story8

「私の誤解だったなんて、恥ずかしいわ。

こんなこと頼んでごめんなさいね」

「いえ、またご依頼お願いします」


初任務を終えて約1週間。

依頼結果を報告するために奥さんを呼んだのだ。

安心した表情で出ていった奥さんを見て、ライも嬉しくなった。


表の方の仕事も慣れてきて、ライ1人で接客をすることも増えていた。

その代わりにシグレ達は、裏の仕事を率先的に行っていた。

理由としては単純で、その方がお金が入るから。

危険度は確かに上がるが、そんなことを理由にやめるつもりなどさらさらない。

ライは、表の扉に『CLOSE』の看板を下げ、鍵を閉めた。

今日は確か仕事もなかったし、ゆっくりできる。

そう思ったライは、伸びをして自分の部屋に入ろうとしたときだった。


「ライ、ちょっと来い」

「なにかあったんですか?」


いつもと違って余裕のなさそうな表情を浮かべるシグレに尋ねた。


「今、あるファミリーのボスが来ててな。パソコンだけ持って来てくれ」


それだけ言うと、カツカツと音を鳴らし行ってしまった。

ライは疑問に思いながらも、パソコンを手にして早足で向かった。


裏の扉に繋がる部屋は、表の扉の部屋と違って少し豪華な作りになっている。

2つ大きなソファーとガラス張りの机。シャンデリアに高級なティーカップ。

見るだけでかなり高価なもので揃えられているのがわかる。

ライもこの部屋に入るのは初めてで、緊張した表情を見せた。

ライはシグレの隣に座り、向かいに座っている相手を見るとそれに気づいたのか笑みを浮かべた。

ライの正面に座っている男は、ミステリアスな雰囲気を纏っていた。

手になにか持っている様子もなく、ただただ静かに座っている。

そして、ライの斜め前……シグレの正面に座っている男は、柔らかな雰囲気を纏っていた。

まつ毛で作られた影は、どことなく色っぽさを感じる。

誰が見ても『美青年』だった。


「今日は、どのような用件でここに?」

「依頼ではありません。

ただ、少し提案があって」

「提案、ですか」

「えぇ……。あなた達、月光はこれから『ライト』に狙われるでしょう」

「ライトって……あの……」


『ライト』。

今、最も名の知れたファミリーだ。

歴史も長く、傘下についているファミリーも多い。

『最強』という言葉がふさわしい。


「そう、あの『ライト』です。

最近名が売れ始めたのに、あのライトが相手ならば月光も潰れてしまう」

「潰させねぇよ。

どのファミリーにもな」

「そんな大口叩いていられるのも今のうちですよ。

なぜ自分達が狙われているのか把握しているのですか?」

「……ライトの配下のファミリーを潰しているからですよね」


ライが口を開くと、その男は口元を緩めた。

ライ自身、前いたファミリーはライトの傘下であった。

だから、ライトの強さも知っていたし、情報も得ていた。


「わかっている人がいるようで安心しました。

そうです、あなた達がこれまで潰してきたファミリーはライトの傘下が多い」

「あんな最強なところが俺らみたいな少数派を狙うか、普通」

「ライトは人数なんて気にしません。強さを意識しています。

現にライト自体も人数が少ないところです。

人数が少ないから放置されるなんてことは、通用しないでしょう」

「……で、結局何が言いたいんだ。

俺達がライトに狙われることは十分わかった。それがどうお前らに関係するんだ」

「同盟、組みませんか」

「同盟?」

「これからあなた達が助けを求める時は、手をお貸ししましょう。

その代わり、こっちが助けを求める時は手を貸していただきたい」

「そんなこと、俺達と組んでいいのか」

「私はあなた達の強さを買って言っているんです」


その男は、シグレを試すような目で見ていた。

現時点、月光はどのファミリーとも同盟は結んでいない。

同盟を結べば、贔屓目で見ないといけないことは確実であり、ほかの仕事に影響する可能性が高いからだ。

もし、これがなんでもないときだったら断っていただろう。

しかし、今の状況としてはかなり苦しかった。

ライトのことを意識していなかったわけではないが、甘く見ていたことは事実。

それが原因で月光の明日さえ保障できない。


「シグレさん……」

「…………」


反応を見せないシグレにライは、考える時間と材料を作るためにその男に問いかけた。


「あの、俺一応情報担当で働いてるんですけど……。

あなた達のこと、見たり聞いたりしたことないんです。

一体、あなた達は……」

「あぁ、紹介していませんでしたね。

私たちは『アクシス』。

まだ結成して間もないファミリーです。

そして私が一応ボスをしているエイチという者です」

「エイチさん……」


ライはパソコンでファミリーのこと、エイチのことについて急いで調べた。

エイチの言う通り、まだ結成してから間もないファミリーであまり情報はない。

しかし、気になる情報を見つけた。


「襲撃……」

「あぁ、新しくできたファミリーを潰すのが好きなところがあったみたいで。

先手を打たせてもらいました」


ニコリと笑っているが、目は決して笑っていなかった。

エイチ達が襲撃したファミリーは割と名の売れていたファミリーであったため、ライは驚きを隠せなかった。

あのファミリーを潰すなんてそう簡単にできることではない。

ライはこのファミリー、甘く見てはいけないと感じた。


「今のところ、どのファミリーの傘下にもつくつもりはありません。

しかし、もし勧誘されたらつく可能性は十分あります。

今あなた達が同盟を結ばないことを決意した場合、敵同士になるかもしれませんね」


この男は危険だ。

シグレの経験で培ってきた勘がそう告げていた。

確かに経験は浅いが、それ以上の何かがある。

こいつを敵に回してはいけない。

そう本能的に感じたシグレは、口を開いた。


「……俺らで本当にいいならその同盟、組みましょう」

「シグレさん?」

「……良い答えが返ってきてくれて嬉しいです。

すぐに準備を。それと、解散の指示を」

「わかりました」


エイチの隣にいた男はすぐさま外に行き、なにやら指示を出していた。


「我々なりの儀式の準備の時間をいただいてもよろしいですか?」

「……もちろん。

それでは、一旦俺達は失礼します。

仲間にも話さないといけないので」

「……えぇ」


シグレとライは、部屋を後にした。

あんなに余裕のなさそうなシグレを見たのは初めてで、ライは少し気にかけた。


「大丈夫ですか、シグレさん」

「……あぁ」

「アクシス……。

まだわからないことも多いですが、強さに関しては未知数。

俺は同盟を組んで正解だと思います」

「……本当は組まなくてもいいと思った」

「え?」

「でも、あいつは多分本気で強い。

今まで戦ってきた奴らは何100人といるが、あんなやつ今まで会ったことねぇ。

あいつは、敵に回したら死ぬ」

「シグレさんがそこまで言うなんて……」


それほどすごい男ということなんだろうか。

ライ自身も何かあると思っていたが、シグレほどではない。

やはり、経験の差だろうか。


「あいつ自身、本気で強いのもあるけど……。

それ以上に判断能力がすげぇよ」

「え?」

「あいつ、『解散』って言っただろ」

「そういえば言ってましたね……」

「多分あれは、俺が同盟組まないと宣言した瞬間襲撃してた」

「え!?」

「あいつの仲間も見えたし。

武器を持って帰っていく姿をな」

「それじゃ……」

「今回はこれで正解だろうな。

どっちにしろ、ニシキ達にはちゃんと説明しないとな」

「……はい」


シグレとライは少し歩くペースを早め、3人のいる部屋へと向かった。

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