story7
ゼンを置いて、階段を駆け上がるシグレとニシキ。
もちろん2人は、ゼンがさっきの男に殺られるなんて1mmも考えていなかった。
それほど実力もあり、信頼できる相手でもあるからだ。
最上階に上がると、1人の男が近づいてくる。
ゼンと戦っていた男と比べると少し小柄だが、何かまた別の強さがあるように感じた。
「やっと俺の出番だな」
ニシキは持っていた刀を抜き、敵を目に捕える。
お互いに歩み寄り、カツカツと足音だけが響いた。
ある程度近づくと敵の手には自分と同じように刀が握られていた。
なるほど、やりがいがありそうだと笑うニシキ。
そんなニシキの姿を見た敵は、声を上げた。
「何笑ってやがる」
「楽しめそうだと思ってな」
「馬鹿にしやがって」
瞬間、距離を縮め刀を振りかぶる。
ニシキは、刀で受けとめると自分も攻撃を仕掛ける。
刀と刀がぶつかり合う音を聞く度にあぁ、俺が待ち望んでいた音だ、と興奮を覚える。
敵が距離を作ろうと後ろに下がるが、その距離を埋めるようにしてニシキは前へと詰めていく。
様子を見る限り、敵がかなり体力を消耗しているのは明らかだった。
自分自身、体力は人より自信があった。
シグレにも『体力無制限』だとか『ゾンビ』だとか色々言われてきたから、周りから見てもそうなんだろう。
現に息が乱れることもなく、戦っている。
よって、隙を見せることもない。
「な、なんだよ、お前。
体力消費しねぇのかよ」
「人よりも体力があるだけだ。
そんなに息切れしている状態で話して、余計に体力消費するんじゃないか?」
「黙れ!」
思ったことをそのまま口に出したが、それがどうも気に食わなかったらしい。
血走った目が自分を捕らえていた。
だが、一瞬も隙を作ることは無い。
敵が距離を縮め、自分の左胸に突き刺そうとした刀を弾き、斬り裂いた。
顔についた返り血を手で擦っていると、シグレはいつもの調子で歩み寄る。
「お疲れ」
「おう」
「じゃ、行くか」
いつもと同じようなやり取りだった。
シグレは、足でドアを蹴りあげるとその場にいたボスと目が合った。
「どうも、こんばんは」
「……こんな時間に客とは愉快だな」
「喜んでもらえて何より」
シグレがそう言うと、舌打ちをしたボス。
ここにシグレ達が来ることがわかっていたのか、落ち着いている様子を見せた。
「なぜここに来た」
「意見を聞こうと思いまして」
「意見?」
「意見というか、選択肢をあげに来ました」
いつもと同じ言葉を口にするシグレ。
ニシキは、周りに注意しながらシグレの話を聞いていた。
「俺達は何でも屋として仕事をしている」
「話は聞いたことがある。
金さえ出せばなんでもやってくれる『月光』という組織があるとな。
まさかこんなに少人数で若造だなんて思っていなかったが」
「若人だからこそ、なんでもできるもんだぜ」
「そんな話はどうでもいい。
選択肢とやらを聞かせてくれ」
「それでは、1つめ……」
シグレは、こうしてファミリーを潰す依頼があるときには直接ファミリーのボスと話す。
内容としては、このままボスを殺しファミリーを潰すか、ファミリーを解散するか。
答えは人様々だが、シグレはその答えを選んだ理由を知るのが楽しみでこうして話を聞いている。
選択肢を与えると、ボスは苦虫を噛み潰したような表情だった。
どっちにしろ、ファミリーは潰される。
さっきの様子を見た限り、自分のファミリーに勝ち目がないことを察していたのだろう。
反撃する様子も見せなかった。
「どうする、おっさん」
「……俺も殺せ」
「ほぅ、その選択した理由は?」
「仲間が殺されて自分だけ生きてても世の中楽しくないだろ」
「なるほど。
恋人がいるのに?」
そう言うと、目を見開き驚いた表情を見せた。
「なぜお前がそんなことまで知っている」
「仲間に情報のスペシャリストがいるもんでね」
「なるほどな。
ここまで少人数でどうしてこのファミリーがやられるのかと思ったが、それも理由の1つのようだな」
「あぁ」
「シグレ、そろそろいいだろう。
早く任務を終わらせるぞ」
ニシキが声をかけると、シグレは銃を構えた。
ボスは、慣れた手つきでタバコに火をつけ外を眺めていた。
死ぬとわかっているのに泣くことも叫ぶこともない。
ただただ、落ち着いて死を待っているように見えた。
「1つだけ頼んでもいいか、月光」
「……なんだ」
「さっき言った俺の恋人。
あいつにこれを渡しといてくれ」
渡してきたのは、青い石が光るネックレスだった。
「お代は?」
「俺の命でどうだ?」
「なかなか面白いな」
パーンと銃声が響く。
バタンと大きな音を立てて倒れる男に視線を向けることもなく、シグレとニシキは部屋を後にした。
廊下に出ると、先ほどまで聞こえていた音はほとんど聞こえなくなっていた。
ゼンが来なかった辺り、きっとこっちまで来て必要ないと判断し、ライとセアに加担したのだろう。
ゆっくり下に降りていくと、死体が倒れている。
ここまでの人数、あいつらだけでやったのかと感心する。
途中、3人の姿を見つけ声をかけた。
「任務完了だ、帰るぞ」
「了解です」
初任務は想像以上にスムーズに進み、まずまずの結果と言うべきだろうか。
シグレは青い石を月明かりに照らしながら見つめていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます