訓練後4
言われるがまま席につくとメルスさんが、笑顔で料理をよそってくれた。目の前には山盛りの料理の数々が彩り豊かに盛り付けられる。
「コレは、お肉ですか? この村では干し肉しかなかったはずですが」
「この村の食糧には手は出さねぇよ。それよりさっさと喰え」
言葉は乱暴だが、オルガさん達は、この村が孤立したため食糧事情が良くない事を分かっているのだろう。 感謝の言葉をオルガ様に述べ、料理を口へと運ぶ。
―――瞬間、世界が止まった。 なんだコレ、おいしい、おいしすぎる。
きちんとマナーを守って食事をとろうと心がけていたのだが、この瞬間、細かなマナーなんて記憶から掻き消えた。 外聞など気にせずに心不乱に食事をかきこむ。
「気に入ってもらえて何よりです。ミレイさんよろしければ、もう少しよそいましょうか?」
メルスさんに話しかけられてハッと正気に戻る。 何をやってるんだ私は、流石に最低限のマナーがあるだろう。
「いえ、すいません。私だけ食事に夢中になってしまって」
「いえ、オルガ様はいつも残してしまいますので、これくらい、よく食べてくれていた方が作った側としては嬉しいですよ」
「作りすぎなんだよお前は、自重をしろ」
「そうでしょうか? 次からは気を付けますね」
オルガさんは、頭を下げるメルスさんを視界から外しこちらへ視線を送ってきた。 やはり流石にマナーが悪すぎたのだろうかと少しだけ身構える。
「ガキ、話は変わるが、お前は、何故そんなに強さを求める。 普通に生きていく分には問題ないだろう」
どうやら私がオルガさんから咎められたのは、食事のマナーに関してではなく、朝早く訪ねて来た事を言っているようだ。
「訓練をつけてくれているオルガさんがそれを言いますか? もちろんオルガさん達の旅で足手まといにならないためですよ」
返答は、ぼかして答える。オルガさんが鍛えてくれるのはあくまで使い物になる可能性があるためであって、きっと私の私怨を述べたところで迷惑になるだけだろう。
「茶化すな、訓練前に、お前だけならば連れて行くと言っただろうが、お前ひとりならば合格ラインだ。強くなる必要など無いだろ。それでも力を求めるのは何故だ」
「……私は合格かもしれませんが他の子たちは合格になるかどうか分からないでしょう?」
「なるほど、全員が合格基準をクリアしなかったら、お前この村に残るつもりか」
「オルガさんが不合格と判断したら、ですけどね」
少しオルガさんは、考え込むような表情を作り、一拍おくと、手元に置いてある冷水の入ったグラスを一口飲む。
「だが、それならば多少強くなっても状況は変わらんぞ、襲ってくる数が変わるだけだ」
真っすぐとオルガさんが視線を向けてくる。 まるで心を探られているようで少しだけ気持ちが悪い。
「何もしないよりかはマシの筈です。連れ去られる子供たちに対して私は何もできなかった。あれほど己の力が無力に感じるような、あんな惨めな思いはしたくない。私はそのために強くなり子供たちを守ると誓ったんです」
「なるほど、お前が愚かでバカな事は理解した」
「どういうことですか?」
「全て自分の責任と感じている時点で愚かだろう。責めるべきは自分ではなくそのような環境に追い詰めた国や人を恨むべきだろ」
「そんなものを恨んだところで、どうにもならないでしょう」
「自分を責めるよりかはマシだろう。お前の本心はなんだ?出来る、出来ないは、この際置いて、お前は、本当はどうしたい?」
「……何を言っているんですか? 私は本当に子供たちを守る力がほしいだけです。 それ以上は望まない」
「とぼけるのも大概にしろよ。確かに俺は人の考えが全て分かるわけではないが、口に出している言葉が本心じゃないことぐらいは分かる」
その言葉で心臓が跳ね上がる。流石にバレていたらしい。 だが、まだ誤魔化す手立てはある。
「バレていましたか、加えて、村の住人を取り戻したいとも考えています」
「それも嘘だな、お前の話では、そいつらは自分の意志でこの村を捨てたのだろう?お前は、本当に一度裏切った奴らが戻ってくることを望んでいるのか?」
その言葉が胸に突き刺さる。 裏切られた。 確かにその通りだ。彼らがまだこの村にいてくれたならば、私たちはまだ普通の子供として生活ができていたハズなのだ。 それを奪った国が、裏切った人間が、憎い。
「……国を…………したい」
「聞こえねぇな、なんだって?」
「私達をここまで追い込んだ国を滅ぼしてやりたい」
「……ほう?」
オルガさんの目が少しだけ大きく開くと、ニヤリと笑う。その表情は何処か悪魔的で悪寒が体中を駆け巡った。
「愚かな事を言っているのは分かっています。でも毎日怯えながら、無力感を感じながら、日々奪われ続け、惨めに今まで私は生きてきた。ここまで追い込んだ国が、裏切った人々が、私は憎い」
言葉に出した事で今まで心の中で隠していた感情に歯止めが利かなくなった。 始めて無力を感じた経緯を語り、守れなかった悔しさ、裏切った人への憎しみ、国への不満等、呪詛にも似たような言葉が次々と出てくる。
心に抱えたものをすべて吐き出し終えると、何故だかオルガさんは非常に機嫌がよさそうにしていた。
「ふふふ、アハハハハハハハハ。 良いね。最高だ!! 面白いぞソレ。最初に襲われた時から、お前にはどす黒い物を感じてたんだ。まさかそんな真っ黒な部分があったとはなぁ」
何が彼の機嫌を良くしたのかは分からないが、オルガさんは非常に楽しそうに椅子から立ち上がる。
「ハハハ、よしよし、訓練を受けたいんだったか。本音を言うと本気でお前らを鍛える気は無かったのだが、お前を本気で強くしたくなってきた。メルス、今の話を聞いていたな。コイツ以外の4人はお前が指揮をとって鍛えろ。コイツは今から俺が特訓する。本気でな」
「了解しました。昨晩の打ち合わせでは元々その予定だったので問題ありませんが、オルガ様が本気で鍛えるという、訓練期間はどの程度を考えていますか?」
「1カ月でコイツを使いものにできるようにするつもりだ。お前はあのガキどもを荷物持ち程度に鍛えておけ、それと他国への調整も忘れるな」
「分かりました。ですがあの子共たちはミレイさんに比べて体力が無い。私たちは予定通りに3日後に訓練を行おうと思うのですが、よろしいでしょうか」
「構わん、それでは行くぞガキ、今から訓練をしてやる」
「はい、よろしくお願いします」
元気よく返事を返して私は、オルガさんの後を付いて行った。
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