第78話 飛ぶ鳥に凄いと言う様なもの

「・・・さて、そろそろ去らせて貰うよ。面倒事が有るのでね」


女神様はそう言うと、溜息をつく。


「大変ですね。どうかされたのですか?」


俺が何気無しに尋ねると、


「龍樹種ですね」


オトメが答える。

女神様が、目を見開く。


「・・・何故それを?」


「餅は餅屋ですので」


女神様の問い掛けに、オトメがすました様子で答える。

何だろう?


「侵略的次元渡航種ですよ。女神様管理の世界の1つに侵入され、掌握されてしまったのです。隔絶状態になり、駆除も難しい状況の様ですね」


「・・・間が抜けていた。丸ごと消すのも難しいから、どうしたものか・・・元の住民はほぼ全て苗床となった様だ」


女神様が忌々しげに呟く。

本気で神敵なんだな。

・・・地球は大丈夫だろうな?


「宜しければ、穴をお開けしますよ?これでも、かつては次元渡航をした経験も有ります」


「いや、キミ、勝手に日本に行ってるよな。・・・いや、今はそれは言うまい。穴を開けられるなら、開けて欲しい」


「御心のままに」


オトメが、深々とお辞儀をした。


--


醜悪、吐き気、悪寒、警鐘・・・


流れでオトメについてきたが・・・もう帰りたい。

次元渡航・・・得も言われぬ空間を跳ぶのは、まだ良い。

女神様の張った泡に包まれて移動しているからだろう。


だが・・・に辿り着いた瞬間、後悔した。

何だ・・・これは・・・?


眼の前の巨大な壁・・・その向こうから・・・?


「どうしたにゃ?」


トキが、不思議そうに尋ねる。


ついてきたのは、オトメは当然として、俺、ロリア、トキ、ルナナ。

そして、女神様、月花、フェリオ、メイル。

オールジョーカー。


見回すと、苦しそうにしているのは俺だけ・・・?


「キミは・・・聞こえているのかい?本当に鋭いね」


女神様が、面白そうに言う。


「キミのその辛さは・・・世界の悲鳴を聞いたからだよ。今まさに寄生され、存在ありかたを改竄される苦しみ・・・守るべき存在を暴食される悲しみ・・・本当に反吐が出る」


女神様の目つきが、鋭くなる。


「良い悲鳴こえで鳴きますね」


オトメが恍惚として言う。

好みの声らしい。


「では、こじ開けますね」


オトメが手を伸ばし──


ヴォン


無数の蒼い魔法陣が浮かび上がり、飛び回る。


「・・・何だ・・・この・・・読めない魔法式は?!いや・・・これは・・・まさか・・・」


ロリアが叫ぶ。

と言うか、オトメって魔法使えたのか。


「・・・流石だね。此処まで・・・霊真エーテル系列の魔法式を操るとは」


女神様が、忌々しげに言う。


「・・・やはり・・・これが霊真エーテル系列・・・私達が目指した到達点さきの遥か高み・・・」


ロリアが、呆然と言う。


「オトメは、そんな物を扱えるのか」


「・・・ご主人様・・・その発言は、従者として少し恥ずかしいです」


え。


オトメが、困惑した様に言う。


「次元渡航種が霊真エーテルを扱えるのは、飛ぶ鳥に凄いと言う様なものです」


「・・・そうなのか?」


いつもの冗談なのか、そう見せかけて本当に恥ずかしいのか、分からん。


「例えば、コウテイペンギンやダチョウが空を飛んでいても褒めますか?」


「・・それは褒めるが・・・と言うか、驚くが・・・」


そいつ等は鳥だが、飛ばねえよ。

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