異空間


 魔力を消費して火の玉を作り、それを周囲に浮遊させる。ふわふわと火の玉が周囲を明るく照らして、ようやく自分が、どのような場所にいるのかが理解できた。


「洞窟にしか見えないんだけど、そんな訳はないよね」


 オルガさんは、異空間と言っていたが、どこからどう見ても洞窟だ、他にたとえようがない。 ただ、広さの規模が、私の知る洞窟とは桁違いである。 何しろ果てが見えないのだ。 


「オルガさんは、生き抜けと言っていたけど、私はとりあえず出口を目指せばいいのだろうか」


 軽く歩きながら考えをまとめる。 生き抜くことが特訓なのだろうか? 確かに暗闇の中で生き抜くことは難しいかもしれないけど、特訓というほどではないと思う。


「ん?何だアレ」


 見ると、先ほどは何もなかった空間が歪み、スケルトンが大量に出てきた。


「スケルトン? コイツと戦えという事なのか?」


 スケルトンは、たまに森に出るため、狩りの最中に何度か遭遇したことがあるが、今回のスケルトンはいつもとは違い武器や防具を持っていた。 加えてまっすぐ、こちらへ向かってくることも、いつものスケルトンとは違う。 


「そういえばスケルトンは、生者に群がる習性があると聞いた事がある。この場にいる生者は私だけという事か」


 冷静に現状を分析している途中で、スケルトンが剣を振り下ろす。 辛うじて躱すが、速度も普通のスケルトンとは違い非常に滑らかに動いていた。 追撃も他のスケルトンとの連携が取れている。 まるで人間のパーティを相手にしているようだった。


「コイツ等、普通のスケルトンじゃない」


 攻撃を躱しながら思わず叫ぶ。 連携をとるスケルトンなんて聞いた事が無い。加えて個体でも非常に強い。 速度、体捌き、技。どれをとっても一流のソレだ。


「いッ!!」


 突如、右足に激痛が走る。 見ると弓で足が貫かれていた。 体制を崩したところに、ハンマーによる追撃。 これも避けられない。


 ヤバイ


 剣による斬撃、これも喰らう。 魔法による攻撃、回避ができない。


 ヤバイ!!ヤバイ!!ヤバイ!!


 あらゆる攻撃が、雪崩のように襲ってくる。 数の暴力によってズタズタに体は引き裂かれる。 通常なら気を失う攻撃を喰らい続けるが、指輪のせいで気絶ができない。


 口から血を流し、腕が変な方向を向いている。 一応に避けようとはするが、大量のスケルトンに囲まれているために身動きすら取れない。


 痛い!痛い!!痛いッ!!


 あまり、にも痛い箇所が多すぎて、どこが痛いのかも分からない。


 助けて、タスケテ、たすけて。


 心の中で呪文のように唱える。 だが、どうしようもない。このまま嬲り殺されるとしか思えない。


 すると、一体のスケルトンが勝利を確信したのか、カタカタと骨をならし笑う。 その仕草は伝染して同じように周囲のスケルトン達もカタカタと骨をならす。 その仕草を見て思い出す。


 似ている――初めて戦闘した状況に。


 似ている――あの時の兵士たちの仕草に。


 似ている目の前のスケルトンが――何もかもが――似ている。


 瞬間、ここに来た理由を思い出す。 助けてと頼んだところで誰も頼れない事を思い出す。 暴力的に全てを奪われた事を思い出す。


「なめるなアァァ!!」


 痛みを押し殺して、目の前のスケルトンの頭蓋骨に短刀を突きたてる。


 殺してやる!殺してやる!!殺してやる!!! 脳が焼き切れそうなほどの怒りが込み上げ。 目の前が真っ赤になり、頭の先からつま先までどす黒い感情が私を支配する。


「上等だよ!! いくらでも来い、バラバラにしてやる!!」


 短刀で関節を切り離し、強化した拳で頭蓋骨を砕く。 だが、数で勝っているスケルトン達は、こちらが1回攻撃をしたら複数回攻撃をしかけてきた。


「チッ!! 流星加速」


 膨大な量の魔力をつぎ込み速度のみ強化して、これらの攻撃を回避する。 その様子を、何がおかしいのか、骸骨を震わせてカタカタとスケルトン達が笑う。


「その笑いを止めろッ!!」


 あざ笑うスケルトンたちを砕き、壊し、潰す。


「私は死なねぇ!! 復讐を果たすまで絶対に死なねえ!!」


 咆哮をあげながらスケルトン達に向かって私は短剣を必死に振るった。

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