第113話 絆の教会

俺は、横たわる倒木に腰掛ける。

ミストも、横に座り。


「ミスト」


「うん、何?」


俺は──ミストに、御礼を言わねばならない。


「ミスト──有難う」


「うん?」


そう・・・


「この前結婚したんだが」


「え」


「結婚式の装飾・・・ミストの絆の教会・・・あれを参考にしたんだ」


「え・・・」


ミストは、LJOの時代、マイハウスを最終段階まで進めた。

そうする事でゲットできる内装、絆の教会。

美しいチャペル。


そこで愛を誓った者は、永遠の幸福を約束されるとか、されないとか。

ミスト自身は結婚していないが、友人達がたくさん利用したらしい。

あの暗黒時代だからこそ・・・確かな絆を欲し・・・

実際のところどうだったかは分からないが。


・・・うん、嘘だ。

分かっている。


全員、死んだ。


LJOは、たった7人を除き・・・全員死んだのだから。


まあ、輪廻の輪に乗って、転生した者も多い・・・それは救いか。

影人、エルフ、天使、鬼・・・記憶の保持はともかく、元地球人はそれなりにいるらしい。


霊真エーテルの力で魂を壊されたり、侵略的次元渡航種に汚されたり・・・そう言った例外を除けば、それなりに転生できるのだ。

だから、死も・・・決して、終わりではない。


俺は、ミストの肩に手を置き、


「思えば、俺が結婚したのは・・・ミストのお陰だと思う。あの時見た、絆の教会・・・あれが頭に残ってて・・・結婚への憧れになっていた気がする。あれがなければ、結婚しなかったかも知れない・・・」


俺は、ミストに最上の笑みを向け、


「有難う、ミスト。俺が結婚できたのは、ミストのお陰だ。今は・・・凄く幸せなんだ」


「あう・・・え・・・」


目に涙を浮かべるミスト。

泣いて・・・くれているのか?

俺の幸せを・・・そこまで喜んでくれるのか!


「それでな、ミスト。戦いの開始時期なんだが──」


「もういい・・・」


え。


「もういい・・・戦い無しで・・・負け・・・いや、同盟で良いよ」


え、良いのか?


「良いのか?なら、こちらは歓迎だ」


手を差し出し、ミストと握手。

ミストは項垂れ、手が汗ばみ、震えている。

実は・・・体調が悪い?


<ニンゲンと鬼が、戦いを放棄しました。鬼は、ニンゲンの陣営に入りました>


「これからよろしく、な」


「うん・・・シルビアもその・・・お幸せに!」


ミストが、駆けて去って行く。


俺も、ようやく気付いていた。

ミストの望み・・・そして、今の豹変の理由・・・


ミストは、皆の幸せを願っていた。

そして・・・皆に絆の教会を使って貰い・・・


だが、そこを利用した人々は、皆死に・・・

それが、心の奥に、消えない棘として刺さっていたのだ。


みんなに幸せになって欲しい。

その、純粋な想い。


友人である俺の幸せ。

そして・・・それに、ミストの絆の教会が関与していた、と知り。

心の奥に刺さった棘が、氷解したのだろう。


此度の戦いも、結局は、お祭り騒ぎで楽しむ事が目的。


本当に・・・ミストは、優しい。


目頭が熱くなる。


「有難うミスト・・・そして、これからもよろしくな」


俺の言葉は・・・夜気に溶けていく・・・

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