第二部、第二章

第62話 泳げる魚

「すまない、待たせたか」


「大丈夫ですよ、まだ2時間も前です」


俺の謝罪に、彼女──解子が微笑む。


艶の有る、漆黒の髪を腰まで伸ばし。

綺麗な顔つき、理知的な雰囲気。

ほっそりした体つきは女性らしく・・・スーツ姿の時よりは胸が有る気がする。


(パッドですかね。気になります)


気にしなくて良い。


今日は、スポーディーなシャツに、ジャケット、ジーンズ。

お洒落で、色っぽさもあり、可愛さも有り・・・センスが良いなあ。


「解子さんは、いつ来たんだ?」


「今来たところです」


解子が、再び微笑む。

本当か?


(公共交通機関を利用したようですね。カードの履歴をトレースして・・・始発で来たようですね)


調べなくて良い。


トキ──解子と付き合う事になった。

経緯は分からない。

オトメが何かしたのか・・・?


(ご主人様が何故分からないのか、分かりません)


やっぱり何かしたのか・・・


ただ、勿論、嫌なわけでは無い。

人物的にも好ましいし・・・それに、顔も、雰囲気も、好みなのだ。


(胸はもっとあった方が良いと思っていますが)


思ってない。

あまり大きすぎても・・・アレだし。


初デート・・・俺も、解子も、デートの経験なんてなかったので・・・

定番のデート、を調べ、水族館に行こう、という結論になった。


「行こうか」


はぐれるといけないので、解子の手を持つ。

・・・うわ、柔らかい。

そして、温かい。

つい、にぎにぎしたくなるが、そんな事はしない。


「は、はい」


解子が手を握り返してくる。

・・・やっぱり良いなあ。


現実リアルでは、女性と手を繋ぐなんて、初体験だ。


それにしても・・・


「・・・すいてるなあ」


「今は、立体投影でリアルな物も、空想の物も見れますし・・・そもそも、フルダイブ型のシュミレーターやゲームの方が迫力有りますしね」


「まあ、NLJOで巨大な魔物見た方が迫力有るよな」


LJOの頃は、生死かかってるのに見学ツアーなる訳の分からない連中がいた。


解子が、じっと腕を見てくる。

どうした?

そっと、腕を組む。


ぎゅむ


解子が、腕に抱きついてきた。

うん、可愛い。


水族館は、まあ、オーソドックスな作りだ。

巨大な水槽、巨大な魚や哺乳類、カピバラ・・・一般的な展示種だ。


・・・恐竜?

あんなのいたか・・・?

ああ。


「・・・立体投影ですね。少し旧式なので、照明を暗くして誤魔化してますね」


「・・・何とか客を呼び戻そうと頑張ったんだろうな」


今でこそ、一般家庭にも普及した立体投影だが。

あの機種は、まだ高かった頃のもののはず。

ほんの2年程で、性能が飛躍的に向上・・・値段は10万円前後に。

まあ、処分品を買い叩いた可能性は有るが。


「館長さんの所に行って、巨額の投資をしたのに閑古鳥、自宅で行ける電脳水族館は連日盛況、今どんな気持ちか聞きたいですね」


「やめろ」

「だめですよ!」


オトメに、俺と解子、同時にツッコミを入れる。

・・・と言うか・・・


「なあ、オトメって・・・何処にいるんだ?」


実体が無い?


「え、それはどういう意味でしょうか?何か哲学的な問いですか?」


オトメが、困惑した様に言う。


「純粋に、何処にいるのか知りたいですね。見えないし気配も無い・・・どころか、声が何処から聞こえて来るのかも分からないです」


「私も知りたいな」


解子、ロリア。


オトメは、困惑した様に、


「えっと・・・皆さん・・・何故、普通のスマホの筈なのに、ロリアさんを演算できるのか・・・そう考えれば、普通に私が今、何なのか、分かりますよね?」


・・・?!


「な・・・このスマホが・・・オトメなのか?!」


ロリアが、驚きの声を上げる。


「なるほど・・・」


解子が、頷く。


あれ・・・でも・・・


「このスマホ、NLJO始めるより前に、店頭で買ったものだぞ??」


「そうですね、そのスマホは、間違いなく御主人様が買ったスマホです・・・故に、私とそのスマホに因果関係は有りません。気になります・・・何故ロリアさんは、そうやってそのスマホで演算できるのでしょうか」


・・・


疲れる。


「・・・結局、何処に・・・?」


解子の問いに、


「此処ですね」


ひゅお


俺の肩に、球体状の機械が出現。

オートメディックの通常形態。


「気、光、質量、電磁、霊、重力・・・色々と偽装し、します・・・これでも一応、神敵たる侵略的次元渡航種のマザー種相当・・・言わば、種族のアキレス腱・・・神ですら容易には見つけられない隠形スキルを有しているのは、確定的に明らかです」


「・・・言われて見ればそうか・・・」


「え、神敵?侵略?マザー?」


解子が、何か気になったのか、慌てだす。

落ち着かせる為、頭をぽんぽんとしたあと、抱きしめる。


「あの・・・NLJOから現実リアルには、どうやって来たのですか?」


解子が尋ねる。

ロリアは、何故か分からないと言ってたな。

オトメもか?


オトメは、前方のカメラを大きく見開くと、


「・・・それは・・・本気で仰っているのですか?」


これ、またややこしい事言った後、分からないとか言うパターンだ。

もう飽きたよ。


オトメは、困った様な声音で、解子に向かって、


「侵略的ですよ・・・?次元移動ができなければ話にならないですよね?貴方は、魚に泳げるのかと聞くのですか・・・?」


・・・あ。

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