story2
なんやかんや、ここに来て約1週間。
「おい、ライ。お前、特訓してるんだろうな?」
「は、はい」
「なあ、ライ。お茶持ってきて」
「は、はい」
なぜかライはここに来てもパシリ的な存在になっていた。
実際パシリにしてくるのはシグレだけだが。
その時、ピンポーンとインターホンが鳴った。
「ライー、出てくれー」
「もう、わかりましたよ」
このアジトには、扉が2つあるらしい。
鳴ったのは、裏の扉から。
「裏って確かあんまり鳴らないんじゃなかったっけ……」
前にニシキに言われたことを思い出す。
少し警戒しながら扉を開くと、ライと同じ年ぐらいの女の子の姿。
「え?」
「ここのボスに用があるんだけど」
つり目でぱっちりした瞳は、ライの瞳を捕らえていた。
「わ、わかった」
ライはシグレを呼ぶと、めんどくさそうに立ち上がると扉の方へ。
そして、彼女を見た瞬間ニヤリと笑った。
「こーんな可愛い女の子が俺になんの用?」
シグレは、見下ろしながら言った。
彼女は引く様子もなかった。
「あなた達の仲間に入れて」
彼女の発言にライもシグレも驚く。
「一応聞くけど、俺達が何か知ってる?」
「何でも屋ですよね?」
「あぁ」
「え!?」
初めて知った事実にライは驚きを隠せない。
ずっとマフィア系統かと思っていたからだ。
「まさかお前、知らなかったのか?」
「知ってるわけないじゃないですか!」
「はぁ……。仕方ない、ついでにお前も説明聞いとけ。とりあえずあの部屋に案内しろ」
あの部屋というのは、所謂会議室みたいなところだ。……とは言っても、普通に豪邸のリビングみたいな部屋。
普段その部屋で話をすることが多い。
部屋に行くと、ニシキとゼンの姿があった。
「2人ともいるならちょうどいいや。今からこいつらに色々説明するから」
「女?」
ニシキとゼンもライ達と同じ反応をする。
当たり前といえば、当たり前だが。
「まず、お前名前は?」
「セアです」
「セア、か。お前若く見えるけど、何歳?」
「17です」
「なかなか若いな……。ライ、お前は?」
「俺も17です」
「お前ら同じ年か」
「シグレさんは?」
「俺とニシキは23。ゼンが20」
ゼンさんだけ違うのか、と1人心のなかで呟いたライ。
「まあ、セアがここに入るかどうかは後で決めるとして……。とりあえず説明するな」
さっきセアが言った通り、ここは所謂何でも屋。
ライが前にいたファミリーを潰したのも依頼されたからとシグレは話した。
「お前ら、この街が2つに別れてることは知ってるか?」
「2つに?」
「街は、大きな門で別れている。
1つは、光の街って言われてる。まあ、簡単に言えば一般人の住む街だな。
もう1つは、闇の街。治安が悪く、警備の対象外になっている」
「だから、しょっちゅう殺人なんかも起きるんだ。2人も気をつけた方がいい」
「その2つの街が何かあるんですか?」
「俺たちのこのアジトは、その仕切りである門のちょうど真ん中にある」
「え?」
「だから、一般人からの依頼とそうゆうやつらからの依頼と両方ある」
「ライにこの間言っただろ?
表の扉と裏の扉の話」
「あぁ、この間言ってましたね」
「表の扉からは、一般人が。裏の扉からは、そうゆうやつらからってわけ」
「それで2つ……」
「……ってことで、セア。俺らは世間的に言う犯罪もしてるわけだ」
「知ってます。
それでも私はここにいたいです」
全く引く様子のないセア。
シグレは、ニシキと顔をあわせる。
「本気か?俺は金ださないぞ?」
「え?」
またもや、爆弾発言をするシグレにライは絶句。
「ここにいても、お金手に入らないんですか?」
「依頼で得た金は、全部貯金に回してるからな。小遣いは自分で稼ぐ決まりだ」
「方法は、自分で決めろ」
「方法って……」
「例えばニシキは、あらゆる闘技場に行って金稼いでる。ゼンは、色んな薬とか作って売ってるな」
「人それぞれということですね」
「あぁ」
「別に大丈夫です。お金もらえなくても」
「ほー……」
セアがそう言うと、シグレは考えるポーズをとり
「あ、そうだ!」
と大きな声で言った。
「お前がこの依頼できたら、入れてやるよ」
そう言って、セアに見せたのは暗殺依頼だった。
「最初から暗殺依頼って……!」
「使えないやつをいれても必要ないしな」
きっとシグレは、入れる気があまりないから言ってるのだと悟った。
初心者にできるわけない。
ライは断るだろうと思っていた。
「この男を殺せば入れてくれるんですね?
