第105話 身分詐称

「リミアさん・・・まさか、貴方とこうやって対峙するとは・・・あの頃は思いませんでした」


アリスが、感慨深そうに、呟く。


アリスにとって、リミアは特別な存在。


LJOの頃・・・リミアは、聖職者を集めたギルドを運営していた。

全人類の聖職を集めた、超巨大ギルド。


だが・・・


魔王の戦術は巧妙で、実力がある者から優先的に、殺された。

つまり・・・


六英雄とは、者達、なのだ。


例外は有る。


カゲは、俺が潜り込ませた存在。

ソフィアは、フィロがもしもの時の為に仕込んだ保険。

この2名だけは、例外だ。


アリスは・・・


特に実力が低く、リミアに近づく機会はかなり稀であったと言う。


そのアリスと、リミア。

アリスの感慨深さは、相当なものだろう。


「アリスさん・・・初めまして、ですね。私は六王の1人、聖王アークセイントリミア。そして、LJOにおいて、聖職者ギルドの長であった者」


?!


初対面の挨拶・・・?


「そして今、天使の代表として・・・ニンゲンとの勝負・・・貴方が、ニンゲン側の大将・・・此度の戦いを決する、代表者です」


リミアが、微笑む。

・・・アリス、リミアに覚えられてすらいないのか?

実は、会話を交わす機会すら無かったのかも知れない。


「・・・いや、アリスはLJOで聖職者のギルドの下っ端だった。つまり、リミアの部下だった者だよ。地位的に低過ぎて、覚えてられなかったのだろうけど」


「え・・・?」


俺が言うと、リミアは驚きの色を浮かべる。


「・・・私のギルドに所属する者・・・命を預けられているのです。全員と面談していますし、名前と顔が一致しない者はいません」


リミアが、少しむくれた様に言う。


・・・は?


「リミア様・・・私を覚えて無いのも、無理が有りません。私は非才の身・・・支部にて末端で従事しておりましたので──」


「嘘ですね」


アリスの言葉に、リミアが被せる。

嘘・・・だと・・・?


「実は、所属して間もな──」


「嘘ですね」


・・・?


「実は始めた直後だったので、まだ聖職者のギルドに入っていませんでした・・・」


「・・・はあ」


リミアが困惑した声を出す。

10年越しに発覚した、衝撃の詐称。

実はアリスは、聖職者ギルドのメンバーですら無かった。


「リミアさん・・・何故・・・何故、分かったのでしょうか?」


アリスが、恐れを浮かべた表情で尋ねる。


「私には、嘘を看破する能力スキルが有ります」


「嘘を看破・・・そんな・・・まさか・・・」


リミアの言葉に、アリスが信じられない、といった様子で下がる。

いや、ちゃんと作戦会議の時に説明したよな。


「リミアさん・・・こんな事、やめてください!お互い、話し合えば・・・分かる筈です!争いなんて・・・」


「私には・・・かなえたい想いが有ります・・・そして・・・戦いは、御神の思し召しでもあります」


リミアが、目を閉じ、告げる。


かなえたい想い・・・それは・・・何だ?

そう言えば、フィロも何か言っていたな。


一体、何が有るのだろう?


人間として、地球への転生。

過去へ遡及し、過去を変える。

人類の救済。

はたまた、転生後の世界で生じた望み・・・


人類を支配下に置きたい、というものでは無いとは思うのだけど・・・


「御神の思し召し・・・ですか」


アリスが、ぽつり、と漏らす。

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