vsドラゴン その2

洞窟の中に入ってしばらく歩くと、開けた広い空間があった。そしてそこに。



いた。割とすぐいた。ちょっとした一軒家くらいの大きさの、翼の生えた化け物がそこにいた。


あぁもうダメ。帰りたい。なにこれ。超デカイ。幸い、奴はまだこちらに気付いていないようだった。どうやらお休み中のよう。


犬のように丸まって寝ている姿が、全然可愛くない。だって顔だけで軽自動車くらいあるし。あの口から炎吐くとか考えただけで頭おかしくなりそう。


もし元の世界にドラゴンがいたら、上手くてなづけてドラゴン力発電が捗りそうだと思った。


「あの・・・。なんか、寝てるみたいだし、起こしたら悪いからまた後日にしましょうよ。」


そんな提案をしてみる。きっとほら。知性のあるドラゴンで、話せばわかってくれる系の可能性も否定できないじゃない?


「寝てるなら、こんなチャンスはありませんよ。一気にやってしまいましょう!みなさん、目を閉じて耳をふさいでください!」


言い終わるかどうかのタイミングで、シャイニングさんの攻撃。



「ライトニング・ボルト!!」


バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ!!!!


前回にも増して長時間の雷がドラゴンに浴びせられた。寝起きで落雷とか最悪の目覚ましだ。もはや交渉の余地は死んだ。


今回は事前予告があったので目も耳も大丈夫だった。ただ凄まじい地響きが足から伝わり、その破壊力に恐怖した。


「グオォォォォォォォォォォッォォォォ!!!」


丸まってお休み中だったドラゴンさんが起きたようです。タッタラーン!はいドッキリでした!と言いたい。しかし、目の前のその存在感は圧倒的にリアルだった。


寝起きのドラゴンさんは、こちらに向けて大きく口を開いた!


「ガァァァァァァァ!!!!」


凄まじい咆哮と共に、発せられる炎。だいぶ機嫌悪そう。そらそうか。


腕輪がボーっと光り、全身が淡い光に包まれた。どうやらこれが魔法効果らしい。洞窟内という事もあって、一瞬で目の前が火の海になったがどうやら大丈夫そうだ。


もし腕輪が無かったら、今の瞬間死んでたと思うとゾっとする。



「シャイニング・ソード!」


シャイニングさんの手から光の剣が伸び、超加速でドラゴンの元へ向かう。それを追うように、マキノさんの空飛ぶ靴が緑の光の帯を伸ばす。


そして、僕はなるべく離れて安全な場所に避難した。さすがに剣の練習どうこうで倒せる敵にも思えない。行っても足手まといになるだけだ。


なんだろう。確かここに来た時の立ち位置は勇者だったはずなのに。



遠くから離れて見る限りでもシャイニングさんの剣の威力は凄まじく、圧倒的な速さと攻撃力でドラゴンを翻弄している。


さらに、マキノさんのフォローも優秀で、どちらにも意識を集中させない戦い方は素晴らしいの一言だった。


しかしドラゴンもやはり強い。これまでのように一撃で心折れたりはしなかった。なにより、奴はなんと回復魔法が使えたのだ。



シャイニングさんがズバズバ切っていくそばから回復で癒えていくドラゴンの体。おかげで、無限に飛び散る肉片と血しぶきで周辺は完全に地獄絵図と化した。


戦う場所が洞窟内というのもこちらに有利に働いた。この中で戦う限りではドラゴンは空を飛べない。爪や牙、尾での攻撃もそれはそれはとんでもない威力に見えたが、それでもやはり広さが無いと本領発揮出来ないように見えた。



シャイニングさんが切る。マキノさんが舞う。それをドラゴンが落とそうとする。ちぎれ飛ぶ翼。その大きさは六畳ほど。しかし、それがすぐ再生する。そして何事も無かったかのように戦いは続く。



