story5

「ライ、お前今日俺の補助入れ」

「え?」


シグレさんからそう言われたのは、セアが入って3日後のことだった。


「補助って……」

「別にそう身構えることじゃねぇよ。

表の方の仕事を覚えてもらうためだけだ」

「表の方の?」


そういえば、どんな仕事をするのだろう。

裏の方といえば、殺人依頼とか薬関係とか察しがつく。

表の方は、全然行ったことないから何もわからなかった。


「前も言ったけど、ここが表の方な」


扉を開けると、小さな部屋。

机に椅子が4つ。端にテレビなんかも置いてある。正面には、もう1つ扉があった。


「あそこから客が来るからな。

まあ、後は待ってるしかないから」


とりあえず座ってろ、と言ってシグレさんは本棚から本を取り出しパラパラとめくり始めた。

俺は特にやることもないため、椅子に腰掛けた。思った以上に体が沈む。

部屋を見る限り、思ったより本格的に仕事をやっているらしい。


「ん、客来るぞ」

「は、はい」


シグレさんが言った通り、チリンチリンとベルが鳴る。

そして現れたのは、1人の女の人。年齢は、60近くだろうか。


「あ、来てくださったんですね」


営業スマイルを浮かべるシグレさん。

見た目からは、決して俺をパシリになんかしているように見えない。

心做しか後ろにキラキラしたようなものが見える。


「あら、シグレちゃん。そっちの子は?」

「新人のライです。

これから、頑張ってもらう予定です」

「は、初めまして」


シグレさんにつられ、俺は立ち上がり頭を下げた。


「ライ君っていうのね。よろしくね」

「それで、今日はどういった用で?」

「実はね、また夫が浮気してるんじゃないかって……」

「またですか?懲りない方ですね……」


まさかの浮気調査!?

いや、まあ珍しいことでもないけど……。


「まあ、引き受けます。その依頼。

それでお代の方ですが、どうなさいますか?」

「じゃ……情報でいこうかしら」

「お、今回も情報ですか」


こんなどこにいそうな人が情報って……。

一体どんな情報なんだ……?


「あそこの市場で今度からある言葉を言うと全品10%割引になるの」

「10%も?」


いや、どんな情報だよと心の中でつっこむ。


「それが売ってる方に『美人ですね』って言うことらしいわ」


それ、ただ単に言われたいだけなんじゃ……と俺は思っていたんだけど、シグレさんは思った以上に食いついた。


「本当ですか!?それは、何より良い情報。

使わせていただきます」


一応成立したようで、書類を書いてもらうとその人は帰っていった。


「あんな内容なんですか?」

「まあ、いつもってわけじゃないけどな」

「しかも、あのお代は……」

「こんなの労力にならないからな。

くだらない話題でも別にいいんだよ」

「情報以外もお代になるんですか?」

「普通に金でもいいし、他にも1日雑用やってもらうっていうのもあるな」

「へぇー……」

「んじゃ、これさっきの人の旦那の情報。

お前、調べとけよ」

「え!?」

「ここまで分かれば、すぐだろ?

