第96話 魅了スキル

ソフィアが小首を傾げ、


「姉さんの目的・・・シルビア殿ですか?」


「・・・ソフィア?!」


フィロが、慌てた様にソフィアを止める。

俺?


「シルビア殿は、既に、トキ、ロリア殿、カゲ殿を娶っておられますが。悠長な事をしていて良いのでしょうか?」


「??!」


フィロの目が、驚愕に見開かれる。

同僚であり、友人でもある俺が既婚者だと知った時の衝撃・・・同窓会とか、飲み会の場で聞かされて驚くあれ・・・取り残された感、自分が知らされなかった感・・・それらが入り混じった感情・・・


フィロからは、それを感じられた。


いや、あんた、死んで転生したんじゃん。

その間ずっと生きてて、そろそろ30手前の俺と比べるなよ。

エルフって長寿なんだろ?


「シ・・・シルビア・・・結婚・・・って・・・?」


「あ、ああ。お陰様で、既婚者になったよ。まあ・・・幸せは感じているよ」


独身時代は、特に結婚願望は無かったのだが。

実際に結婚してみれば、良かった事は多い。


全ては、トキと・・・そして、みんなのお陰だ。


「──シ、シルビア!私も結婚したい!」


フィロの様な存在でも、結婚願望が有るのか。

選り取り見取りだと思っていた。


エルフの結婚適齢期がいつかは知らないが・・・

焦りが有るのだろうか?


・・・そうか。


そういう事か。


「フィロ」


俺は、低い声で告げる。


「う・・・うん?」


フィロが戸惑った声を出す。


「人間、気付いてないだけで、意外と好意を寄せられている事がある。周囲にもう少し目を向けてみたらどうだ?きっと、お前に好意を持つ奴が居る筈だ」


俺は、フィロに告げる。

そう──


「俺もかつては、カゲやロリアの気持ちに気づかなかった・・・だが、俺は変わった。俺はもう・・・昔の俺とは違う」


ロリアを、カゲを見て。

そして、フィロに笑みを向ける。


「私もシルビアが好きなんだけど??!」


フィロが涙目で叫ぶ。

勿論、俺もフィロは好きだ。

大切な親友だ。


でもな、フィロ。


友情と、恋愛は、違うんだ。

フィロには、まだ分からないかも知れない。

まだ今は、恋を知らなくても・・・きっといつか、恋愛感情を抱く相手が。

いや、フィロ自信に気が無くても、好意を向けられている可能性は十分にある。

友人贔屓かも知れないが、フィロは魅力的な女性だ。


「フィロ殿・・・我々も苦労したし、地道に何度も挑戦するしかない」


ロリアが、フィロの肩を叩く。

そう、恋愛も結婚も、一夜にしてならず。


「御主人様は、もう少しオトメゴコロに気付くべきだと思います」


「いや、だいぶ気付けるようになったからな?」


オトメが、苦言を呈する様に言う。

ツッコミを返しておく。

LJO以前の俺とは違う。


フィロは、俺をじっと見ると、


「シルビア、私の想い、伝わって!シルビア、キミが、好きだ!」


??!


ぼふ


フィロが抱きついてくる。

どういう状況?!


俺は、背筋が寒くなるのを感じた。


おかしい。

俺は、恋愛とは縁のない人生を送ってきた。

だが、最近のこれは何だ?

モテ期の到来?


いや・・・


むしろ、別次元に飛ばされたか・・・

もしくは・・・

俺が魅了スキルに目覚めた、何か世界が改変されたか・・・


これは・・・慎重に・・・ならなければ・・・


「いや・・・単純に、シルビア殿は昔から凄くモテていたのに、シルビア殿が気づいていなかっただけで・・・私もそうだが、フィロ殿も、昔からシルビア殿が好き・・・」


ロリアが半眼で言う。

何・・・だと・・・


「シルビア・・・駄目か?」


上目遣いで問う、フィロ。

・・・可愛い。


もともとの容姿も素晴らしいが。

大切な親友・・・性格も好きだし。

そして・・・俺に好意を向けてくれていると思うと・・・。


俺は、フィロの目を真っ直ぐに見て、


「有難うフィロ・・・嬉しいよ・・・」


そっとフィロの耳に口を寄せ、


「俺は、フィロと結婚したい。だから──」


そう。


「トキに聞いてくれ」

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