訓練
「さて、強くすると言った以上最善を尽くすが。正直、お前らみたいな弱者をそれなりにするには普通の方法では時間がかかりすぎる」
「それは分かりましたが。オルガ様、それは何ですか?」
翌日、早速、村の広場に子供たちを整列させると。オルガ様は何処から取り出したのか複数の腕輪を取り出した。
「何でもいいだろ? とにかくつけろ」
オルガ様に言われるがまま子供たち4人は腕にそれを付ける。 あれは何なのか私には分からないが。 なんか禍々しい魔力を感じるからきっと碌な物じゃないんだろうな。 あれを付けて、オルガ様にしごかれるとは、少しだけ人間の子供たちに同情する。
「何をしている。お前もだぞメルス」
「ええッ?私もですか?」
「安心しろ、お前の腕輪は特別なのを用意しておいた」
そう言って子供たちが付ける腕輪を更にごつくした物を渡された。 正直、そんな特別いらない。 突き返したい衝動を抑えつつ、一応やんわりと抵抗してみる。
「ええっと……ちょっと体の調子が悪いのでご遠慮したいのですが」
「ほう?では、お前は特別に拷問の耐久訓練にするか?」
ニコリと、さわやかな笑顔を振りまきつつ、腰に差していた剣をすらりと抜くオルガ様を見て。 悪寒が全身を駆け抜けた。 コレは完全にあかんやつや。
「ごめんなさい、嘘です。やります!!やらせていただきます」
「チッ。仕方がない、さっさとつけろ」
先ほどまで笑顔だったのに、何故か一瞬にして不機嫌になったオルガ様を見て、ただ自分が、拷問したかっただけなのではと思ったが……流石に、そんなことは無いだろう……たぶん。
「よし、準備は出来たな。貴様らにやってもらうのは鬼ごっこだ、ただし鬼は俺ではない、コイツだ」
そう言ってオルガ様は魔法陣を描くと、体中が青色の炎に身を包まれた5メートルはあろうかという巨大な人型の魔獣を召喚した……いや、ちょっとまて、あれは、魔神じゃないだろうか。 気を抜いたら私でも死ぬやつだ。 存在するだけで大気が歪むほどのオーラにあてられて子供たちから悲鳴が上がるが、当然だろう。 あれは人間がどうにかできるレベルを超越している。
「コイツは恐ろしく強いが、移動速度のみ制限しているため恐ろしく鈍い。戦っても構わないが、捕まったら恐らく死ぬからきちんと逃げろよ」
相変わらず軽く言ってくれるが、移動速度を制限してくれているのは、ありがたい、あれが本来の動きをすれば私だって逃げ切れるか分からない。
「ちなみにお前らに着けた腕輪は魔力を吸収し続ける腕輪なので強化の魔法を使いたければ通常の数倍の魔力量が必要になる。範囲は村の中だけだ。出口は封鎖してあるので村から出ようなんて思わない事。それでは100秒後に追いかけ始めるから各々逃げて良いぞ」
オルガ様は、なんてことをしてくれるんだ。 アレにハンデをつけて逃げ回れとニヤニヤと笑いながら軽い口調で言うが、コレ絶対死人が出る。 本当にこの人は鍛える気があるのだろうか。 楽しんでいるだけの気がしないでもないが、とにかく今は、逃げる事に専念しようと必死に足を動かした。
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