メルスの訓練2

「ここから先は紛争地帯です。 皆さん、襲撃に備えて下さい。少しでも何かあればすぐに報告する事、そして一番近い人間が場合によっては対処を手伝う事。以上、質問は?」


「何もありません、メルスさん!!」


「……問題ない」


「わかった!!」


 各人、返事を返して私の後ろをついてくる。 村を出てから、すでに二週間が経った。 現在、周囲3国は全て回り、村に帰還する最中である。


 余談だが、道中、盗賊に2度ほど襲撃を受けた。ある程度フォローしたとはいえ、子供たち全員が対処としては妥協点を与えて良いくらいには、よく動いていたため全員が未だ無事である。


 ペースは遅いとはいえ、ほぼ休みなしで、ここまで歩いてきて弱音1つ吐かない、少しだけ彼女たちを見直さないといけませんね。


 私が彼女たちの評価を改めていると、クランが後ろから話しかけてきた。


「周囲は騒がしいですね」


「殺し合いが平気で行われているんです。声を出して誤魔化しながらではないと、とても平常を保っていられないのでしょう、あなた達は異常はありませんか?」


「私は大丈夫です、パオとターニャは大丈夫?」


「…………ん」


「わたしも、だいじょぶだよ」


 全員が無事と答えたことは正直、予想外だった、紛争地帯ではそこら中に人の死体が転がっている。 体調不良を訴えてもおかしくないものと思っていたが、彼女達は何故か物となったソレに耐性があるらしく表情も変えずに私についてくる。


 これもうれしい誤算だな、肝が太いのは良い事だ。 こんなところで死体にいちいち反応を示していたら私は、間違いなく置いて行っただろうしな。


 再度、認識を改めながらトラップの魔法陣などを除去しつつ進む。


「……こちらに向かってくる、人の気配がします、全体止まりなさい。クラン、バオは周囲を警戒。ターニャは私の近くに来なさい」


 気配がしたため子供たちを停止させ注意を促す。 すると、私の言葉に対して素早く各人が身構えた。 その様子を見てこれならば、荷物持ちとしてはオルガ様から合格ラインがもらえそうだと内心ホッとする。


 子供たちが身構え周囲を警戒してすぐに、草むらから一人の兵士がこちらに向かって歩いてきたため私は兵士に対して声を投げかけた。


「その場で止まれ。見ての通り、私たちは兵士ではない。武功をあげたければ他をあたれ」


「失礼、あなた達は商人ですか? もしよろしければ食料を譲っていただきたい」


 てっきり錯乱した兵士が襲ってくるものと考えていたが、そんな様子もない。 なるほど、食料が足りないから補充に来た兵だろうか、ここに来るまでに奪いにかかってきた兵はいたが会話が成り立ちそうな者は初めてだな。 こういった手合いは、多少吹っ掛けても買ってくれるだろうから、いい商売相手になる。


「ふむ、商人ではないが食料は余分に持っている。 金は持っているか?」


「銀貨5枚で、もらえるだけいただきたい」


 その場から動かないように言って、袋一杯に保存食を詰め込み兵士に渡す。


「ありがたい、ところで一つ質問なんですが」


 兵士の声のトーンが一気に下がり、私にしか聞こえないように言葉を吐いた。


「何故メルス様が人間界にいるのですか?」

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