第121話 奥の手

ん?


急激に、フェルの力が膨れ上がる。

隠蔽を・・・解いた・・・?


「妻・・・?」


やばい。

超怒ってる。


いや、トキも既に成人した女性。

いつまでも姉の保護下にはいない。

というか、お前死んでたじゃん。

消滅させたのは俺だけど。


「・・・トーナメントなんてやめましょう・・・みんな、叩き潰してあげる」


逆鱗に触れたらしい。


「そちらは、何人エントリーしてもいいわ。こちらは、私1人。アイリスみたいに、ニンゲンだけで構成しろとも言わないわ」


・・・


かつて・・・フェルは・・・


イデア以外の六英雄を・・・全て・・・一度に殺した。

それだけじゃない。

フェリオ、ルナナ・・・他の従魔達・・・全員を。

それだけの実力差が・・・あった。


そして今・・・


感じる、圧倒的な力。

魔王化してた時と同レベル・・・いや・・・下手したら、更に上かも知れない。


それは・・・


考えられ得る中で・・・最悪の展開であった。


--


「1対1の対戦形式、うちは何人出ても良い、魔族側はフェルのみ・・・か」


届いた挑戦状を要約する。


「これ、うちが圧倒的に不利じゃない?」


ミストが尋ねる。


「いや、条件だけ見れば、うちが圧倒的に有利だよ・・・勝率が0なだけ」


フィロが首を振る。

あそこまで差が有るとなあ。

うちを0人にしたいくらいだ。


無駄にメンバーを増やしても、フェルを消耗させる事すら難しいだろう。

少数精鋭・・・


「六王、そして、トキ、アリス、ソフィア・・・それと・・・」


ソフィアが首を振り、


「いえ、今回も私は・・・いえ、六王だけで臨む方が良いと思います。各種族、ナンバーワンとナンバーツーの実力差は、圧倒的・・・」


・・・確かに。


「なら、六王・・・正確には五王だけで・・・かな」


俺は、一応、数に入るんだろうなあ。


--


「トキ・・・」


会合にも来なかったトキ。

NLJOにはログインしているが、自室。

トキの部屋を訪れる。


「シルビアさん・・・私・・・」


フェルが魔王だと、隠したのは俺だ。

ロリアに汚名を着せ・・・


「お姉ちゃんの事・・・シルビアさん・・・なんですよね?どうして・・・」


どうして、か。


結果として、トキ──解子は、心の平穏を手に入れていた。

だが、あの時は・・・フェルの妹が頭にあった訳ではない。


「お姉ちゃんを・・・好きだったのですか?」


「・・・意識はしていたんだと、思う。認識はしていなかったが」


そう。

フェルを悪者にしたくなかった。

それが・・・あの行為の理由。

フェルとロリアを天秤にかけ、ロリアを貶めた。


「私は・・・私は本当は・・・」


解子の真実・・・

そんなの、決まっている。


「トキ、お前は、俺の愛する妻だ」


トキを抱き寄せ、


「そして、LJOにおいて、ゲーム外から人類をサポートし続けた、六王の7人目」


実際、LJOにおいて、解子が果たした役割は大きい。

フェルが魔道士ギルドで教えた、誰でも強い魔法を使える様にする、整理された魔法理論・・・それを、ゲームに参加せず、自分で調べられもしないのに、組み立ててしまった天才・・・それが、解子という存在。


それだけではない。


他ギルドでも参考にされた、集団運営の為の理論。

フェルが集めた知識を整理して、実用できる情報に高めた存在。


解子は、間違いなく、LJOの攻略に参加していたのだ。


そして・・・


LJOの悪夢の後、生き残った人類。

法整備、戦略の策定・・・陰に・・・いや、イデアよりは日向に出つつ・・・人類の復興に大きく貢献した。


「それでも・・・」


「なあ、トキよ」


俺は、淡々と告げる。


「お前は、俺の愛する妻だ。もし、お前にくだらん事を言う奴がいれば、俺がそいつを裁く。死が生温いくらいの、な」


俺には、その程度の影響力は有る筈だ。

女神様に懇願しても良い、オトメに消させても良い。


そもそも、


「俺は、お前も当然守るし・・・フェルも守る」


フェルは、悪くない。

あれは、愚かな腐った奴らが招いた悲劇。


フェルは・・・許せなかったんだ。

俺を害しようとした者共が。

LJOの住人を喰い物にする輩が。

親友達を喰い物にしようとした愚者共が。


その場に俺がいれば・・・俺が、そいつらを殺していただろう。


悲劇は・・・フェルが魔王に適合してしまった事。


フェルも・・・妻も・・・そして、親友達も・・・俺が護る。


フェルに負ける訳にはいかない。

それは・・・けじめだと思う。


「シルビアさん・・・私も・・・戦う。お姉ちゃんと・・・戦う。シルビアさんと一緒に、戦う」


トキが、真剣な目で言う。


「ああ、一緒に戦おう・・・頼りにしているよ、トキ」


考えろ・・・何か・・・何か・・・無いか・・・


トキと目が合う。

そして・・・気付いたのは・・・同時か。


俺達は、頷きあった。


そう・・・


俺達には・・・奥の手が・・・あった。


「ヒノコ様に・・・請おう」


俺の言葉に、トキがこくり、と頷いた。

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