君の名は

確かに、最初よしえさんが白く光ってあの騎士が現れたわけだから、正体はよしえさんなのかもしれないけど・・・。


「よ・・・よしえさん?・・・ですよね?」


いかにもオカンといった見た目のよしえさんがなぜ急にあんな女騎士に・・?


「・・・せやで。よしえや。マー君はケガ無いか?大丈夫か?」


「は、はい。僕は大丈夫です。それにしても、よしえさん、今のは一体・・・?」


あの、美しく強く、でもどこか悲しげな姿はまさに女神の名がふさわしく思えた。


「・・・シャイニング。」


「・・・え?」


「シャイニング・よしえや。」


「シャイニング・よしえ?・・・何がですか?」


一仕事終えて辛そうな顔のパーマネントミセスは、まるでプロレスラーのリングネームのような名前をつぶやいた。


「さっきの変身のやつな。あの時の名前はシャイニング・よしえっていうんよ。かっこええやろ?」


そう言って、疲れているのに無理に笑ったその顔は、確かにあの女騎士の面影が無いでも無いでもなかった。


「どうやってあの姿になるんですか?なんか装備とか全然違うんですけど、魔法か何かで?」


「・・・こうな。魔力をグーーっとこめてガーーーっとすると、バーーーーっと変身するねん。」


なるほど。全然わからん。色々な事が急に押し寄せてきたからちょっと忘れてたけどそういえばここは異世界なんだった。


そういうものだ。と納得するしかないのだろうか。


「・・・そうですか。なんか全然わからないけど、とにかく、凄かったですよ。一気にモンスターも倒したし。」


「まぁ、欠点は長い時間あの姿にはなってられへんとこなんやけどね。」


やっぱりあれだけの強さなんだから、魔力切れとかになるんだろうか。


「あんまり長い事変身してると、次の日に足腰がめっちゃ痛くなるんやわ。」


「・・・そうですか。」


凄いような凄くないような。そんな話を僕達がしていると、遠巻きに様子を見ていた街の住人の中から、1人の中年男性がこちらへ近づいてきた。


「あ。あの!さきほどの女騎士・・・?さん・・・?ですかね・・・?私は、この街で町長を務めるものです。助けていただいてありがとうございました!」


そう言って、町長さんは頭を下げてきた。


「あぁ・・・。全然かまいませんよ。困った時はお互い様です。だから、顔を上げてください。」


街の英雄よしえさんは、なかなか謙虚な人だった。


「いやでも、本当に助かりました!実は以前からあのオーク達には悩まされていまして・・・。でも、あれだけ団体でくる事はこれまで無かったんですが、一体・・・。」


あんなモンスターがちょいちょい襲ってくるとかとんでもない脅威だ。異世界恐るべし。


「そうだ!街を救いっていただいた方に何のお礼も無いというわけにもいきませんので、私の持つ別宅でしばらく滞在なさってはどうでしょうか?見たところ旅の冒険者の方のようだし、住むところが必要では?もちろん、お急ぎなら無理にとは言いませんが。」


なんと気前のいい人だろうか。でも確かに、このままだと2人で住む家もない。どころか、そもそも今晩の宿すら無かったわけで、あやうく野宿になるところだった。


「そうやねぇ・・・。確かにこのままやと、住む場所も無いしねぇ・・・。はい。ありがとうございます。しばらくお世話になります。」


こうして、僕とよしえさんの魔王討伐への物語が始まった。

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