第117話 逆に

「宜しく御願いするでござる」


ぺこり。


カゲが頭を下げる。


「カゲくん、か。久しぶりだね。LJOでもシルビアを支え続け・・・その後も生き残って、シルビアを支えてくれたらしい、ね。感謝しているよ」


アイリスが、にこりと笑う。

詳しいな。


カゲは、自然な動作で覆面に手を伸ばすと、


しゅる・・・


覆面を、解く。


はらり。


長い白髪が、風に泳ぐ。

掛け値無しの美少女。

その姿を晒した事は、あまり無いのだが・・・


それでも、親友であるアイリスには、分かったようだ。

その目が、驚愕に開かれる。


???


こちらの陣営は、皆疑問符を浮かべる。

カゲの素顔を見た事がある者など・・・いない。

何故このタイミングで覆面を取るのか・・・それが理解できない。

イデアの事を知っている者も、咄嗟に紐付けて考えられないようだ。


無論、女神様は知っているだろうが。


「六王の1人、影王アークシャドウイデア。親友、アイリス・・・貴方を、討つ」


イデアが、刀に手を掛ける。


アイリスは、驚愕に見開いた目が・・・怒りの色を灯し・・・


「・・・そうか・・・そういう事だったのか・・・きみは・・・きみは・・・ずっと、傍に居たんだな?」


空気が、変わった。


先程まで、アイリスは本気を出していると思っていた。

だが・・・それは、大きな間違いだ。


魔力が・・・殺気が渦巻く。

それはさながら・・・台風。

まさに・・・天災。


「思えば・・・おかしな点が幾つもあった・・・あの後会ったイデアは、人が変わった様に弱くなり・・・雰囲気も変わり・・・共有する筈の想い出を忘れている事も多く・・・」


ゴウッ


魔力が渦巻く。


「きみは・・・影武者にイデアを名乗らせ・・・自分はカゲと名を変えて・・・ずっとシルビアの傍に居たんだな・・・?僕達が皆・・・シルビアの傍を離れたのに・・・1人だけ裏切って・・・」


ザンッ


アイリスが、持っていた剣を、地面に突き刺す。


「僕達を謀るとは・・・思えば・・・何かある度に、イデアでは無くキミが指示を出している事もあった・・・何故かキミが色々知っている事があった・・・今分かったよ・・・その理由が・・・」


アイリスがイデアを睨み・・・


イデアが小首を傾げ、


「・・・逆に問いたい。何故気付かなかったの?」


ぐさあっ


やめろ、イデア。

その指摘は・・・多方面に効く。


俺も大ダメージを受けたが・・・

フィロ、ミスト、リミアも、死にそうになっている。

勿論、アイリスも膝をついている。


いや・・・言われてみれば・・・自分からヒントすら出していたんだよな。

盗賊ギルドのギルドマスターのイデアが、2人目だとか。


「イ・・・イデア・・・き・・・きみは・・・」


アイリスが、片膝をついて立ち上がり──


「ねえ・・・何で、ご主人様のもとを離れたの?ご主人様が好きなら、離れなければ良いじゃない?何で、離れるという発想ができたの?」


ぐしゃあ


アイリスが崩れ落ちる。


イデア、うちの陣営にも倒れている奴がいるからやめろ。


・・・


まあ、イデアがカゲとなって残ってくれて・・・本当に助かったんだよな。

それに、カゲとして月花から幾つも情報を得て、それを人間側に流していたし。

優劣をつけるものではないけど・・・貢献度としては、イデアは、相当貢献をしている。

常に影で動いていたせいで、人々が認識できていないだけ・・・


影で生きた英雄。

あらゆる名声をドブに棄て。

あらゆる罵倒を甘受する。


影武者のイデア・・・エイラは、相当強いが・・・六王に比べれば遥かに劣る。

そのせいで、影王アークシャドウの認知度は、極めて低い。


五王。


一般的にそう言われるのは、イデアがリアルの正体を明かさなかったせいだけではない。

純粋に、人々に評価されていないのだ。


俺が、何とも言えない気持ちで視線を向けると、


イデアは俺と視線を合わせ、


「貴方が知っていてくれるから・・・それで良いんですよ」


そう言って微笑む。

ぐふ・・・イデア・・・

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