第125話 強者は勝ち、弱者は負ける

腰を抜かして座り込み、肩で息をするトキと。

くすくすと笑うフェル。


「冗談よ、私がトキを消す訳が無いでしょ。可愛い妹なんだから」


ひたり


フェルが、霊真エーテルで造ったナイフで、トキの頬を撫でる。


「・・・降参・・・します・・・」


「はい、良くできました。妹は、お姉ちゃんに逆らってはいけないのです」


くすくす


フェルが笑う。


肩を落として戻ってきたトキを、抱きしめる。


「トキ・・・」


「ごめん・・・ごめんなさい・・・シルビアさん・・・」


「大丈夫だ・・・後は俺に・・・任せろ!」


トキを抱きしめる力を強くし──


「こらそこ、次の試合の選手は早く入場する!」


フェルが怒鳴る。

むう・・・無粋な。


・・・とはいえ・・・


勝ち目など、当然、無い。


ここでフェルに負けてはならない。

大切な物を失う。

そんな焦燥は有るのだが・・・


周囲を見回す。

みんなの目に有るのは・・・絶望・・・ではない。

それは・・・希望。

俺が何かをする・・・そう信じている目。


トキの体温からも・・・それは伝わる。

信頼・・・


だが・・・


俺は、その信頼を・・・


今から裏切る。


無論、裏切りたくなどない。

でも・・・本当に、打つ手が無いのだ。

非戦闘職に・・・戦闘など・・・

だから・・・俺は・・・


そう・・・だから俺は・・・


戦闘職になると、決めた・・・筈だよな。

何故俺は・・・


・・・


そうだ。

もやがかかっていたが・・・


俺は・・・


うん、不具合とやらで、戦闘職になれなかったんだ。

随分昔の事だからか、かなりぼやけた記憶だが。


改めてステータスを見る。

悲しいくらいの弱さ。


何か・・・無いか?

何も、無い。

持ち物を漁っても、何も無い。

ロリアを武器にしても、勝てないだろう。

オトメをけしかけたら案外なんとかなるかも知れないが・・・それも違う気がする。


ヒノコ様に頼む?

フェリオや月花、メイルを呼ぶ?


俺にできること・・・

俺自身にできること・・・


俺は、溜息をつく。

本当に惨めな存在。


だが・・・感じる。

みんなの期待を。


応えたい。

みんなの期待に、応えたい。

自分で・・・勝ちたい。

全身全霊、知略を尽くして・・・勝ちたい。

だから・・・


俺の、唯一の能力。


偽装。


騙す。


俺自身を、騙す。

フェルを、騙す。


世界を・・・騙す。


ふくろうのかご

・ステータス、レベル、職業等を偽装できる。

 数値を実際より低く偽装した場合、

 その数値にまで能力が制限される。


俺のスキル・・・ステータスを下げる場合は、実際に下がるが・・・

実際には上がらなくても、ステータスを高く偽る事ができる。


俺は・・・俺は・・・


-----------------------------------------

名前:

 シルビア

種族:

 ニンゲン

種族レベル:

 1垓

STR:

 1垓

AGI:

 1垓

DEX:

 1垓

VIT:

 1垓

INT:

 1垓

MEN:

 1垓

-----------------------------------------


ちなみに、1垓というのは、

10の20乗、1兆の1万倍の1万倍だ。

かなり適当。


世界が・・・小さく感じる。


「どう?私の力は・・・恐ろしいでしょう?恐ろしいでしょう?だからね・・・シルビア」


恐ろしいものか。

フェルの力なんて・・・俺に比べたら・・・雑魚だ。


「良い事を教えてあげる、シルビア。私の力は圧倒的過ぎるから・・・シルビア、貴方を7回殺してしまうの・・・そうなると・・・貴方は7回負けるのよ?」


世界が、怯えている。

俺の圧倒的な力に、怯えている・・・気がする。

いや、怯えている。


「そうなるとね・・・実は・・・同盟を組んでいても・・・7回分一気に負けてしまうから・・・ちゃんと負けになっちゃうのよ。ニンゲンは、他の種族は、私の命令に逆らえない・・・」


オトメが、俺の力に怯え、泡を吹いて崩れ落ちた・・・気がする。


「怖いでしょ?でもね、シルビア・・・貴方が・・・私の望みを当てたら・・・いえ、それを叶えてくれるなら・・・ね?」


ヒノコ様が、真っ青になり、ぺたんと座り込む・・・そんな錯覚を覚える。


「どう、シルビア?」


ゆっくりと、フェルとの距離を進める。


「・・・あの・・・ね・・・その・・・何か・・・おかしく・・・ない・・・?」


フェルが、俺の力に気付いたのだろう。

引きつった笑みが・・・歪み始め・・・


「ちか・・・すとっぷ・・・シルビア・・・そこで・・・止まって・・・」


ゆっくりと、足を進める。


・・・早く降参してくれ。

見抜かれたら終わりなんだから。

自分を騙し続けるにも限界が・・・


「く・・・来るなあああ!」


フェルが無数の闇の刃を放つ。


が。


俺の圧倒的なステータスの前には・・・近づく事すら許されない。

フェルから離れた瞬間、霧散する。

所詮ただの魔力、俺に近付く勇気など、無い。


「来るなああああ!」


フェルが無数の霊真エーテルの刃を飛ばす。

悪魔化して、無数の闇の塊を飛ばす。

悪魔化からの無数の霊真エーテルの奔流。


だが。


俺の魔法防御力の前には・・・いや。

そもそも、俺の存在力の前に、攻性の事象など近づける訳も無く。


ガンッ


フェル顔の横に、手を突き入れる。

壁がなくても壁ドンっぽい事ができる、空間裂き。

意外と便利。


変身を維持する事もできず、フェルは座り込み、涙を流し、


「たすけ・・・助けて・・・死にたく・・・消えたく・・・無い・・・」


・・・


・・・


・・・あれ?


なんだかおかしくないか?


・・・


俺・・・本当にステータスが1垓になってない?


数値を低く偽装した場合、能力値が低下するとは書いてあるが。

数値を高く偽装した場合、能力値が向上しないとは書いてない。


つまり、本当にステータスが上がった・・・?

これって、自分のステータスを自由に書き換えられるスキル?


いや、それさ。


ただの、反則チート


「負けを認めるんだな?」


「み・・・認めます!何でもします!」


偽装を解く。

周囲を見回すと・・・


オトメは泡を吹き、というか、殆どの人が気絶し。

ヒノコ様は真っ青になって、がくがく震えている。

ちなみに、開始の合図をする筈の月花も、泡を吹いて気絶している。


いや、知らないじゃん?

本当に上がるって知らないじゃん?

あと、どのくらいが適正かなんて知らないじゃん?


・・・


びくとりい。

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