関話 ミレイ=アシッドという子供の話

 回復魔法を使える者は、あまりに希少な存在である。 私、ミレイ=アシッドは、そんな希少な回復魔法の適性があり。 10歳の時には、既にヒールを使えるようになっていた。 周囲の人間は私の事を天才ともてはやし。 私もその言葉を疑わなかった。


 しかし、天才という私の自信は、隣国の兵士たちが攻めてきたときに無残に打ち砕かれた。 連れ去られるたくさんの子供たち、取り戻そうと立ち向かったが、私は何もできなかった。


 無力という言葉がこれほど堪えたことは無い。 その時、初めて自分は天才じゃないと実感した。


 それから幾度となく子供たちを連れ去りに来る兵士と戦い、少しづつ、私自身も強くなった。 だが犠牲は大きく、私が、皆を守れる頃には、もうこの村には、私を含めて4人しか居なくなっていた。


 そんなある日、また兵士がやってきた。 今回の兵士は見るからに高級な衣服に身を包んだ漆黒の髪と瞳を持つ男が1人と。 それの付き人なのか、金色の長い髪を揺らした眼鏡をかけた美人が1人。


 今までとの兵士とは明らかに違う恰好の2人を見て、恐らく私達を言葉で丸め込もうとした位の高い兵士だろうと高をくくり、脅しをかけ、襲い掛かった。 しかし死に物狂いで鍛えた私の技が、力が。 目の前の男には通用しなかった。


 一瞬で私は気絶させられ、無残に敗北した。 私は悔しかった。 何かを守れるようになっているつもりだったが、結局のところ守れない、強くなったつもりでいただけだった。


 意識の途切れる直前に、私の仲間は、目の前の男に連れ去られるだろうという考えが過り、悔しさで胸を一杯にして、私は気を失った。


 だが、目覚めたら、そこは監獄でも牢屋でもなく、見慣れたいつもの平原だった。 話を聞くと、彼らは隣国の使いでも兵士でもなく、ただの旅人だったという。


 すぐさま私は彼らを襲った事を謝り。 我々も旅のお供に連れて行ってほしいと懇願する。 しかし目の前の男は、私達では力不足とハッキリ告げた。 彼らの強さを目の当たりにした私だから分かることだが、旅とはそれほどまでに過酷なのだろう。


 だが私達がこの場に留まっていても、いずれ強い兵士が攻めてきて連れ去られ戦場に送られるだけだ。 無理だと分かっていても懇願し続けた結果。 しばらくの間、彼らは、この村に滞在してもらう事になった、その間、強くなることができれば私達を旅へ連れて行ってくれるらしい。


 私は、情けをかけてくれたオルガさんの役に立つために、残された皆と、今まで以上に修行して強くなることを自身の心に誓い、お願いしますと頭を下げた。

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