メルスの訓練4
「それでは各自で2日間の休息をとってください」
途中で、多少のアクシデントはあったものの、全員が無事に村に帰ってきた。
「やった!!ようやく終わった」
「……つかれた」
「つかれたー」
各人が疲労の色をにじませながらその場に座り込む。 最初にオルガ様から訓練を受けた時には、泣きだしたり、倒れる者がいたのに対して、今回の訓練では、笑顔を作れる程度には全員余裕があった。 やはり、1度キツイことを経験すれば、人間という生物は多少は慣れるらしい。 単純なものだ。
「ところで、メルスさん。 ミレイ姉さんは、まだオルガさんと訓練中なんですか? 睡眠もとらずに鍛えていると聞きましたけど、大丈夫でしょうか?」
「オルガ様の訓練ですので、簡単に大丈夫と断言できる程度の鍛え方はしない筈です。 ですので、私からは何とも言えませんが。 恐らく、今頃は、人類最強くらいには、なっているんじゃないですかね」
クランの質問に無難に返答する。 すると何故かクランはニコニコと笑みを浮かべながら、こちらへ歩み寄ってきた。
「メルスさんも冗談を言うんですね。まだ、3週間しかたってないのに人類最強になれる訳が無いじゃないですか」
私は本気だったのだが、彼女たちには冗談と取られたらしい。 どうやら人類最強というのは彼女からしてみれば壁が高いのだろう。 となると、少しぼかした表現の方が良かっただろうか。
「まあ、それはクランさんの言うように冗談ですが、見違えるように強くなっているとは思いますよ、なにしろオルガ様が自ら鍛えると言っていたのですからね」
「信じられないなー、こっそりと訓練の様子を見に行ってもいいですか? 私も、少しだけ戦闘訓練に興味があったんですよね」
「駄目です。 巻き込まれては大変ですよ。 あなた達が体力が付いたと言っても、所詮は歩く訓練を受けただけにすぎません。 見学したところで、何もできないと思います」
「そう…ですか。 私もミレイ姉さんみたいに、皆を守ってみたいんですが。 残念です」
分かりやすく落ち込むクラン。 その様子を見てメルスは彼女が求める答えではなかったのだろうと考え、代案を返答する。
「…………でしたら、残りの期間は多少の戦闘訓練も混ぜて行いましょう。 少しは戦えるように私が鍛えてあげます」
「メルスさん、ありがとうございます」
感極まったと言った言葉が正しいのだろうか、先ほどまで落ち込んでいたクランがメルスの言葉を聞いて急に満面の笑みを浮かべつつ抱き着いてきた一方、メルスは、不快感が一気に込み上げてきて、思わず眉をつり上げる。
「急に何をするんです?」
「すいません、感情的になりすぎました。 嫌でしたか?」
不快すぎるが、恐らく彼女は本気で不快になるとは考えていない筈だ。 ここで求められる返答は、恐らく拒絶の類ではないだろう。 本当に人間は面倒だな。
「いえ、嫌ではありません。 急に抱き着かれたので驚いただけです」
「えへへ」
「あー、クランおねえちゃん、ずるい、わたしも!!」
「……ひしっ」
増えた!! 何故!? 妙になつかれていたのは薄々気付いていたが、行動原理が不明すぎる。
「皆さん、離れて下さい。 というか休みましょう」
今回の魔族には理解できない謎の行動をとる子供たちを前にして、人間界で初めてメルスが折れた。
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