1章

君がこの世に生まれてきた事は偶然じゃなくて

「こちらになります。」


そう言って町長さんに案内されたのは、それなりに大きな一軒家だった。なんと庭付きだ。


なんでも、この家には元々町長さんの親族が住んでいたのだが数年前にモンスターの襲撃で亡くなってしまったそうで、時々手入れはしていたものの空き家だったそう。


家やその人への思い入れがもう無い。と言えばウソになるけど、ずっと空き家でももったいないし、なにより街を救ってくれた英雄様に貸すなら故人も文句は無いだろう。とのことだった。


街の方の被害もそれなりに大きかったはずなのに、僕達に不便があってはダメだという事で町長さんのポケットマネーから当分の生活用品も用意していただき、バタバタと入居が住んだ頃にはすっかり夜だった。


色々あって疲れたけど、とりあえずの我が家を見て回る。


気になったのは異世界の水周り事情だった。お風呂という風習があるのか心配だったが、どうやら異世界でもお風呂はあるらしい。


なんでも、魔力を流せば暖かくなる石。というなんとも便利な物があるようで、そこはよしえさんにお願いしてお風呂を沸かしてもらった。でも、シャワーはないようだった。


トイレは、水と風の魔法を使って、水を常に渦巻きのようにして水道管のような物の中を流れていく仕組みだそう。これで管の中で詰まらないんだとか。魔法すげぇ。


お風呂も済まし、ではいよいよ寝ようかと思い各自で決めた自室のベッドの中に入った。


目を閉じ最初に考えたのは、今日見た街での悲劇だった。



よしえさんのおかげで何人かの命は助かったけど、それでも失われた命もあった。


僕が以前いた世界では考えられない。まるでおとぎ話の世界のような、そんな薄い現実感の中で、目の前で人が死んだ。


しかし、不思議に思う事もあった。腕が無い。足が無い。それらは魔法で再生した。でも、頭が無い。これは再生しなかったのだ。


これから考えると、どこかに生きると死ぬの明確な線引きがあるのだ。ここからは生きています。でも、ここからは死んでいます。


まさか自分で試すわけにもいかないけど、どうなってるのか気にはなった。


それにしても、怖い。恐ろしい。攻撃が一発頭に当たれば間違いなく死ぬ。そんな世界で魔王討伐。


とてもではないが出来る気がしない。


だからと言って他にあてがあるわけでも・・・。



と、考えていると、部屋のドアをノックする音が聞こえた。


「は~い!どうぞ!」


誰?という事はない。この家には僕とよしえさんしかいない。


「マー君・・・。ちょっとええかな?」


ドアを開けて入ってきたのは、いい感じにお風呂上りのラフな部屋着に着替えたパーマネントミセスだった。


少しいい匂いがしたのが、妙に腹が立った。

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