story4
「ライ、お前今日俺の補助入れ」
「え?」
シグレからそう言われたのはセアが入って3日後のことだった。
「補助って……」
「別にそう身構えることじゃねぇよ。
表の方の仕事を覚えてもらうためだけだ」
「表の方の?」
そういえばどんな仕事をするのだろうか。
裏の方といえば殺人依頼とか薬関係とか察しがつく。
表の方は全然行ったことないから何もわからなかった。
「前も言ったけど、ここが表の方な」
扉を開けると小さな部屋。
机に椅子が4つ。
端にテレビなんかも置いてある。
正面には、もう1つ扉があった。
「あそこから客が来るからな。
まあ後は待ってるしかないから」
とりあえず座ってろ、と言ってシグレは本棚から本を取り出しパラパラとめくり始めた。
ライは特にやることもないため、椅子に腰掛けた。思った以上に体が沈む。
部屋を見る限り思ったより本格的に仕事をやっているらしい。
「ん、客来るぞ」
「は、はい」
シグレが言った通り、チリンチリンとベルが鳴る。
そして現れたのは、1人の女の人。
年齢は60近くだろうか。
「あ、来てくださったんですね」
営業スマイルを浮かべるシグレ。
見た目からは、決してライをパシリになんかしているように見えない。
心做しか後ろにキラキラしたようなものが見える。
「あら、シグレちゃん。そっちの子は?」
「新人のライです。
これから頑張ってもらう予定です」
「は、初めまして」
シグレにつられ、ライは立ち上がり頭を下げた。
「ライ君っていうのね。よろしくね」
「それで、今日はどういった用で?」
「実はね、また夫が浮気してるんじゃないかって……」
「またですか?懲りない方ですね……」
まさかの浮気調査!?
いや、まあ珍しいことでもないけど……。
依頼者の前でそんなことを言えるわけもなく、黙っていた。
「まあ、引き受けます。その依頼。
それでお代の方ですがどうなさいますか?」
「じゃ……情報でいこうかしら」
「お、今回も情報ですか」
こんなどこにいそうな人が情報って……。
一体どんな情報なんだ……?
「あそこの市場で今度からある言葉を言うと全品10%割引になるの」
「10%も?」
いや、どんな情報だよと心の中でつっこむ。
「それが売ってる方に『美人ですね』って言うことらしいわ」
それ、ただ単に言われたいだけなんじゃ……とライは思ったがシグレは思った以上に食いついた。
「本当ですか!?それは、何より良い情報。
使わせていただきます」
一応成立したようで書類を書いてもらうとその人は帰っていった。
「あんな内容なんですか?」
「まあ、いつもってわけじゃないけどな」
「しかもあのお代は……」
「こんなの労力にならないからな。
くだらない話題でも別にいいんだよ」
「情報以外もお代になるんですか?」
「普通に金でもいいし、他にも1日雑用やってもらうっていうのもあるな」
「へぇー……」
「んじゃ、これさっきの人の旦那の情報。
お前調べとけよ」
「え!?」
「ここまで分かればすぐだろ?
お前の技術なら」
「まあ、そうですけど……」
最初から丸投げなのか。
まあこんなのすぐにわかるからいいんだけど。
「俺は俺で別の仕事があるから頼んだ」
「別の仕事?」
「あぁ、裏の方。
あるファミリーを潰してほしいって依頼されてな」
「俺の前いたファミリーもそんな感じだったんですか?」
「あぁ、まあ似たようなもん。
割と多いからな。
ファミリーを潰してほしいっていう依頼」
「よくそんな簡単に潰してましたね……」
「そんな大したファミリーじゃないからな。
無理な所には異常な条件出すから依頼が来ないんだよ」
「なるほど……」
強いのは経験あってこそってわけか。
確かに今まであそこまで強いひと達見たことなかった。
「まあ、お前はそっちの方頼んだ」
「わかりました」
ライは部屋に戻るとパソコンを開き調べ始めた。
奥さんの言った通り、仲のいい女性はいるみたいだ。
食事を一緒にしているだけだから浮気とまでは言えないような気も……。
でもそこは感じ方の問題だもんな。
とりあえずシグレに報告しよう。
そう思ってシグレの部屋に行ったが、なにやら忙しそう。
ちゃんと仕事してるのか……とちょっと感心する。
「後で言えばいっか」
時間もあるし、相手の女の人について調べてみよう。
依頼以外の人を調べるのもちょっと嫌だけど、念には念を。
そう思って相手の女の人について調べていると意外な繋がりが見えた。
「し、シグレさん!」
部屋をノックし、入ると机に突っ伏しているシグレ。
「なんだよ、俺は今から首を休めるんだけど」
「さっきシグレさんが調べてたファミリーのボスとさっきの浮気相手の女性が繋がってたんです」
「……なに?見せろ、ライ」
浮気相手とファミリーのボスは付き合っているらしい。
浮気相手の女性は40代でファミリーのボスは60代。少し年の差もある。
「その女の人は権力を得るためにファミリーのボスと付き合っている可能性があります。
そして、依頼主の旦那さん……。
かなりの金持ちですよね?お金を巻き上げるために近づかれているんじゃ……」
そう言うと、シグレは紙を見たまま考え始めた。
「確かに可能性はあるな……」
ファミリーのボスが脅しをかければ旦那さんもお金を渡す可能性は十分ある。
そうすれば浮気相手もファミリーのボスもお金を得られる。
お互いウィンウィンの関係になる。
「本当はそこまでやる必要ないけど……。
今回はマフィアの方でも依頼きてるからな。ついでにやってやるか。
ライ、全員集めろ」
「は、はい!」
なにやら、もうやることは決めているらしい。
俺は全員を会議室へと集めた。
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