第106話 左手薬指

アリスは、リミアを見据え、


「私は──御神に拝謁した事が有ります」


「・・・?!」


リミアが目を見開く。

ん?

天使って、女神様に会った事が無いのか?

そう言えば、フィロも知らなかったな。


「LJOをクリアした、あの時に」


アリスが、微笑む。

いや、むしろ、今も会っているだろ。

むしろ、この場にいる全員が拝謁中。


「嘘・・・では無い、ですね」


リミアが、動揺を見せる。

嘘では無いが、事実全てでもない。


「その後も、御神とは親しくさせて頂いており──」


アリスが、滔々と続ける。


「この前も、アキバで・・・コス合わせをして楽しみました」


「嘘じゃないです?!」


リミアが、らしくない、大声を上げる。

女神様、あんた何やってるの。


ちら


女神様を見ると──こっちを丁度見ていて・・・つい、と視線を逸らす。

いや、良いんだけどさ。


「リミアさん・・・貴方のその願いは・・・それは・・・この戦いに勝っても、かないません」


「?!」


アリスが続ける。

いや、まあ、3回勝たないと強制力無いからな。


アリスが、すっと左手を上げ、手の甲をリミアに向ける。


・・・?


左手薬指に嵌まるのは・・・綺麗な指輪。

マジックリングか?

ちなみに、リミアは未婚だ。

六英雄の中では、唯一の未婚者。

本人曰く、神に仕える身、だからとか。


「シルビアさんは、既に結婚しています」


「??!」


リミアが更に目を見開く。


「そ・・・そんな・・・嘘じゃない・・・貴方・・・貴方が・・・?」


リミアが後ずさる。

そうショックを受ける話では無いと思うが。

あと、俺が既婚者なのは事実だが、アリスとは一切関係が無い。


アリスが指輪をしている、これは事実。

俺が結婚している、これも事実。

関連付けて見れば、誤解しかねない。


「御神は・・・シルビアさんを愛しています・・・私が結婚するのは・・・神の思し召しに反しない・・・」


「・・・そんな・・・何故・・・嘘では・・・無い・・・?」


アリスが、幸せそうに言う。

これも、詐術だ。


リミアが目を見開き・・・膝をつく。


女神様は、別に、信者の結婚を禁じていない。

女神様の思し召しに反しないは事実だ。


・・・



っておい?!!



こっそり、何言ってんのおおお?!

女神様が俺を愛しているって・・・いや、被造物として気に入っている・・・?

それすらも否定しそうだ。



戦慄し、女神様を盗み見る。

目が合う。

女神様がぼっと真っ赤になり、俺の胸に顔を埋める。


・・・良かった、聞いていなかったみたいだ。

信徒同士が争う快楽?が押し寄せているのだろう。

悶えている。

・・・ちょっとエロい。


アリスは、リミアを見据え、


「我が御神──武神ヒノコにこの戦い──捧げます」


ひゅ


錫杖を突きだす。



・・・



「「「誰?!」」」


周囲の声がハモる。


え・・・アリスって、女神様の信徒だろ?


「ヒノコって、誰だよ・・・」


俺が半眼で突っ込むと、


「・・・私の名前だ」


女神様がぽつりと言う。



・・・



何?!


女神様・・・ヒノコ様と言うのか・・・

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