔王が世界を滅ぼそうとしている時であり、その時にはおそらく手遅れだろう。我々は滅びるしかない。もちろん抵抗はするだろうがな。」


部屋は沈黙に包まれた。ようやく魔王についての実感がわいてきた。


「と、いうところまでがまぁワシが知る魔王についてのほとんどの部分だ。つまり、何もわかっていないのと変わらんな。少し人より高い場所にいるからよく聞こえるし見える。というだけだ。」


自嘲的な笑みを浮かべて王様が言う。おそらく、これまでに僕が想像出来ない程に悩んだに違いない。


ふと、よしえさんとマキノさんを見てみると、2人とも顔を伏せて何やら考えごとをしているようだ。そもそものこの世界の住人なのだから、やっぱり思うところがあるのだろうか。


「で、だ。ワシとしては、魔王を討伐しようとしているそなたらをぜひ応援したい。ドラゴンを倒す実力もあるのだしな。そこで。実力としては力にはなれぬが、知識としてなら力になれる。そなたらを、魔法都市へと招待したいと思うのだ。」


魔法都市・・・?なかなか興味深い名前が出てきた。


「そこにいるセタ教授という人物に話を通しておく。ワシよりも魔王に詳しい人物だ。魔王について色々教えてもらうといい。また明日にでも使いを送るので、今日はこれで解散としようか。」



こうして僕達は、次に魔法都市とやらに行く事になった。



そして宿に帰ってから。僕の部屋にて王様からの今日の話について話し合いをする事に。


「どうでしたか?今日の王様の話。僕は知らない話だらけだったので色々勉強になりましたよ。やっぱり魔王いたんですね。しかもめちゃくちゃ悪い奴じゃないですか。」


「・・・そやで。だから、早くあいつを倒さなアカン。これ以上、あいつの好き勝手にさせるわけにはいかんのや。」


全然何も教えてくれないけど、よしえさんの魔王に対する気持ちはとても強いものだ。やはりその辺は女神様だからだろうか。


「マキノさんはどう思いました?とりあえず今のところまったく勝てる気がしないので、なんとかしないといけないと思うんですけど。」


「・・・あ、あぁ!そうですね!なんとかしないといけませんね!」


どうにもマキノさんの様子がおかしい。顔色も微妙に悪い。


「どうしたんですか?大丈夫ですか?」


「あ・・・。はい。なんか、ちょっとビックリしちゃって・・・。」


無理もない。僕はまだこの世界で暮らしている時間が凄く短いのでいまいち実感がわかないが、ずっとこの世界で生きているマキノさんからすれば恐怖そのものだろう。いつ自分達の世界が不条理に滅ぼされないとも限らないのだから。


「で、次はどうやら魔法都市とかいうところに行くみたいですけど、2人は行った事ありますか?」


「私は何回か行った事あるで。結構色々な場所回ってるからな。物知りお姉さんやねんでこれでも。」


まぁ、お姉さんどうこうは置いとくとして、女神だし世界中旅した事があってもおかしくはなさそうだ。


「私は・・・。無いです。だから、ちょっと楽しみですね!」


そう言ってニッコリ笑うマキノさん。少し調子が出てきたようだ。


「魔法都市かぁ~。どんな所なんだろうなぁ。楽しみですよ!」


「まぁ、いうてもマー君は魔法使えへんけどな。ホンマ残念やで。」


ナチュラルに心をえぐってきた。なかなかに腹の立つパーマネントミセスだ。


「へっ!もしかしたら、僕が知らないだけで使えるかもしれないじゃないですか!もうね。そんなバカにしてたらえらい事になりますよ!まさよし・ダークネス!相手は死ぬ!」


「・・・その名前はダサイわ。」


「シャイニング・よしえと何が違うんですか!似たようなもんでしょう!」


「じゃあ、私はマキノ・ウィンドウ!相手は死ぬ!」


みんなの謎の異名が決まった。



「ま、実際は、当然魔法自体の研究もそうやけど、魔法技術の研究も盛んなとこやね。だから、マー君にとって役に立つような事もあるかもしれんね。魔法以外の何か。例えばこの前の銃みたいなやつやね。」


それは楽しみだ。王様の話を聞いた限りでは、今のままの僕が魔王討伐出来るとはとても思えない。どこかで強くなる必要があるかもしれない。


「そうですね。でもまぁさすがに一発撃ったら腕が吹っ飛ぶ銃はもう勘弁してほしいですけどね。アレは威力が強すぎますよ。」


それに、あんな破壊力の銃では周りを巻き込んでしまう。活躍するつもりが仲間を皆殺しにしかねない。


「戦ってる最中に後ろからまさよし・ダークネスくらったら嫌ですもんね。」


自分で言っておいてなんだけど、ちょっと恥ずかしくなってきた。


「さ、ほな、とりあえず明日のお楽しみやな。明日に向けて今日は解散や。」



そんなわけで。明日からまた新たな冒険が始まる。

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