メルスの訓練
オルガ様は大丈夫だろうか? 逆上して殺してないといいけれど。
私の不安をよそに周囲に集まった子供たちは違う意味で不安な表情をしている。
「メルスさん良いんですか、村の外にでたら私達、襲われるんじゃないでしょうか?」
「その時は全力で逃げなさい。全員を助けるほど私はお人よしではありませんから」
ある程度、子供たちの信頼は勝ち取らなければならないとはいえ、コレは本心である。 そこまで面倒は見ていられない。
「訓練ですよね?」
「だからです。全て私が対処していては何もならないでしょう? 現にあなた達はミレイさんに守られていてばかりで戦い方を知らない。 戦えとは言いませんが、せめて自分の身くらいは守れるようになってもらわないと」
「なるほど、そう言う事ですね。わかりました。メルスさんの言うように自分の身は守ります」
「……私も…がんばる」
「わたしもがんばる!!」
口々に声を上げる子供たちを見て、少しだけイラっとする。 こういう輩こそが対処できない事態に陥ったら、自分で何とかしようとも考えずに泣きわめき他人に丸投げするのだ。
まあ、オルガ様もコイツ等に期待してはいなかったし、言われた通り荷物持ちとして合格点になる程度に鍛えてあげればいいかと、自分の中で結論づけて、子供たちにこれから何をするのかの説明を行う。
「それでは各人、こちらのリュックを背負ってください」
「メルスさんコレは?」
「各人の体重と同じ重さの荷物です。まずは、コレを背負って一番近い隣国へ行きます」
「何のためにですか?」
「先ほども言いましたが、あなた達に強さは求めていません。必要としているのは物資の運搬の能力です。そして、そのための訓練です」
「運搬ですか?」
私の発した言葉が引っかかったのだろう、この中では最年長のクランが首をかしげる。
「ええ、そうです。言い方は悪いですが、あなた達はミレイさんと違い、戦う才能は無い。そして、戦えない人間を連れて行くメリットは旅ではほとんどありません。道中に魔物や盗賊がいる事はザラです他人を守りながら戦う事にも限界がありますのでまず見限られます。 では、戦えない人間が旅で価値を見出すために何をすればいいか? 答えは荷物を持つことです」
「荷物を……運ぶ?」
子供たちは全員が首をかしげる。思っていた訓練内容とあまりにかけ離れていたのだろう。
「戦えない者の価値は、より多くの物を運搬できるかということと直結します。アナタ達には己の価値を上げるための訓練を受けてもらうんです何か不満ですか?」
もちろん、これは嘘である。より多くの物を運びたければ馬車を使えばいいだけだ。 だが、完全に無意味という訳でもない。 これから行く国には紛争地帯をどうしても通らなければならない場所もある。 そのような場所で馬車などが通っていたら襲撃されて物資を奪われかねない。 そのような場所では手搬送が有効といえるだろう。
まあ、そんな事どうでも良いけどね。
「あの、戦ったりとかは?」
「しません、素人に戦い方を教えるより簡単でなおかつ必要なスキルです、戦いは戦える者に任せればいいのです。あなた達は余計な事を考えなくていいです。さて、それじゃあ出かけますよ。私についてこれない者は置いていきますので覚悟してください」
子供たちに考える暇を与えず、まくしたてると、私は、先頭に立って歩き出した。
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