異空間2

 どれぐらい時間がたったのだろうか。 何百と倒したスケルトンの残骸が、周囲に山となっている。 私は生きていることが不思議なほど傷を負いながら、未だにスケルトンと戦っていた。


「……ハァ…ハア」


 肩で息をしながら、恐らく最後であろうスケルトンの攻撃をギリギリで躱し、魔力で強化した拳で殴りつけ頭蓋を砕く。 動かなくなったスケルトンを確認して、緊張感が解けてその場に倒れ込んだ。 もう魔力も残っていない。 体力も尽きた。 今襲われれば、どんなに弱い魔物でもやられてしまうだろう。


 だが、周囲には魔物の気配はない。 心の底から喜びが込み上げてきて生き残った事を実感する。


「安心するには…少し早いか、気を引き締めないと」


 魔物の気配が無いからと言って警戒を怠ることは危険だ。せめて、すぐに対応できるような態勢で休むべきだと思い、起き上がろうと腕に力を入れるが、死にかけの身体はなかなか思い通りに動いてくれなかった。 


 私が何とか武器を握り一応は警戒の体制をとることが出来た瞬間に、先ほど頭蓋を砕いたスケルトンが眩いばかりの光を放った。


「……!?」


 緩み切った頭を戦闘モードに瞬時に切り替え、よろけながら立ち上がる。 体を無理やり起こしたため、至る所が痛み、勢いよく出血するが、それよりも今起こった現象に対し最大限に警戒心を高めた。


 警戒心を高めた瞬間、光を放ったスケルトンは消えて、緑色の液体が入った瓶が地面に無造作に地面に転がる。 しばらく、小瓶に対して警戒したが、どれだけ時間が経過しても何も変化はなかった。


「……あぁ」


 警戒を緩めて瓶を拾い上げ小瓶に入った液体を口に含む。 通常の状態なら、いきなり現れた怪しい液体を飲むなんて絶対にしなかったのだろうが。 思考がうまく働かず、飲み物を手に入れた感覚しかなかった。


 口に含んだ瞬間、青臭い匂いが口いっぱいに広がる。 同時に体の底から力が沸いて、体力や魔力が徐々に回復していくのを感じた。 心地よい感覚を覚え、今度は一気に飲む。 飲み終えた瞬間、体の傷は、ほとんど治癒しており。 魔力も全快していた。


「なんだコレは!?」


 飲み終わってすぐに、今更ながら回復して傷が塞がっていることに対して驚いた。


「ひょっとして、回復薬?」


 回復薬とは、いわば生命のスープである。 一口で、たちどころに疲労を消し去り。 魔力を回復し、傷を癒す。 曰く、神秘の液体。 曰く、生命の結晶体。呼び名は様々だが希少な物には変わらない。


 しかし、何故スケルトンが回復薬に変わったのだろうか? 仕組みは理解できないが、なんにせよ助かった。


 その場で起こった現象に深く考えてもしょうがないという結論に達して、私は洞窟の奥へと足を進めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る