わかりました」
顔色を変えることもなく、ただ淡々とした様子で言った。
「本当にやるの?」
「やらないと入れてもらえないんでしょ?
やるしかないでしょ」
そこまでして、どうしてここに入りたいのか。
わからなかったけど、聞くことはなかった。
「よし、じゃまず情報収集から行こうか。
ゼン、どうだ?」
「今回なかなかめんどくせぇ」
「ライって確か前のところで情報収集やってたんだろ?」
「やってましたけど……。
ゼンさんが無理なら俺も無理かもしれませんよ」
「見るだけ見てみろよ」
ゼンが開いているパソコンを覗き見る。ロックが開かないらしい。
「ちょっと借りてもいいですか?」
「あぁ」
7年間やってきただけあって、割と慣れていた。簡単とまではいかないけど、まあよくあるパターンだった。
カタカタと文字を打ち込んでいく音が響く。
「おいおい、なんかすごいんだけど」
「お前……」
「慣れてますから、これ」
ロックを次々解除していき、ターゲットの情報をUSBに取り込む。
「できました」
「お前、こんな才能あったのか!!」
「才能なんかじゃ……」
「いや、お前割とすごいじゃん。
これ、そう簡単にできるやつじゃないし」
「ライ、これから情報収集担当な」
「え?」
「でも、戦ってももらうからちゃんと特訓はしろよ」
「は、はい!」
必要としてもらえる嬉しさと自分も戦えるっていう嬉しさが混じり、自然と笑顔になった。
「ほー、このじいさん、女好きなのか……」
「見せてもらってもいいですか?」
セアは、パソコンを覗き込み情報を見ていた。
「日程とか決まってますか?」
「明日」
「は?」
「いや、だから明日だって」
「ふざけてるんですか!?」
なんてめちゃくちゃな……。
暗殺の計画を1日で立てて、実行するなんて……。
今更自分が言ったところで変わらないことがわかっていたライは口に出さなかった。
「明日ターゲットが主催するパーティーがあるんだよ。そこでやつを殺す」
「わかりました、明日ですね」
「物分りが良くて助かる。ライ、パーティーの詳細もだしてくれ」
「わかりました」
パーティーは、ホテルの最上階で開かれるらしい。ターゲットは、女と権力が好きというよくあるパターン。
「セア、お前が配置考えろ」
「配置も何も必要ありません」
「……は?」
「私1人でやらないと、今回意味ないでしょう?」
「わかってんじゃん」
ニヤリと笑った。
セアは、どうしてこうも平然と人を殺そうとしているんだろう。
発言的に慣れているようにしか思えなかった。
「パーティーに潜り込むなら、服用意しないとな。あと、招待状も」
「それは俺達がやっておく」
「あぁ、頼んだ」
とりあえずこれで解散となり、各自部屋に戻った。セアの部屋は、ニシキが案内してくれていた。
ライは、というとシグレに呼び出されシグレの部屋へ。
「あの、何かありましたか?」
「これ使えよ」
そう言って、出したのはパソコンやらUSBやら情報収集に必要なものばかりだった。
「これ……」
「今までゼンに無理やりやらせてたけど、お前の方が向いてそうだし。ゼンの部屋から持ってきた」
「あ、ありがとうございます!」
いつもやってることも言ってることもめちゃくちゃの人達だから、情報収集とかしてないのかと心配だったけど……。
これなら一安心だ。
「他に揃えたいものあったら、自分で金稼いで自分で買えよ」
「わかりました」
部屋を出て、自分の部屋に持ち帰る。
前のところと同じように設置する。
明日は、ほとんどやることがないとは思うけど、初任務ってことには変わりない。
念には念を。
俺はもらったパソコンを開いて、パーティー会場やらターゲットやらについて調べ始めた。
一通り調べ終え、取り組んだUSBを見る。
セアに見せた方がいいのかな……。
必要ない、って言われるかもしれないけど、一応渡しに行こう。
そう思ったライは隣の部屋にあるセアの部屋をノックすると、顔だけ出てきた。
「なに?」
「これ、明日のターゲットのこと。
一通り調べたから……」
そう言うと、驚いた顔をした後少し嬉しそうな顔をして
「ありがとう。見させてもらう」
と言った。
初めて見た笑顔にちょっと照れてしまった。
ここに来てから、ずっとポーカーフェイスで笑わない子なのかとおもったけど……。
なんだ、ちゃんと笑えるのかと一安心。
「明日」
「え?」
「何かあったら、サポートよろしく。
まあ、大丈夫だろうけど」
それだけ言うと、セアは扉を閉めた。
自分にできることがあるかわからないけど……。
少しでもできることをやろう。
そう思いながら、自分の部屋へと戻った。
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