おおまさよし!しんでしまうとはなにごとだ!

気がつくと僕は、不思議な空間にいた。


『僕』としての実体は無く、ただ暗く、どこまでも広い不思議な空間。


今の状態は、魂とでも表現すればいいんだろうか。動く事も、動かす事も出来ない。


そこにただ、浮かんでいた。というのが正しいのかもよくわからない。


これから僕はどうなるんだろう。体が無いせいか、色々な事の境界が、輪郭があやふやになっていく。


僕はどうしてここにいたんだっけか・・・。



すると突然、世界が白く光り始めた。何かに引き寄せられるような、そんな感覚があって・・・。



「マー君!しっかりしぃや!頑張るんや!!」


・・・よしえさんの声が聞こえる。どうやら僕は僕の体に戻ってきたようだった。


目を開けると、そこには涙ぐむよしえさんの顔が見えた。僕は今よしえさんの膝枕で寝ているようだ。シャイニングさんではないのは、時間が切れたからだろうか。


「・・・あぁ。よしえさん。おはようございます。」


「ま、マー君!!よかった!!ヒールが間に合ったんやね!!」


どうやら、シャイニングさんが僕に全力ヒールをかけてくれたようで、それがギリギリ間に合ったらしい。


ヒールというのは不思議なもんで、さっきまで死にかけていたのに全快するもんだから、肉体的には疲労感が特に無い。


息も絶え絶えにゆっくり動くのがやっと。というわけではなく、普通にシャキっと動けるのだから、なんか感覚がおかしくなりそうだ。


あまり心配をかけても悪いので、よいしょと起き上がり周りを見渡す。


「・・・ゴブリンがいませんでしたか?」


僕を殺したあのゴブリンはどうなったのだろうか?


「それがな。逃げられてしもたんよ。まぁ結構な重症やったから、遅かれ早かれやとは思うけどね。」


「・・・そうですか。」


思い出されるのはついさっきのゴブリンとの戦い。


僕は、ゴブリンを殺せなかった。これから先もこのままだと、魔王討伐どころではない。


今回たまたま助かっただけで、いつかそのうち間違いなく死ぬだろう。


「・・・ま、色々思う事はあると思うけど、とりあえず今日はもう帰ろうな。ゴブリンの群れも倒したし。」


どうやら今回もシャイニングさん無双だったようだ。


「そうですね。もう疲れました。」


あまり長居してまたゴブリンがやって来てもたまらない。先を歩くよしえさんの後を、やや気落ちしながら遅れて歩く。


下を見ながらトボトボ歩いていると、ふと足元に光る物をみつけた。


不思議に思い拾ってみると、それはなんと指輪だった。


「・・・なんだこれ」


特に綺麗とも思えないが、見ているとどことなく不思議な感覚になるその指輪。


「よしえさん!なんか指輪拾ったんですけど、ちょっと見てもらえませんか?」


先を行くよしえさんに声をかけた。指輪を見たよしえさんは、少し驚いた表情でこう言った。


「・・・マー君?これをどこで?」


「え?・・・今、歩いてたら落ちてたんで拾いました。」


「そうか・・・。これは、ちょっと珍しい指輪なんよ。だから、マー君はこれからこの指輪を肌身離さず持ってるといいわ。」


「そんなに珍しいんですか?何か特殊な力があったりするんですか?」


もしかしって、チートレアアイテムゲットだろうか。


「ん~・・・。まぁ、お守りみたいなもんや。ただ、珍しいのは珍しいから、これから先マー君がそれを持ってるっていうのは誰にも言うたらアカンよ。」


「言うとどうなるんですか?」


「狙われるかもわからんね。強盗とかに。」


それは怖い。異世界容赦無いからな。


「わかりました。気をつけます。」



今日の戦果は、0勝1負。戦利品として不思議な指輪を拾った。

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