第64話 かすり

ゴウッ


ジャイアントゴーレムが、腕を振り上げる。


レジェンドダンジョン、天空城の攻略。

参加メンバーは、俺、ロリア、オトメ、ルナナ・・・そして、トキ。


ジャイアントゴーレムの攻撃を、トキは危なげ無く躱し・・・


「トキ、駄目だっ」


「・・・!」


俺の指摘に、トキが焦る気配を滲ませる。


俺は、ジャイアントゴーレムに肉薄すると、


ゴウッ


ジャイアントゴーレムの一撃。

それを・・・足に重さを感じつつ、間一髪躱し・・・目の前を、ゴーレムの腕が流れ・・・


バランスを崩した上半身に、気力と魔力を流し、態勢を整え・・・


何とか距離を取る。


<種族レベルが12,332上がりました>

<ファーストジョブレベルが48上がりました>


「・・・12,332レベルの上昇・・・悪く無いな」


今の、すごく上手く危なくなれたな。

このレベルの敵相手では破格に上がったと思う。


「桁がおかしい、と言うか、躱すだけでレベルが上がるにゃあああ?!」


「・・・いや、こうやって、かすり、でボーナス稼いでレベル上げるのは基本だろ?」


「かすりって何にゃあああああああ?!」


ああ、そうか。


「勿論、かすりだけじゃ駄目だ。前提として、足が重いのを感じ・・・不利にするのと・・・後は、脱力して、魔力障壁を消しておくのも有効だな」


「死ぬにゃああああああ」


「ハイリスク、ハイリターンだな」


LJOでは有り得ない手段だ。


今日は・・・先に進むのは無理か。


「トキ、もう一度やってみよう」


「無理にゃ・・・もう無理にゃ・・・」


「トキ・・・お前なら・・・できる」


トキの肩を持ち、目をまっすぐに見て、低い声で囁く。


「シ・・・シルビアさん・・・」


トキは、実力に比べて、自分に自信が無いようだ。

真摯に気持ちを伝えると、分かってくれる。


トキは、ゆっくりと踏み出すと・・・


ブオンッ


ジャイアントゴーレムの一撃を、さっきよりはぎりぎり躱す。

いったか・・・?!


「4・・・も・・・上がったにゃ・・・」


ジャイアントゴーレムから距離を取り、宣言する。

・・・まあ、最初はこんなものか。


高難易度ダンジョンなので、フィールドボーナスが期待でき。

強敵をロリアの魔法で弱体化。

トキの強さに合わせ・・・レベル上げ。

まだトキは1万レベルに達しない・・・レベル上げが必要なのだ。


危なくなり方はまだまだだが・・・此処で大切なのは、自己肯定感だ。

継続は力なり。


「良いね、トキ。良いよ、良い感じだよ・・・さあ、もう一度やってみよう」


「にゃあああ・・・にゃっ」


ブオンッ


直前に躓き、バランスを崩し・・・それでも、何とか躱し・・・


「304上がった・・・にゃ・・・」


良し、格段の進歩。


「良いねえ、次いってみようか」


「にゃあああ?!」


ブオンッブオンッ


別の個体が追加され、トキが逃げ惑う。


「良いねえ、そうそう・・・その感じ」


レベルアップの宣言は無くなったが、PT情報を見れば順調に上がっている。


「にゃああ・・・」


何とか距離をとることに成功したトキ。

ふむ・・・


「良いね。今のを・・・あと3セットいってみようか」


「にゃあああああああああああああああああ」


トキが、意気込みのこもった雄叫びを上げた。

最初からレベルアップすると、身体がついていかないしな。

これが終わったら、休憩しよう。


--


「死ぬ・・・死ぬにゃあ・・・」


「よしよし、もう大丈夫だよ」


トキを抱きしめ、頭を撫でる。

耳元で、落ち着いた声音で話す。


少し離れた場所に、焼け焦げたゴーレム。


足がもつれ、転び、ゴーレムの攻撃が直撃しかけたのだ。

ぎりぎりでロリアのバリアが間に合ったので無傷だが、怖かったらしい。


レベルは、3万・・・初日にしては上出来、か?

トキは、理論的な事は優秀だが・・・感覚的なものは苦手な様だ。

こう危ない感じで、とか、だるうって感じで、とかが通じない。

反復練習しかないか・・・


「身体が・・・熱いにゃあ・・・眠気が・・・」


「レベルを急激に上げすぎたのかも知れないな。少し眠ると良い」


「ふにゃ・・・何処にも・・・行かないで・・・」


「ああ、ここに居るよ」


「ふにゅ・・・好きぃ」


ぽふ


トキが身体を俺に預け、寝息をたて始める。

ヤバい、可愛い。


さて・・・最低でも、レベル100万は無いと話にならない。

しばらくは・・・レベル上げだな。


--


「しまった!」


サクラが叫ぶ。


ケイブウルフがサクラの脇を駆け抜け、エレノアに迫る。


ガッ


ユウタがメイスでケイブウルフの牙を受け止め・・・


ジャッ


受け流し、ケイブウルフはユウタを抜き・・・


ひゅっ


きゃうん


俺が放った矢で、ケイブウルフは倒れた。


「もう少し、腰を落として・・・姿勢を安定させないと。敵を押し止める力が弱くなるぞ」


「・・・難しいな」


サクラが悔しげに呻く。


今日は、ギルドメンバーと、狩りに来ている。

制限ダンジョン+高難易度にし、かつ、俺がメインで戦わずにいざという時のサポートに徹すれば、何とか戦いになっている。


「トキが抜けた穴も、結構痛いんだけど!」


レイが叫ぶ。


「そうは言ってもにゃあ・・・戦闘が上達し過ぎて、シルビアさんから待機命令が出たからにゃあ」


戦闘技術の向上と、各種スキル、魔法を習得したせいで、トキの強さが跳ね上がっている。

クラス選択も、忍王/冥王・・・万能型だ。

みんなに混ざって普通に狩りをすれば、一人で全部倒してしまう。


俺達の役目は、敵が前衛を抜けた時と──


「フレアアロー、にゃ」


ひゅっ・・・ごおおおおおおおおおうん


みんなが捌ききれない量の敵が出た時に、間引く事だ。


「・・・僕のインフェルノより派手ですぅ・・・」


エレノアが呆然と言う。


「今のはインフェルノじゃないにゃ・・・フレアアローにゃ」


「聞こえてましたよぅ?!」


尚、その気になれば、威力調整もできるらしい。

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