モンスター襲来
みんなで観光に行き、楽しい思い出も出来た。
いつまでも、世界が平和でありますように。そんな事を考えながら眠りについた夜。
突如、街中に大きな鐘の音が響き渡った。
「モンスターだ!モンスター達が襲ってきたぞ~!」
突然外が騒がしくなり、僕も慌てて飛び起きて身支度をして玄関へ向かうと、同じようにマキノさんやよしえさんも玄関にいた。
「マー君!外に行くで!街の人を助けるんや!」
そう言って飛び出すよしえさん。その後に続いてマキノさんと僕も外へ出た。
外へ出て僕達が目にしたのは、オークとゴブリンの群れ。そして、それを率いるボスのようなモンスターだった。
羽の生えた細い鬼。灰色の体のそれは、まさしく悪魔という印象のモンスター。
「レッサーデーモン・・・。どうしてこんなところに・・・。」
よしえさんがボソっとつぶやいた。
「まずは街の被害を減らすために周りのモンスターを倒すで!その後あの羽の奴や!」
そう言ってよしえさんが光り輝いた。シャニングパワー・メイクアップだ。
「はぁぁぁぁぁぁぁ!!」
シャイニングさんが気合を入れると、またしても手の平の前に魔方陣が浮かび、無数のファイヤーボールが飛び立った。
「グギャァァァァァァ!!」
前回同様1m級のその火球は、周囲にいたモンスターどもを一瞬で焼き払い炭にした。
「では、みなさんも無理はしないように!」
駆け出したよしえさんはすぐに見えなくなった。
「よ~し!じゃあ私も頑張りますか!」
マキノさんも気合を入れる。よく見ると、その手には薄い手甲のような物を付けていた。
「それは?」
「あぁ。これですか?これが私の本気モードなんですよ!それに、今日は秘密兵器もあるんです!」
そう言って足元を指差すマキノさん。マキノさんは、観光した時に見た空飛ぶ靴をはいていた。
「これは自前のやつでちょっと特別製なんですけどね。凄いんですよ?」
自慢げに胸を張るマキノさんの足元が緑色に光ったかと思うと、凄いスピードで前へ飛んで行った。
飛んで行った先には、新たにやってきたオークがいた。
飛んできたマキノさんの気配に気づいたオークが構えた時には、すでにマキノさんは急上昇してオークの頭上でくるくると3回転ほど回って背後に着地。
振り返ったそのままの勢いで、オークの体に向かって綺麗なキックを見舞った。
僕がやられた時と同じような流れだったけど、僕の時と違ったのはキックの威力に靴のブーストの勢いが上乗せされ、凄まじい破壊力であった事。
3mある巨体が横に回転しながら吹っ飛んでいくその様は、あれはあれで魔法のようだった。
「・・・す、すげぇ。」
その後の活躍も凄まじいものだった。襲い掛かってくるオークを空飛ぶ靴と体術で倒していく。
オークの棍棒の攻撃も、手甲の部分で受けるというより当てて流すといった感じでさばいていく。靴の緑の光が綺麗で、まるでそれは蝶のような戦い方だった。
特に凄かったのが、股間を蹴り上げられたオーク。蹴られた勢いで2mほど宙に浮いていた。見ててキュっとなった。モンスターだけど同情するわ。
しかし見とれている場合ではない。僕もモンスターを倒すんだ。そのために特訓してきたんだ!
いくらかマシになった構えでショートソードを構える。
すると僕の元へ、1匹のゴブリンがやってきた。手には刃物を持っている。以前の奴に比べるといくらか長く、また綺麗な刃物であった。
剣の柄を握る手に力が入る。全身に、ブワっと嫌な汗が出る。
前回のように重症の相手ではない。街を襲いに来たのだから、当然こちらに敵意もある。
殺らなければ、殺られる。
命のやり取りが、始まる。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
考えれば、後手に回れば、長引けば、間違いなく経験の差で殺される。だから、まずもう何も考えないで敵の頭を狙った。
僕のそんな渾身の一撃を、敵はスっと横に動いてかわす。全力で打ち下ろした剣は地面に当たり、派手な金属音を立てた。
指の先からヒジの辺りまで、電流のようなシビレが走る。
「ぐうぅぅっ・・・!」
しかし、ここで止まってはいけない。躊躇してはいけない。目の前に、死が。生が。両方が曖昧に揺れていた。
次に、ゴブリンが僕の体を狙って水平に斬りつけてきた。
「ギッ・・・!」
僕はそれを剣で止める。よしえさんの剣に比べればいくらか遅い。ただ自分の身を守るだけであれば、それなりに戦えるような気がした。
でも、それではいけない。ゴブリンは稽古相手ではないし長引けばどんな手段を使ってくるかもわからない。
「がぁぁぁ!!」
受け止めたゴブリンの剣を、全力で上に弾き上げた。体格で言えばゴブリンは僕より相当に小さい。力勝負なら負けないと思ったのだ。
ゴブリンの剣が、宙を舞った。手から離れ、どこかへ飛んでいく剣。
丸腰になり、一瞬固まるゴブリン。
「だぁぁぁあぁ!」
剣を低く構え、体ごと当たるつもりでゴブリンの腹めがけて剣を突き刺した。
ずぶり。と嫌な感触が手に伝わり、剣の刃が見えなくなるくらい深く剣は突き刺さった。
本当に一瞬だけ、時が止まったかのような気がした。
その直後、まるで水風船が破れたかのような勢いで血が噴出し、密着した僕の全身を濡らした。
溢れていく。もう必ず助からない量の命が、溢れていく。もう、戻らないのだ。
僕が、殺したから。
怖くて目を閉じそうになった。でも、なんだかそうしてはいけない気がして、目を開いて、僕が初めて奪ったその命が消えていくまでをながめていた。
どうやら完全に動かなくなった事を確認してから、剣を抜いた。
ゴトリ。そんな音を立てて元・ゴブリンだった物は倒れた。
血に染まった自分の手と体を見て、自然と涙が溢れて止まらなかった。
剣を落とし、膝から崩れ落ちそうになった時、ふと目の前にシャイニングさんがいた。
シャイニングさんは、僕と同じでモンスターの返り血を浴びて赤かったが、僕を見ると優しく微笑んだ。
「大丈夫。まさよしさんは、優しい人です。私はそれを知っています。だから、大丈夫です。」
そう言って、戦場の中だというのに僕を抱きしめた。
「うわあぁぁあぁぁぁ!!」
すがり付いて泣いた女神様は、血の匂いがした。
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