訓練後2

 オルガさんは、全員を広場に集め3日間の休息を取るように宣言すると、すぐに何処かへ行ってしまった。 その後ろ姿を見送ってすぐに、緊張の糸が切れたのか、その場にターニャとバオは倒れ込み寝息を立てている。


「ミレイ姉さん、私達も休もう。とにかく寝たいよ」


「そうね、クランは先に家に帰っておきなさい、きちんとベットで寝るのよ、じゃないと疲れが取れないわ」


「ミレイ姉さんは? 一緒に来ないの?」


「ターニャとバオをベットに運んだら私も寝るわ。クランは私に合わせなくてもいいわよ、先に休んでおいて」


「ありがとうミレイ姉さん、正直、立ってるだけでも辛かったんだよね」


 ふらついた足取りのクランを見送り、寝息を立てているターニャとパオを優しく持ち上げて近くにある家へと向かった。 服を着替えさせて、軽く体をふいた後2人の寝顔を見ながら自分もベッドへと入って目蓋を閉じた。 しかし、すぐに眠りに落ちるかと思っていたが、眠れない。


「なんで…?」


 ベッドからむくりと起き上がり周囲を見渡す。 隣にはターニャとパオが幸せそうな表情で熟睡していた。


 ああ、彼女たちを見ると思い出す。 先ほどまでの自分が、何もできなかったことを。


「メルスさんが助けてくれたから今の私たちがいる……それは分かってる、……でも、悔しいな」


 思わず表情が歪み、心の奥底で渦巻くメルスに対する醜い嫉妬心の様なものを感じながら、ミレイは言葉を吐き出していた。


 メルスさんは、あそこまで自分の体を傷つけて私を、私達を、守ってくれたんだ。 嫉妬心を抱くなんてどうかしている。 それを頭では理解している、理解は出来ているけど…………できれば、私が子供たちを守りたかった。


 今まで私がこの村を死に物狂いで守ってきたことは嘘ではない。 次々に連れ去られる子供たちの犠牲のためにも、強くならなくてはいけないと思い必死に鍛えた日々も本物だった。


「でも……それでも私は、何もできなかった」


 オルガさんが召喚した化物を見た瞬間、醜くも子供たちを置いて一人で逃げたいと思ってしまった。 移動速度に制限が付いていたため、何とか平常を保ち子供たちを置いていくことなく行動できていたが、アレが本来の速度で移動していたならば、私は、子供たちを見捨てていたかもしれない。


 今まで守ってきたものを、自身の保身の為に投げ捨てようと一瞬でも考えた自分が許せない。 そして、他人任せにして、化物に挑むことすら出来ずにいた自分が許せない。


「弱くてはいけない、もっと強くならなくては」


 繰り返し繰り返し、呪文のように呟いていると自然と心が落ち着きいつの間にか眠りに落ちていた。

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