訓練後

 訓練終了の宣言がなされてから数分後、私たちは広場に集められ、オルガ様と対峙するように整列させられた。


「とりあえずは、今回の訓練でお前らがどの程度動けるのかは把握した。 早速、次の訓練と移りたいところだが、疲労がたまって、それどころではなさそうなので、とりあえずは3日間各自、休息をとれ」


 人間どもは、オルガ様の言葉を聞いて、ほっと胸をなでおろしている。 この程度の訓練で疲れていては本格的な訓練が始まったら死にたくなるだろうな。 少しだけ楽しみだ。


「オルガさん、次の訓練はどのようなものなのでしょうか?」


 そんな中、ミレイがオルガ様に向かって質問を投げかける。


「当初は戦闘訓練を予定していたが、未だそのレベルには達していないと判断した。とりあえずは、お前らの基礎能力の向上、魔力の底上げ等を中心にやっていきたいと思うが、そんな事は休息をとった後に考えろ。今考える事ではない」


 その言葉を聞いて少しだけミレイは苦虫を噛み潰したような表情をしたが、すぐに表情を正すと分かりましたと返事を返した。


「それと、メルスは俺と一緒に来い。 後の者は各自休息をとる事、以上、解散!!」


 解散の声が聞こえた瞬間に、今まで張っていた緊張の糸が切れたのであろう人間がその場で倒れ込み寝息を立てた。


 人間どもを脇目にオルガ様に付いて行き一つの家へと一緒に入る。 この家は、かつてこの村の村長が住んでいた家らしく、作りは村で一番立派だった。 部屋へ入ってカギをかけ、周囲に人の気配、盗聴用の魔術が無いことを確認するとオルガ様が言葉を発した。


「メルス。今回は俺の意志を伝えてないにも関わらず、良くやってくれた。これからの予定が少しだけだが組みやすくなった―――ってどうした?顔が赤いぞ?」


「オルガ様に素直に褒められることが少しうれしくて」


 ここ100年ほど、オルガ様が、私をほめる事は無かったため、いきなりの不意打ちに思わず気分が高揚して顔が熱くなるのを感じる。


 本当にオルガ様は卑怯だ、こんなの不意打ちすぎる、ニヤケ顔が戻らない。


 そんな私の様子をオルガ様は、まるで不審者を見るような目つきで見る。


「相変わらず、お前は訳が分からんが……まあいい。 あえてダメだしするなら、今回の訓練で初めから単独行動をとらずに協力するフリでもして、もう少しうまく立ち回ってほしかったのだが、流石にそれは酷な話だな」


「すいません、流石に、あそこまで無能な動きをする劣等種族は、見てるだけで、なぶり殺しにしたくなりますので」


 頬を両手で揉みほぐしつつ、表情が回復したためオルガ様との会話に復帰する。


「まあ、そうだな。俺だったら1時間持つ気がしない」


「オルガ様それは流石に早すぎですよ」


 笑いながらツッコミを入れる。 オルガ様は頭をかきながら、確かにそうだなと言葉を続けた。


「さて、本題に戻るが、鍛える方針としてはお前を班長として訓練を行いたいと考えている、だが、そうするにあたって問題が一つある」


「ミレイという人間の事ですね」


「流石に気付いていたか」


 2週間という期間は、私たちが人間どもを観察するには十分な時間だった。 流石にあれに気が付かないほど私は無能ではないので肯定する。


「ええ、彼女はこの村の人間を引っ張ってきたというプライドがあるでしょう、班長という地位に私が付いたなら不満こそ口には出さないでしょうが内部分裂を引き起こす危険性があります」


「そうだな、それは俺も懸念していた事だ。そこでだ、ミレイは俺が面倒を見よう」


「オルガ様がですか?」


 少しだけ驚く、先ほど1時間も持たないと言っていたオルガ様が人間などという劣等種族を鍛えられるのだろうか? 間違って殺さなければいいけど。


 私のそのような考えを知ってか知らずかオルガ様は言葉を続けた。


「特別扱いというものは便利な言葉だろ? 1人だけ別の訓練を受けさせることで自分を優れていると誤認させれば不満が溜まることも無いだろう」


「なるほど、確かに、下等生物は何の疑問も抱くことなく自分がすぐれているからオルガ様から特別に訓練の手ほどきを受けていると誤認しそうですね」


 実にオルガ様らしい素晴らしい考えである。オルガ様の考えを、ほんの少しでもあの劣等種族が理解出来たら、少しはましになるのだろうが、それは無理な話だろうと勝手に一人で納得してため息をつく。


「では、今日はもうお前も休息をとることを許そう。明日は俺と共に、人間どもの教育方針を考えてもらう、そのつもりでいろ」


「了解しました」

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