始まり

「さて、このあたりで良いだろう」


 ボロボロになったドアを蹴飛ばし、オルガさんが連れてきた場所は、村の端にひっそりと建った廃墟である。


「オルガさん、今から訓練をするんですよね?このような場所で、いったい何をするんですか?」


「説明する前にコレを付けろ」


 そう言ってオルガさんが、投げてよこした物は指輪だった。 それは以前、貸してもらった魔力を吸収する腕輪にデザインは似ている。 今回もその類の魔道具だろうか?


「この指輪は?」


「普段は拷問に使うのだが、この指輪には、気を失う事ができなくなる効果と睡眠が不要になる効果がある。寝ている時間が惜しいから、お前に渡しておく」


 オルガさんの拷問用という言葉はスルーして半信半疑で指輪をはめる。 瞬間、頭の中が冴えわたる。


「どうだ?スッキリするだろう。だが勘違いするな疲労は確実にたまる。これはあくまで眠らなくなるだけの道具なのだからな」


 腕を組み、オルガさんは、一応の注意喚起をしてくれた。 眠くならずに疲労だけたまるというのは、なかなかにキツそうだ。 だが、このような魔道具を貸してくれる事を考えると、先ほどの食事の席で本気で鍛えてくれると言った言葉に偽りは無さそうだ。


「さて、それでは、これからお前を異空間へと放り込む。当初は生き残ることを目標としろ」


「はい?何ですって?」


 一瞬、何を言っているのかが、分からなかったため思わず聞き返すが、オルガさんは、これを無視して言葉を続ける。


「異空間はダンジョンに近い、拾ったアイテムなどは遠慮なく使え。 早く出たいならとにかく下へと進め、一応、死んでも出てこれるが、コレはあまりお勧めはしない」


「え?ダンジョン?死ぬ?」


 ますます意味が分からない。 オルガさんは一体何を言っているのだろうか?


「それではサヨナラだ、アレだけ俺に対して啖呵を切ったんだ。生きて帰って来いよ」


 オルガさんが軽く右手を振ったのは見えた。 いや、正確にはオルガさんが手を振っている途中までは確認できた。 気が付けば、一瞬にして体が反転して、視界は暗闇を映し出していたため少し混乱する。 いったい何が私に起こったのだろうか?


「はぇ? オルガさん?」


 あまりにも急な出来事に、思わずオルガさんの名前を呼ぶが、暗闇に木霊する声に対して、返事は返ってこなかった。

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