お前の技術なら」

「まあ、そうですけど……」


最初から丸投げなのか……。

まあ、こんなのすぐにわかるからいいんだけど。


「俺は俺で別の仕事があるから頼んだ」

「別の仕事?」

「あぁ、裏の方。

あるファミリーを潰してほしいって依頼されてな」

「俺の前いたファミリーもそんな感じだったんですか?」

「あぁ、まあ似たようなもん。

割と多いからな。

ファミリーを潰してほしいっていう依頼」

「よくそんな簡単に潰してましたね……」

「そんな大したファミリーじゃないからな。

無理な所には異常な条件出すから依頼が来ないんだよ」

「なるほど……」


強いのは、経験あってこそってわけか。

確かに今まであそこまで強いひと達見たことなかった。


「まあ、お前はそっちの方頼んだ」

「わかりました」


俺は部屋に戻ると、パソコンを開き調べ始めた。

奥さんの言った通り、仲のいい女性はいるみたいだ。

食事を一緒にしているだけだから浮気とまでは言えないような気も……。

でも、そこは感じ方の問題だもんな。

とりあえずシグレさんに報告しよう。

そう思って、シグレさんの部屋に行こうとしたけど、なにやら忙しそう。

ちゃんと仕事してるのか……とちょっと感心する。


「後で言えばいっか」


時間もあるし、相手の女の人について調べてみよう。

依頼以外の人を調べるのもちょっと嫌だけど、念には念を。

そう思って相手の女の人について調べていると意外な繋がりが見えた。


「し、シグレさん!」


部屋をノックし、入ると机に突っ伏しているシグレさん。


「なんだよ、俺は今から首を休めるんだけど」

「さっきシグレさんが調べてたファミリーのボスとさっきの浮気相手の女性が繋がってたんです」

「……なに?見せろ、ライ」


浮気相手とファミリーのボスは、付き合っているらしい。

浮気相手の女性は40代でファミリーのボスは60代。少し年の差もある。


「その女の人は、権力を得るためにファミリーのボスと付き合っている可能性があります。そして、依頼主の旦那さん……。

かなりの金持ちですよね?お金を巻き上げるために近づかれているんじゃ……」


そう言うと、シグレさんは紙を見たまま考え始めた。


「確かに可能性は、あるな……」


ファミリーのボスが脅しをかければ、旦那さんもお金を渡す可能性は十分ある。

そうすれば、浮気相手もファミリーのボスもお金を得られる。

お互いウィンウィンの関係になる。


「本当は、そこまでやる必要ないけど……。

今回は、マフィアの方でも依頼きてるからな。ついでにやってやるか。

ライ、全員集めろ」

「は、はい!」


なにやら、もうやることは決めているらしい。

俺は全員を会議室へと集めた。


「まあ、その表の方の裏の方の依頼が関係してたのはわかったけど……。作戦は?」

「ファミリーを潰せば、女も旦那の方に近づけないだろ。

とりあえず早めに潰しに行く。

ライ、ファミリーの情報集めといてくれ」

「はい、出してあります」

「早いな、おい」


プロジェクターを使い、壁に映し出す。


「アジトは闇の街にあるみたいです。

ここから約5kmほど。

人数はそこまで多くありません。

ただ、ボスの右腕的存在の2人が強いみたいです」

「そいつらは、俺が殺る」


ニシキは、ニヤリと笑いながら言った。


「一応、ゼンも行っとけ。どんな敵か未知だからな」

「了解」

「セアとライは、どれだけ雑魚がいるかわからないからそっち担当な」

「わかりました」

「ライはなるべく俺達に情報回してくれ」

「了解です」

「次突撃するタイミングは、いつある?」

「そうですね……。

明日の深夜が1番近いかと」

「じゃ、明日だな。とりあえず全員準備しとけ。俺ら全員でやる初めての任務だ」

「はい!」


そうだ、これが全員でやる初めての任務なんだ。

そう考えると、なんとなく緊張する。

とりあえず部屋に戻ろうと思った時だった。


「おい、ライ。どこいく気だ?」

「え?部屋ですけど……」


ゼンは、ライの腕を掴みながら言った。


「バカか、お前は。

ただでさえヘナチョコなのにそんなゆっくりしてる時間あるか。

早く特訓部屋行くぞ」

「……え?」


ズルズル引きずられながらライは特訓部屋へ。

何度が使わせてもらっているが、異様な雰囲気を放つこの部屋はなかなか慣れない。

地下にあるからかもしれないが。


「あのー、一体何を……」

「ライ、お前の敵は俺だ。殺す気で来い」

「いや、でも……」

「あ?てめぇは、バカか。

俺がお前みたいなカスにやられるほどクソじゃねぇよ。早く準備しろ」

「は、はい」


『カス』やら『クソ』やら言われて少し心が痛むが、事実だし仕方ない。

ライはナイフを構え、同じようにゼンもナイフを構えた。


「行きます……!」


ライはゼンとの距離を縮め、ナイフを振りかぶる。が、簡単にゼンのナイフによって弾かれる。


「適当に振り回せばいいってもんじゃねぇぞ」

「は、はい!」


何度も挑むが、ゼンに敵うことはなかった。


「ハァハァ……」

「今日はこんぐらいにしとくか。明日本番あるからな」

「あともう1回お願いします……!」

「……諦め悪いやつ。まあ、そういうタイプが嫌いってわけでもないけど」


同じ動きじゃだめだ。

ゼンさんの虚をつかないと……!

ライは振りかぶったナイフをすぐに引き、ゼンの横腹を狙った。

ゼンは、ライのナイフを思い切り弾き、ライのナイフは後ろへと飛んだ。


「やっぱりダメか……!」

「最後、1番よかったんじゃねぇの?」

「ほ、本当ですか」


疲れもあったから、はぁーと息を吐きながら寝転がった。


「体力もつける必要あるな、お前の場合」

「が、頑張ります」

「お前、前からこれで練習してたのか?」

「そうですけど……」


そう言うと、ゼンはナイフを見ながら何か考えていた。


「お前、多分これ向いてないから変えろ」

「え!?」

「俺らがよく行く武器屋がある。今度ボスに頼んで行くぞ。あのじいさんのところなら、信頼できる」

「は、はい」


やっぱりそんな武器屋があるのか。

ゼンの武器は確か鉤爪だったっけ。

あれ、でも今はナイフだよな。

前に爆弾設置とかもしてたし。


「ゼンさんは、どんな武器使ってるんですか?」

「俺は別に決めてねぇよ。

使えるものを状況に応じて変えてる」

「へ、へぇー……」


それってなかなかハードなことなんじゃ……。よっぽど器用か慣れてるかしないと無理なはずだ。


「1つに絞った方がいい。

他のに手を出そうとするな」

「え?」

「何もかも中途半端になる。

鍛えるなら1つのことを極めろ」

「は、はい……」


そう思っているのに、どうしてゼンさんは色んな武器を使ってるんだろ……?

疑問に思いながらも聞くのはやめておいた。 まだ知り合って時間が経ってるわけじゃないし、失礼なことだったら困るからだ。


「おい、部屋閉めんぞ。早く出ろ」

「すいません!」


ライとゼンが部屋を出ると、鍵を閉めた。

部屋に戻る前に風呂に入ろうと歩いていると、ゼンは口を開いた。


「明日の任務さ」

「はい?」

「最初、断りいれようとしてたやつなんだ」

「え?」

「最近ちょいちょい名を響かせてるところだったからな。

3人だと厳しいし、俺の情報収集力はお前と比べると無いしな」

「えーと、つまり?」


ゼンが何を言いたいのかわからなくて尋ねると、ゼンはため息をついた。


「お前らにボスは少なからず期待してるってことだ。

最初の方は戦わせてくれる場面は、少ないだろうけど、それはお前の身を守るためでもある。ボスの考えを理解してくれ」

「……それは、わかります」


自分が弱いのが悪い。

まだみんなのこと全然知らないけど、きっと何かしら経験してきたからだろう。

自分が5人の中で1番弱い。

それを変えるのは難しいし、すぐにできるわけないけど……。

でも、少しずつでも上達できるよう努力しないと。


「俺、頑張ります。情報収集も戦闘も」

「……おう」

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