強い。という事
王様から貰った銃を一発打ったら極太レーザーでドラゴンが一瞬で蒸発してしまった。
現場は、なんとも言えない微妙な空気に包まれた。
「・・・なんや今の。」
シャイニングさんから元に戻ったよしえさんがボソっとつぶやいた。
「よ、よくわからないです。僕詳しくわかりませんけど、元々あんな威力の銃なんじゃないんですか?」
一発撃ったら反動でヒジから先が消し飛ぶ威力の銃が普通かどうかは知らない。
「いやいや!なんでやねん!あれは、ごく一般的な銃よ!ちょっとしたビームみたいなもんを出すだけの銃で、あんなアホみたいな威力は無いよ!それがドゴーーン!って!なんやのあれ!」
そういえば、なんでやねん!ってツッコまれたの初めてのような気がするなぁ。どこか全てが他人事のような気がした。
「と、とにかく、ドラゴンは倒したんですよね?よかったじゃないですか!やったね!」
マキノさんが強引に場を納めようとした。なんかもっとこう、ファンタジーらしいドラゴン討伐感があってもよさそうなんだけど、なんだろうこの感じ。
ふと、馬車の方を見ると、僕達の方を見て顔色の悪い従者の人がいた。
「ひぃっ・・・!」
完全に怯えている。無理も無い。この世界の火力感がどんなものなのかいまいちよくわからないが、自分で言うのもなんだが今のレーザーはシャイニングさんの雷など足元にも及ばない。
ハイオークよりも強いレッサーデーモンを圧倒出来る雷を耐えたドラゴンを一瞬で消し去ったレーザーなのだ。
あれをもし、城に向かって放てばどうなってしまうだろうか。この国の未来を変える破壊力であった事は間違いない。
「まぁ、とりあえずここに居てももうやる事も無いし、帰りましょうか。」
マキノさんに促され、とりあえず馬車に乗って王都に帰る事にした。
行きと違って帰りの車中は静かなものだった。ドラゴン倒して大喜びのはずなのに、なぜか釈然としない。
さらに、行きと帰りで完全に違うのは、従者の人の僕を見る目だ。おそらくこの世界でも充分に規格外の威力だったのだろう。
最初にシャイニングさんの活躍を見た時の街の人達の反応と同じだ。圧倒的な暴力。それを前にして、助けられた事よりも、それが自分達に向かう事への恐怖がある。そんな目だ。
王都を困らせていたドラゴンを退治した英雄達を乗せた馬車は、ただ静かに王都へと向かう。
王都へ辿り着き、そのまま城へと向かい王様の元へ。ドラゴン討伐達成の報告へ向かった。
「おぉ!まさか本当にドラゴンを退治してくれるとは!凄いではないか!」
よっぽど困っていたのか、王様は大喜びだった。
「して、どのように倒したのだ?」
果たして正直に話してしまっていいものだろうか。銃を一発撃ったら極太レーザーでドラゴンが消えました。と。
「・・・みんなで協力して倒しました。紙一重でした。」
王様の目を見ないで僕はそう答えた。チラっと従者の人の方を見たら、一瞬ギョっとした顔をしてうなづいた。
なるほどこういう事か。そう思った。これまで戦果を聞かれても圧勝だったと言わなかったよしえさんの気持ちが少し理解出来た。
「そうかそうか!ご苦労だった。今日はもう疲れたであろう。褒美に関しては後日また連絡するとして、まずは宿に帰って休むといい。」
気を使ってくれた王様のおかげで、本日は簡単に解散となった。
宿に帰り、自室のベッドに寝転がる。よしえさんとマキノさんは、銃を撃って以降僕の様子がおかしい事を気遣って、何も言わずに僕を1人にしてくれた。
なんだったんだろう。よしえさんは、あの銃はごく一般的な物だと言っていた。それが、なぜかあの威力だ。
僕が知ってるファンタジーなら、原因不明でもなんでも圧倒的な能力を手に入れてチートだなんだと大喜びする場面なのかもしれない。
でも。僕の中に、僕の知らない何かがあって、それが強大なパワーを秘めているかもしれないのだ。
今回たまたま空中にいるドラゴンに向けて撃ったからよかったようなものの、洞窟内での戦闘中に撃っていたらどうなっていただろうか。
恐らく、死んだ事にも気付かないレベルでよしえさんとマキノさんも巻き込んでいたに違いない。
この王都の街中で撃ったらどうなっただろう。魔法に対して頑丈である王都の建物でも、耐えられると思えない。おそらく大惨事になったに違いない。
恐ろしい。自分の身に何が起きているのかわからない事が、怖い。
そして、あの従者の人の僕を見る目だ。なんとなく、本当になんとなくぼんやりと強い力に憧れはあった。ただ、それが圧倒的すぎると、周りはそれを恐れるのだ。
自らの人生を犠牲にし、ひたすらに己を鍛え上げ、人外の力を手にして魔王を倒し、英雄となった勇者の人生のその先にあるものは何か。
魔王を倒した手に負えない化け物。いつかその力の矛先がこちらに向けば、魔王よりも恐ろしい化け物。
まぁ、さすがに魔王を倒したとまではいかないでも、この力もなかなかの規模である事は間違いない。もし今日の事を素直に話せば王様だって素直に帰してくれたかどうかはわからない。
考えても仕方ない。でも、せめて何が起きているのかわかれば対処も出来るのに。いつかこの力が自分の大切な何かに向かってしまわないか不安になる。
そんな事を延々と考えていると、ドアをノックする音が聞こえた。誰か僕の部屋にやってきたようだった。
「はいは~い」
ドアを開けるとそこに居たのは、心配そうな顔をしたよしえさんとマキノさんだった。
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