第107話 神の右腕

「ヘ・・・変か?」


おずおず、女神様──ヒノコ様が上目遣いで尋ねる。


「い・・・いえ、とても──可愛らしい、良い名前かと」


「?!」



ちょおおおおお。



俺、動揺して何口走ってんのおおおお。

可愛らしいは無いだろう・・・

直前のヒノコ様の様子につい・・・


怒りを抑えるように、ヒノコ様が再度、顔を埋める。


話題を・・・変えねば・・・


「でも・・・何故アリスが・・・ヒノコ様の名前を?」


「奴には、色々手伝わせているのでな。あれで、中々便利なのだ。名前も、百柱神の申請書類の作成を命じた時にでも覚えたのだろう」


ヒノコ様がため息をつく。



・・・・



女神様に仕える使徒って、アリスかあああああああああああああ。

じゃあ、誤訳?したのも、あいつじゃないか。


ちょいちょい


フィロが、ソフィアの袖を引っ張る。


「何でしょうか、姉さん?」


「ねえ・・・ソフィア・・・あのさ・・・あのメイド・・・いや、あの方ってまさか・・・」


ソフィアは、一瞬躊躇すると、


「あの方は、神聖不可侵の存在です」


「?!」


フィロが、涙目で震える。


「外なる神・・・ですか」


リミアの顔が、険しくなる。

ヒノコ様の声は、聞こえていないらしい。

内なる神ですよ。


「ヒノコ様は素晴らしいお方・・・神々の最高峰、百柱神が一柱・・・その気になれば、この世界も、天使の世界も──地球も、一瞬で灰燼と化すでしょう」


くすくす、アリスが笑う。

そりゃ、管轄の神だからね。

さっきも、地球に大災害起こしてたし。


「・・・邪教徒め・・・御神の名にかけて、調伏して差し上げます」


リミアが、拳を構える。

珍しく、本気だ。

異教徒、というのが癪に障るのか・・・若干イライラしている様だ。

ちらちら、俺の方も見ている。


実際には、同一の神なんだけどな。


まあ、ここまで引っ張ってなんだが・・・

結果は見えている。


リミアの強さは言うまでもないが。

そもそも、アリスは弱い。

レベルの低さ、体力の無さ・・・そもそも・・・職業が、ただのアークビショップ。

レイやユウタの職業に比べると、かなり格下だ。

プリースト系列を極めるだけでなれる。

最上位職では有るが、基本職だ。

・・・いや、まあ、俺の宝王も、単独職制覇でなれるんだけど。


実際に戦いが開始すれば、一瞬でリミアが勝つ。

だからだろう。

ここまで引き延ばして、少しでも盛り上げようとしたのだ。


「それでは──始めて下さい」


「一撃で・・・終わりです」


リミアが宣言。

構え──跳ぶ。


ガガガガッ


目にも留まらぬ連撃。

それを。

優雅に錫杖でいなすアリス。


?!


微笑を浮かべたまま、アリスが防ぎ続け・・・


「はっ!」


強烈な回し蹴り。

決まったと思ったその一撃を、


ボウ


光を纏った手のひらで受けるアリス。


「・・・あれ・・・普通に・・・戦えている・・・?」


リミアは支援職だ。

確かに、他の六王に比べると、攻撃力は数段劣る。

だが、ソフィアや──先程のラファエルでさえ、数瞬ともたないだろう。

リミアは──強い。


だからこそ・・・アリスが耐えているのは──異常だ。


「・・・イージス・・・」


フィロが、呟く。

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