第85話 統べる存在

「御神・・・これを」


オトメが差し出したのは──本?

紙の束を綴じただけの、簡易な。


「オトメ・・・だったか?今はしばし待て。その奇行は、主人を辱めるぞ」


今から人類代表を発表する、重大な儀式。

そこに割って入るのはおかしい。


虚空に浮かぶ映像が消える。

女神様の配慮だ。


「大体これは一体──」


女神様がパラパラと本をめくり。


再度、パラパラとめくり・・・


驚愕の色を滲ませ、


「こ・・・これは?」


女神様が尋ねる。


まさか、近しい世界に侵略的次元渡航種が侵入・・・?


「見ての通りです。我が同胞達・・・侵略的次元渡航種の種類、特徴、生態・・・識別霊波に対処法など・・・」


・・・ああ。

確かに有用な情報だな。


でも、何故今?


比較的近く、かつ、視力と聴力が高い者、俺やギルドメンバー達は状況が把握できているが。

ほとんどの人は、状況が分からず、どよめいている。


「こ・・・これは・・・極めて重要な情報だ・・・これに対する対価など、私にも・・・」


神敵に対する情報・・・それは勿論、神々にとって、喉から手が出る程のものだろう。

被造物たる人間の代表など、些事だ。


「私は御神の敬虔なる下僕。お役に立てる事こそが何よりの歓び。どうかお納め下さい。それに・・・御神の治世が上手く行くのは、私も望むところです」


オトメが深々と頭を下げる。


・・・オトメ・・・すごく・・・まともだ。

俺、オトメの事を勘違いしていた気がする。


「・・・それでは、あまりにも筋が通らぬ。何か、欲する事を述べよ」


女神様が、困った様に言う。

あまりにも価値が高過ぎるのだろう。


「それでは、願い申し上げます」


オトメが顔を上げ、告げる。

お?


「構わぬ、申せ」


オトメは、一拍置くと、


「御神よ・・・その貢献に相応しい、ポイントを賜りたく存じます」



??!



オトメ・・・人類代表になるつもりか??!


女神様は困惑した様に、


「・・・そ・・・それは・・・人類の代表は人類に・・・いや、しかし・・・」


オトメは、はっとして、


「そうでした。失念しておりました。私めは今、シルビア様に仕える身。私めが得たポイントは──」


女神様は、人の悪い笑みを浮かべると。


「──ああ、そうであったな。私はオトメの貢献に報いなければならん・・・だが、そなたが得たポイントは、主人が得るのだったな」


・・・ん?


「お・・・おい?」


思わず、声が漏れる。


「良かろう。オトメの貢献に報い、百億万ポイントを付与しよう。だが、オトメはシルビアの従魔である・・・よって、シルビアに百億万ポイントが加算される」


女神様が告げる。

百億万って幾つだよ。


1位 シルビア 100,000,000,003,284 ポイント

2位 トキ 1,980,988,237 ポイント

3位 ソフィア 1,356,321,349 ポイント

4位 カゲ 21 ポイント


ちょおおおおおお?!


<神たる我が宣言する>

<人類代表は、シルビアである>

<異議がある者は、我への叛逆と識れ>


頭の中に、いや、魂の奥に響く声。

いや、いきなりのちゃぶ台返し、誰も納得しないだろう。

ほら、トキやソフィアも──


「「御心のままに」」


跪き、頭を垂れるトキとソフィア。

不満どころか。

我が意を得たり、といった雰囲気だ。


何でだよ?!


人々は顔を見合わすが・・・神に叛逆する気骨がある者はいないようだ。

くそう・・・


オトメ・・・まさか・・・

この為に、人類代表を発表する前のタイミングを狙って・・・?!


おかしい・・・


従魔に命じた筈・・・


ポイントを稼ぐ事を禁止する、と。


「・・・シルビア殿、その事なのですが・・・」


ロリアが、言い辛そうに、


「ひょっとしたら、シルビア殿は・・・従魔に対して・・・命令する力が無いのでは無いでしょうか?」


「ちょ?!」


どういう事?!


「ポイントを稼ぐなと命令された際、何の強制力も感じませんでした。つまり、もふもふやオトメのアレは・・・ブラフ」


?!


いや・・・そんな・・・まさか。

だって、ちゃんと俺の言う事を・・・


・・・


俺の考えている事を読んで・・・それに従って


「うさあ?!ご主人様・・・敵の言う事に惑わされちゃ駄目うさあ?!」


「ロリアは敵じゃないぞ?!」


やりやがった・・・


戸惑いながらも・・・声が上がる。

シールビア、シールビア・・・と。


おいこら、レイ、扇動するな。

カゲもだ。

やめい。


女神様は、気もそぞろに去って行った。

恐らく、他の神々に資料を共有しに行ったのだろう。


俺は膝をつく。


「ご主人様・・・お気を強く持って下さい・・・」

「うさあ・・・」


オトメとルナナが、心配そうな顔を近づける。


「お前等のせいだああああああああああああ」


叫ぶ。


だが、そのか細い叫びは。

戸惑いながらも広がる・・・俺の名を呼ぶ声に、かき消された。


宝王アークトレジャー、シルビア!

原点にして頂点の英雄王シルビア

統べる存在マスター・オブ・至高の六王ヘキサグラム


おいこら、何で情報が追加されて行くんだ。

誰だ、情報リークした奴。

リーク?

むしろ捏造した奴。


俺の名を叫ぶ波は・・・ますます強くなって行く・・・

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