異空間3

 異空間に来てから、どれぐらいの時間が経過しただろうか、1年? 2年? ひょっとしたら、もっと経過したのかもしれないが、外部の情報が遮断された私には、正確な時間を知るすべはない。


 歩いているだけで、無数のスケルトンが襲い掛かってくるが、一振りで無力化する。 バラバラとなったスケルトンをチラリとも見ることなく、何事もなかったかのようにミレイは歩き続ける。


「私、何でこんなことをしているんだっけ?」


 始めは、目的があった。 そのために強くなろうとしていたことは覚えている。 確かに私は強くなったはずだ。 強く、強く、強く…何のためにだったか?


「目的を忘れるとか、なんのために異空間へ来たんだよ、意味わかんない」


 無意識のうちに言葉が漏れる。 最近、独り言が多くなった。 自分のどこかが壊れ始めている感覚がある。 暗闇の中、いつ魔物が襲ってくるのか分からない状況で気を張り続け、誰と会話をすることもなく途方もない時間を過ごしているためだろうか。


「いやいや、オカシクなるわけないじゃん、だって私は偉大なる勇者の血を引いてるんだよ、強いんだから何しても平気だもん!!」


 もん、とか語尾に着けるな気持ちが悪い。 無意識の独り言でもヤバすぎるだろうと思う。 本当に、私はどうなってしまったのだろうか?


「なにか、大切な事だった気がするんだよ。なんのために私はここに来た?」


 ――思い出せない。


 暗闇の中、その何かを思い出すことを娯楽として、今では、あるのか分からない出口を目指している。 コツン、コツンと音をたてながら、ゆっくりと歩き続ける。


「あれは……光?」


 それは、この空間へ転送されてから始めてみる白色の光だった。 いままで何も変化しなかった状況が変化した。 それは自身が思っているよりも心がつき動かされたらしい。 無意識に私は涙を流しながら光に向かって走り出していた。


「ひかり、ヒカリッ、ヒカリ光ひかり」


 一種の混乱状態だろう。 譫言のように言葉に出して。 米粒程の光を目指して走る。


「ひかりひかりひかりひかり」


 走れば走るほど、徐々にだが、白い光は大きくなる。 同時に、なんともいえない幸福感や達成感が心の中で渦巻いた。 ああ満たされる。 心が。 壊れかけの心が得体のしれない感情で満たされる。


 光が出口に繋がっている補償などは無い。 だが何故だかこの時私は確信めいたものを感じていた。 アレは外に通じる光だ。 出口だと。


 何故だかは分からない、だが体が、頭が、魂がアレは出口だと教えてくれる。 だから必死に走った。 そして、その予感は当たり、私はこの馬鹿げた空間から脱出した。

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