時間がたつにつれ、洞窟内に積もっていくドラゴンのナニか。その総量はもはやドラゴン1匹を越えそうだ。質量保存とは何か。疑問に思わないでもない。


しかし考えても意味が無いので、今のところの僕の仕事は2人が戦いやすいように肉片を端に寄せる事だ。



20分ほどたった頃だろうか。少しずつ、2人が押され始めてきたように思えた。魔力が無くなりつつあるのかもしれない。


と、思ったその時。そろそろ嫌になったのだろうか。ドラゴンが急に洞窟の外へ向かって逃げ出したのだ。


僕の元へと駆け寄ってくる2人。相当に顔色が悪い。


「まさよしさん!ケガはありませんか!」


シャイニングさんが僕の心配をする。大丈夫です。ほとんど何もしてませんので。



僕の心配よりも、シャイニングさんの様子の方が心配だ。今回もかなり無理をしている気がする。僕にも何か出来る事は・・・。


「そうだ!シャイニングさん!僕と手を繋いでください!」


前回の事を思い出し、よしえさんが回復したのならシャイニングさんも回復するかもしれないと思ったので、シャイニングさんの手を握った。


するとまた、僕達の体が白い光に包まれ、しばらくして光は消えた。前回より長い間光っていた気がするのは、それだけ消耗していたのだろうか。


「ど、どうですか?」


相変わらずどうしてこんな事が起きるのかはわからないままだが、今は命がけの場面なので躊躇している場合ではない。


「ち、力が戻った・・・。本当に、どうしてこんな事が・・・。」


どうやら回復したようだ。でも、今は原因について考えている時間は無い。


「キーー!悔しい!いいとこまではいくのに、あと1歩が足りないんですよね!!」


悔しそうなマキノさん。2人とも僕に対してなんの文句も言わないところが余計に罪悪感を感じる。


あと1歩かぁ。なにか決め手になるようななにか・・・。



とりあえず3人で洞窟の外へ向かったドラゴンを追う。外に出ると、奴は空からこちらを見ていた。どうやら逃げるつもりもないらしい。


ただ、これで戦況は奴に圧倒的に有利になった。こちらからは奴を落とすための手段がほとんどないからだ。


でも、こちらに攻撃しようとすればブレスは効かないから近づいてくるしかない。ドラゴン側もまた、打つ手が無い。



何かいい手は無いものかと考えて、そういえば王様から道具箱をもらった事を思い出した。


ドラゴンの見張りを2人に任せ、馬車に積んだ箱の中から何か使えそうな物は無いか探していると、銃のような物があった。これなら、遠距離攻撃が出来る。



僕は大急ぎで2人の元へ走り寄った。



「ほら!見てくださいよ!王様からの支給品の中にこんな物が!」


僕はそう言って2人に銃を見せる。


「これで奴に狙いを定めて遠くからバーン!ですよ!」


僕がドラゴンに向けて銃を構え、トリガーらしき部分を指で引いた。



キューーーーーーン!ギュイーーーーーン!!



仕組みは謎だが、銃から何かパワーの溜まるような大きな音が鳴り、凄まじい量の光を放ち始めた。



「え!・・・え!!」



何が起きたかわからない。ただ、僕が手に持つ銃が凄い音をたてて、凄い光を放ち、凄い熱くなっていく事だけがわかる。


時間にして数秒ほどの事だった。ふ。っと一瞬光と音が途切れた。そして、次の瞬間。



ドッゴーーーーーーーーーーーーーーン!!



空気を切り裂く轟音と共に、光り輝く極太のレーザーがドラゴンに向けて発射された。ドラゴンと比べてもまだ大きいそのレーザーは、一瞬で無慈悲にドラゴンを焼き尽くし、その後には何も残らなかった。



そして、銃を撃った僕の手は、その反動からかヒジから先が無かった。



「う、うわぁぁぁぁぁぁぁあぁ!!」



すぐにヒールで生えてきたので助かったが、痛みよりもまず驚きの方が大きかった。



こうして、凡人まさよしはドラゴンスレイヤーになったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る